ヴァンパイアとタツノオトシゴと(9)
石造りの通路を歩く。
薄暗い通路が見るからに悪魔城って感じだ。
それにしてもお姫様の部屋から随分とご主人様の部屋が離れてるな。
夫婦じゃないのか。
しばらく歩いて明らかに雰囲気の変わった扉の前で止まった。
「着きましたぜ、中でご主人様が待ってますわ」
「はえ~、ここだけ金掛かってんなぁ~」
「まあ、城の主ですからなぁ、ま、相当怒られるかもしれませんけど、殺されないといいですね」
「いやいや、自分の嫁を殺さないでしょ」
「ええ、本物なら、ね」
「え、あっ」
バレテーラ。
「なんで私をここまで?それこそご主人様を殺す暗殺者とかかもしれないのに?」
立派な髭を人差し指と親指でクリクリしながらうーんと数秒悩んでニカッと笑う。
「一つ、あの姫様と会話したのは数日でしたけどね、結構個人的には優しくて気に入ってた、二つ、人間に倒されるほどご主人様はやわじゃない、三つ、あの姫様に瓜二つのあんたが何者なのか、これは好奇心ってやつ」
言いながら扉をノックしてゆっくり扉を開く。
「先に警告しておきますけどね、私はただの人間じゃないですよ」
「そうだろうな、だと思ったぜ」
部屋に入るとワイングラスに赤い液体を入れて傾けてる見た目二十歳前後の美青年が高級そうなソファに斜めに腰かけていた。
「お前は……誰だ?」
「あら、こっちは初っぱな別人だってばれちゃいましたか」
「顔は似ている、が、匂いが違う、魔力が違う、何もかも違う」
次の瞬間には私の首に長く鋭い爪が当たる、金属音の様な高い音。
ほぼ零距離。
瞬時に私から離れてソファの前に立つ。
「余の爪が欠けただと……?」
僅かに赤い筋が私の首元に付く。
ハイドラの皮膚にここまでダメージを与えるやつ久々だな。
「いきなりご挨拶ですね」
「ふ、ふふっ初めてだぞ、余をここまでコケにして生きていた奴は」
「いや、部屋に入っただけなんですけど」
「余はエリシュの魂に惚れた、それを穢した罪、万死に値する」
エリシュ?
あのお姫様の名前かな。
「お姫様に逃げられるようなことしたあんたが悪いんでしょうがよ」
だから私は悪くない。




