ヴァンパイアとタツノオトシゴと(6)
「その……非常に恐ろしい光景をお城で見てしまったので……磔にされた女性の遺体を」
「それはつまり、その城の主の仕業か」
頷いて、続ける。
「それも一人や二人ではなく、十、二十、いえ、もっといたかもしれません、恐ろしさで逃げ出してしまいましたが……やはり私、戻ります!あの方が私の替わりに殺されてしまいます!」
確かに人質を取られた姫の行動にしては脱走は褒められたものではないが余程恐ろしい光景だったのだろう。
まだ見た目二十代前半の娘には、特に箱入りで育てられたとなればとても耐え難いものだった筈だ。
「よく逃げ出してくれた、そしてよく我々を見つけてくれた、もう怯えるな、私達がついている」
「おーおー出た出た、タリアの女たらし」
「おいそういう風評被害やめろ、確かに顔は似ているが在り方が全然違うだろう」
「在り方、ねえ」
座りながら茶化すヴィヴィが立ち上がりエナ達が去っていった方向を見る。
「まあなんでもいいけどね、ほら負け犬だけ帰ってきたよ」
負け狼の間違いだろう。
トボトボと情けない雰囲気を醸して独り帰ってくる男が見える。
やはり男なんて信用出来ないな。
「姫、ご安心下さい、あの者は必ず助かります、そして姫の領地も取り戻してみせます、王都の名の下に、そしてマザーに誓って」
「マザー……とは?」
「ふふっまあ、神の様な者です、後は我々にお任せを」
「おーい、戻ったぞー」
「おい駄犬、姫を任せるぞ」
「だぁっ!?誰が!」
「女を置いて一人で帰ってくるのが駄犬で無ければなんだ?」
「んぐぐっわかったよ、そっちは頼んだぞ」
すれ違い様に駄犬にデコピンをして車のドアを開けてヴィヴィと二人で乗り込む。
ずっとエナが座っていた席だが、この丸い輪っかは何の役目がある機械なんだろうか。
結局エナもこれを弄りもしてなかったし不明なままだが。
「モイラ、頼めるか」
『はいはーい、母親を取り戻すのは娘の役目でーす』
姿がない。
声だけ聞こえる。
「出てこないのか?」
『うーん、なんかママにそっくりすぎて落ち着かないというか、びっくりさせちゃうと可哀想だし』
まあ判らないでもない。
言い終わるといつもエナが座ってる時と同様に機械が低い唸り声を上げて動き始めた。
窓を開けて姫に軽く敬礼をしていざ出発。
「ヴィヴィ、準備はいいか」
「いつでもいいよー、まあ私ら行かなくてもいい気もするけど」
「まあそういうな、私達の仲じゃないか」
「それもそうね」
車の中からヴィヴィが姫に手を振る。
さて、一体どんな化け物が出てくることやら。




