ヴァンパイアとタツノオトシゴと(5)
「私の名はエリシュ・ジン・ヴォリンドレッド、誇り高きヴォリンドレッドの一人娘ですわ」
ヴォリンドレッド、聞いたことがある。
というか凄い名家だった気がする。
まだ私が騎士団長をやっていた頃に一度だけ王に会いにヴォリンドレッド家の当主が来たことがある。
相当前だな。
あの頃は黒い髪の好青年だったが。
まあ人間とは年を取るのが速い生き物だ。
あの青年の娘ということか。
「で、そのヴォリンドレッドの娘が何故魔界に嫁いだんだ?」
「まずはそれについて、我がヴォリンドレッド家はそれなりに広い領地を持っていました」
それなりに、というか相当広い領地だったと思ったが。
「始まりはその領地にある小さな村が魔族に襲われた事でした、次々と魔族の群れが現れて領地を攻めていったのです」
「そんな話聞いたことがないぞ」
あんまりに酷い話が王の耳に入った時は騎士団が出向いたりするはずだ。
あのデオ率いる騎士団がその辺の魔族に引けを取るとも思わないし。
まあ今の騎士団が動いても私の耳に入ってくるとは限らないがそういう事があれば私が王都に寄った時にそういう話も聞いてもおかしくない。
実際そうやって派遣された先でラヴィを救出したんだし。
「実はヴォリンドレッドには私兵団がいたのです、領地から集めた猛者達で父も自信を持って戦いに赴かせていたのですが」
「信用しすぎたら負けてしまったと」
目を伏せて小さく頷く。
「団長以外は全員嬲り殺し、団長も私達の前に満身創痍で連れて命を助けたければ私を差し出せと」
「ん?ジロの話では結婚の話を知っていたようだが」
「実は私はその団長と婚約をしていたのです、ジロさんが言っていたのはそちらの方で」
「なるほどな、だが君が逃げてしまってはその領地の方が危ないのではないか?引き換えだったのだろう?」
「それは……」
言葉に詰まる辺り何かヤバい物でも見たか。
震える腕を自分で強く掴んで自分を抑えている様だ。




