ヴァンパイアとタツノオトシゴと(3)
馬に乗る事大体三十分ぐらい。
森が急に開けて崖の様な場所に出た。
海に面している崖の先に大きな城が見える。
「マンガか?」
「姫様?どうかしましたかぁ」
「なんでもないでーす」
姫様こんな場所に嫁ぐ前に逃げようよ。
そんなにこのお城の主が好きだったのかな。
でもそしたら逃げないよな。
馬が走る中、急に後ろから叫び声が聞こえた。
「むぎゃ!いってえ!」
馬を止めて振り返ると馬から転げ落ちてイッヌ特有、と言ったら怒るか、狼特有の長い鼻を押さえて涙目でのたうち回っているジロ。
「何やってんの?」
「な、なんかとてつもなく硬いもんに阻まれた」
髭モジャ男が馬に乗ったままニヤニヤしながらジロの前まで行った。
「そいつは結界だ、ご主人様が認めた相手しか入れなくなってる、城の領地内だけだけどな、つまりここから先はご主人様の敷地って事だ、じゃあな野良犬」
「のらっ!?俺は人間だ!」
姫様が逃げ出したって事は中から出る分には平気なのかな。
「入れないんじゃ仕方ない、ジロ、そっちはそっちでよろしく」
「ちっ仕方ねえな」
馬だけ結界の中に入って来た。
これは敵として見られてるのか、それとも味方ではないとして見ているのか。
ジロが立ち上がるとその横をさっきジロにどつかれたゾンビ兵が歩いて結界内に入って来た。
そのゾンビ兵がジロを一瞬見た。
ドヤ顔をした様に見えた。
「あぁ!?やんのかてめえ!」
いつもの鋭い爪で結界内のゾンビを狙うがバチバチのガリガリに弾かれて届かない。
不様。
「おめーも笑ってんじゃねえぞ!」
「わ、笑ってないよ、やだなぁ、いや、いやですわぁ、おほほほ」
さっきまで普通に話してた気がするけど。
わろける。
回れ右して森の中に戻っていく。
タリアさん達と合流してお姫様をうまく逃がしてね。
あ、せめてお姫様の名前だけでも聞いておけば良かったか。
「さ、行きましょう姫様、早く帰らないとご主人様の怒りが収まらなくなっちまう」
「そ、そうですわね」
おー怖い怖い。
いったいどんな奴なんだご主人様。




