サキュバスとアンコウと(完)
「姫さん!」
「まあジロさん!数日ぶりですわ!」
私と同じ顔でお嬢様みたいな喋り方しないで欲しいのですわ。
所々汚れた白いドレスを身に纏い馬を私達の前に停めて華麗に飛び降りるとドレスの両端を持ち丁寧にお辞儀した。
アグレッシブだ。
その後で私の顔を凝視する。
「あら、生き別れのお姉様かしら」
「残念ですけど私の下には弟しかいませんよ」
「ええ、残念ですけれど私も生き別れの姉はいませんわ」
なんやねん。
わたくしって。
「貴女の話は実は小耳に挟んでいましたの、王都を救った戦乙女が私と瓜二つだと商人から聞きましたわ」
「商人?」
「ええ、小柄な薄目の魔界の素材を売って歩く少女の商人です」
行商ちゃんか。
女狐。
戦乙女ってなんやねん。
こちとら英雄様やぞ。
王都が既に懐かしく感じる。
「それで、どうしたんだよ姫さん、確か俺があんたの国を離れる時結婚が何とかとか言ってなかったか?」
一緒お姫様の顔が曇る。
「それが……あ、話している場合ではありませんの、追っ手が迫っていますので」
「追っ手、ねえ、同じ顔のよしみで手助け致しましょうか?」
「それはその、有難い申し出ですが、お顔が似ているだけでそんな、お返しも出来ませんし」
「まあまあ、ジロとはもう友達だし、友達の友達って事で」
数秒迷って考え込む動作をしたが思ったより猶予がないらしい。
表情に焦りが見える。
「ま、そう言ってる間に追っ手が来ましたよ、ささ、このテントに隠れて」
タリアさんとヴィヴィにコンタクトを送ってお姫様をテントに押し込めて私の服を同じドレスに変換。
「どう?見分け付かないでしょ」
「何言ってんだ、俺には匂いで一目瞭然だぞ」
「やっぱり犬じゃん」
犬ってネギダメだっけ?
だからさっき鍋食わなかったんかな。
視界の先に騎兵隊が数名とその後ろにちょっと偉そうにしてる一人のオッサンが目に入った。
さて、お姫様は何がどうなって逃げて来たのかな。




