サキュバスとアンコウと(9)
「む、これはプリプリで美味いな」
「プリプリというかフワフワだと思うんですけど、間を取ってプワプワ?」
鮮度いいけどこれ本当に食べて平気だったかな。
今さら遅いけど。
推定五メートルを越える巨大アンコウ、浅めの水溜まりに浸かっていたこいつ、私は毒とか効かないから平気だけども。
「そういえば提灯の所に付いてたのがマネキンみたいな人形でなんとなく私に似てるような感じしてましたけど」
「そうだな、お前に似てるかどうかは分からないが若い女の形をしていたな、そうやって若い男でも誘い出して食うのかもな、サキュバスと協力して、いや、それならインキュバスと組む方が自然だな」
「インキュバスって?」
「サキュバスの男版だ……っておい!食いすぎだぞアホウドリ!」
「だーれがアホウドリじゃ!鍋は早い者勝ちってさっきモイラが言ってたのよ」
ヴィヴィが鍋を食べ進める手が止まらない。
対照的にジロは全く手が進んでない。
「あ、もしかして猫舌?いや犬舌?」
「う、うるせえ!そうじゃねえよ、良くこんなもん食えるなと思ってな」
「肉のが良かった?」
「まあ肉はこの姿になる前から好きだけどな、こうなっちまうと魔王直属の部下といえただの肉塊だなーとか思ってよ」
「そらそうよ、魚介の分際で私の前に立ち塞がったら食卓に並ぶって事を理解して貰わないと」
『ママー』
「こんどはなんですかー」
空中で逆さまに私の前にモイラの顔がにょきっと出てきた。
相変わらずの半透明だ。
『なんか外にママとそっくりな顔の女の人が近付いて来てるよー』
「私にそっくり?」
確かに何か生体反応が近付いて来るのは感じる。
ジロが炬燵をひっくり返しそうな勢いで立ち上がりテントから出ていこうとした。
「ど、どうしたの?」
「前に言ったろ!お前にそっくりな顔の姫さんを知ってるって!」
「……ああ!」
3人で顔を見合わせてテントから出た。
反応がある方、馬車に乗るドレス姿の女性が見える。
双眼鏡を構築してその女性を見る。
「……まじで私と同じ顔だ!」
似てるなんてもんじゃねえ。
一卵性双生児か?
外見年齢も同じぐらいだ。




