サキュバスとアンコウと(5)
剣を向けるとあたし達に背を向けて逃げようとする。
「ひぃっ投了投了!」
自分達からちょっかいかけて来て都合が悪くなったら逃げるなんてそんなの許す訳がない。
「そんなペラッペラの羽で飛べる訳がないよなぁ?」
現実になる。
それがあたしの能力だ。
まるで紐が切れた人形の様に地べたに墜ちて這いつくばった。
「ぎゃあ!?そんな、な、なんで、羽が動かない、い、痛いぃ!」
落ちたそいつの所まで歩いて行くと怯えながら後退り。
「やら、やめ、殺さないで……」
涙で逃げようとするが機能しなくなった羽に剣を投げ付けて地面に固定した。
標本の様だ。
「ああああ!!いだいいぃぃい!!」
「なんでこうもいい女の泣き顔ってのはそそるんだろうなぁ」
「蜜様、発想が変質者のそれです」
あたしはサイコパスなんだろうか。
「や、やだ!死にたくない!チャ、チャーム!」
「目を見ただけで催眠になんて掛かるわけないよなぁ?」
一瞬目がピンク色になって見詰められたがもう効かない。
「な、なんで!どうしてよ!なんで効かないの!や、やめ!」
足蹴にしてうつ伏せにさせて剣が刺さってない方の羽を掴んで背中に足を当てる。
「なに!?やだやだやだやぁ!やめてぇえ!」
「やめてだ?言っただろ、あたしの中のエナを弄んだ罰だ、苦しんで苦しんで苦しみ抜いて死ね」
「ぎゃああああ!!」
ミチミチバキバキと音を立てて背中に生えた羽がゆっくり剥がれていく。
女の断末魔が戦場に響いた。
付け根から結構な量の血が溢れだした。
「許して許して許して許して赦して!!殺さないで殺さないで殺さないで!お願い!!死にたくない!死にたくない!」
「戦場に出たらな、セクシーなねーちゃんでもヨボヨボのじーちゃんでも死ぬ時は死ぬんだ、諦めな、産まれて来たことを悔いながらな」
剣を抜きふくらはぎに突き刺し地面まで貫通させた。
「ああああああ!!いだいいだいいいい!!!いやだ死にたくないぃいいぃ!!!」
「そうか、じゃあ自分から殺してくれって言うまでたっぷり痛ぶってやるからな」
「み、蜜様、やり過ぎでは……」
メイドが止めようとしてくる。
「いや、あたしの気が済むまでやらせてくれよ、あんたは他の場所に援護に行きなって、まだ戦いは続いてるんだろ?殺しはしないからさ」
あたしがある程度本当にキレてるって知って貰わないな。
「そ、そうですか……」
「終わり次第そっちに合流してやるよ、じゃあな」
メイドがあたし達に背を向けて別の場所に向かっていく。
「ひったったすけっ」
「誰も助けてくれねーよ、さっきのアンコウ野郎とあの世で仲良くしてな」
「そ、そうだ!ダゴン様!ダゴン様は!?」
「ダゴン?あいつの名前か、あいつは真っ二つにしてやったぞ」
「そ、そんな、ありえない、無茶苦茶すぎる、なんなのあんた……」
「あたしか?そうだな、通りすがりのヒーローさ」
とてもヒーローとは程遠い事はしてるけどな。




