サキュバスとアンコウと(4)
「さて」
「ん?」
「ここまで来たらもういいだろう?」
「なに?」
「楽しませてもらったぞ、まさか、これが現実だとまだ思ってるとでも?そんな訳ない」
ガラスが割れるように風景が砕けた。
真っ暗な中にあたしとエナの二人きり。
「それがお前の本当の姿か、醜いな」
エナだったものがマネキンの様に真っ白な顔で吊るされている。
その奥に平べったい巨大な顔が現れた。
蛙……いや、アンコウか。
それが低く唸りながらあたしに飛び掛かって来た。
ジャンプして避けるとそいつはブレーキが効かずにゴロゴロと数回転転がって仰向けになりもがく。
「どうやったかは知らないが偽物にしてはいいエナだったぞ、危うくあたしも騙される所だった」
「んんんなぁぜだぁあ!お前の記憶の一番心地いい所に同化していた筈なのにぃい!」
「一個だけ、お前は間違った、エナはな、あたしの事なんて愛してない、いやあたしだけじゃない、誰も愛してないし、全てを愛している、あいつはマザーだからな」
「んんあああ!!そんな訳ないぃ!確かに心の一番暖かい部分を写したはず!なずぇえ!!」
「ま、理想と現実、需要と供給が両立されてなかったってだけだ」
いつの間にかあたしの服装はいつものネコミミパーカーに戻っていた。
「あたしの能力は嘘を本当にする力、真実を照らす力、そして真実を造る能力、お前ごときが相手になるわけがないだろう?提灯鮟鱇」
「んんぅ!ぐあぁああ!!我こそは魔王様直属の……あ?」
アンコウがエナのマネキンごと綺麗に真っ二つに割れる。
耐え難い生臭さが充満する。
本物にした剣を振り付いた血を払う。
「うぇっくさっ帰ろ」
剣で真っ暗な空間を切り裂く。
割れた所から光が溢れだした。
「本物のエナは愛してるなんて安い言葉はあたしに向けない、そこがいいんだ、もう少し少女漫画読んで勉強しな、あたしからの宿題だ」
綺麗に真っ二つにしたのはちょっとはいい思いさせれくれたせめてものお礼で苦しまない様にしてやったという感じだ。
一瞬でパッと視界が開けた。
「蜜様、ご無事で?」
「嘘!ありえない!私のチャームを中から破るなんて!」
あたしのすぐ後ろに褐色エルフメイドがいた。
そして目の前ちょっと上空にコウモリみたいな羽根と曲がった角の生えた同じく褐色の色々見えそうな格好のエロい女が飛んでいた。
エナと比べたら乳も小さいな。
あたしはどうやら棒立ちだったらしい。
いつもの格好ではあるが剣を握ったままだ。
周辺では兵士達や魔族達が戦っているのが見える。
「あたしはどのくらい寝てた?」
「時間にして五秒ほどです」
「なるほど、おい飛んでるお前!案外いい夢だったぞ、でもな」
飛んでるそいつが怪訝そうな顔であたしを見る。
「あたしの中のエナを弄んだ罪は万死に値する」




