表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも私は釣りに行く!  作者: naoてぃん
214/272

サキュバスとアンコウと(2)

寄せて上げて寄せて上げて。

「こーら、ふざけて無いでいくよ」

メガネを外し教壇まで歩いて行って置いていく。

「しょうがない、帰るか」

餅クッションめ。

夕暮れにエナの背中が映える。

真っ直ぐ歩いてるだけでモデルの様だ。

ゆっくりに見える。

あたしの動体視力がどうとかの話じゃない。

時間すら遅らせる美しさだ。

「蜜さぁ」

こちらを振り向きもせずに声だけ掛けて来た。

「なんだ」

「……」

「……」

「呼んだだけ」

「……ふぅん、なぁ」

「なに?」

「これも現実だよな」

「そうだよ、当たり前じゃん、タピオカ飲みいこ」

鞄の中の財布を確認する。

そういえば今月ピンチだった。

「奢らないけどそれでもいいならいいぞ」

「ケチ」 

バイト代が入るの来週だしな。



間違いなく現実だ。

 


あたしが金欠なのも。



バイトしてるのも。



この空気感も匂いも。




数日後。

「らっしゃーせーってエナか」

「やっほー、来ちゃった」

土曜の昼時、弁当屋でバイトをしていたら釣り竿とクーラーボックスを抱えてベストを着たいつものエナが来た。

来ちゃったって彼女かよ。

実質彼女だった。

まだ昼下がりだが。

「釣れたのか?」

クーラーボックスの中身を開けて見せてくる。

「釣りの才能ないんじゃないか?」

「ひど、好きでやってるからいいんです」

「弁当買ってけ」

「一番安いやつ」

「のり弁な」

二百五十円だけカウンターに置いてあたしから弁当の入ったビニールを受けとる。

「昼時に空いてる弁当屋やばくない?」

「うるせーな地域密着型の店なんだよ、夜のが売れるんだからいいんだよ」

奥から店のおばちゃんが出て来た。

「蜜ちゃん、もういいよ~、エナちゃんとデートしてきな~」

「いやー悪いっておばちゃん、流石にあと一時間あるし」

「いいって~どうせ暇だし」

割烹着姿の五十代のマダムだ。

このおばちゃんが作る弁当が安いし美味い。

田舎ならではのアレだ。

そのマダムが弁当を一つビニールに入れてお茶と一緒にあたしに渡して来る。

「おばちゃんのおごりだよ、いいから行きなって」

「ええ~?そ~お?じゃあお言葉に甘えて」

エプロンと三角巾を取って荷物を持って外に出る。

「バイト代から引いといていいからね」

「いいんだよぉ~ババアの親切心だと思いなって」

いいおばちゃんだわ。

じゃないとあたしみたいなひねくれ者雇ってくれないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ