サキュバスとアンコウと(1)
キーンコーンカーンコーンと遠くから聞き慣れたチャイムが聞こえてくる。
遠退いていた意識が戻ってくるかの様に、体と魂が同調する様にあたしは目を覚ました。
夕暮れ時の見慣れた教室だ。
遥か遠くに感じていたチャイムは教室の教壇の上に設置された所から聴こえていたようだ。
「あ、起きたんだ」
あたし以外誰も居ない教室だと思っていたが声に振り返るとこの世でもっとも見知った顔が珍しくメガネを掛けて読書をしていた。
どうせ魚か釣りの本かと思ったらチラリと見えた表紙には世界一有名な名探偵の名前が書かれていた。
「推理小説なんて珍しいじゃないか」
半分寝惚けてる気がする、気分がフワフワしているがわかってる事が一つだけある。
こいつメガネ掛けててもめっちゃ美少女だな。
抱きたい。
ムラッ。
「たまにはね、教室の後ろの本棚に入ってたから読んでみたけど普段読まない本もたまには悪くないね、メガネは教壇に置いてあった」
それ先生のだろ。
くっそかわいいな悔しい。
「……あれ、そう言えばあたしは何をしていたんだったかな」
思い出せない。
なんだかファンタジーの世界にいた気がする。
「どうしたの?蜜が居眠りってだけでも珍しいのにそんなボケボケしてるなんて漁船でも降るんじゃない?」
「そんな独特な返しお前しかしないぞ」
なんか剣と魔法の世界で戦ってたような?
「昨日新しいゲーム買ったからって遅くまでやってたんでしょ、目赤いよ」
そう言って手鏡を見せてくる。
確かに目が赤い。
ああ、そういえばほぼ寝ずにゲームしてた……んだ。
あれ?そうだったか?
「……というか手鏡?お前そんなもん普段持ち合わせてたか?」
「いや、蜜は私をなんだと思ってる訳?これでも女子だよ?ねぇ」
なんだか狂う。
どこかおかしい。
違和感はそこら中にあるのに……逆らえない。
「……そうだったか、まあ、もう放課後なら帰るか」
「うん、帰ろ、私達以外皆帰っちゃったよ」
机に掛かった鞄を取り立ち上がる、目眩に近い感覚てフラついてしまった。
顔面がエナの胸に不時着した。
そうそうこれこれ。
頭の片隅にいた違和感がフニフニに殺された。
「蜜ぅ、まーたわざとそういう事するぅ」
「い、いや、ほら、寝起きだからちょっとフラッとな、帰るぞ」
感覚も、声も、匂いも、柔らかさも、全てがあたしの愛するエナだ。




