魔界とマダイと(12)
「内臓出して三枚下ろしって言ったのに」
石化してたのは足の部分だけ。
ぶつ切りじゃん。
鯛の全身を解体し終わったジロが急ブレーキで姿を現した。
呪いの爪に紫色の液体が付いてる。
鯛の血の色じゃないな。
「何下ろしだかなんだか知らないが食べるのやめといた方が良さそうだぞ」
「なんで?脂は乗ってそう……うぇ!?なんだこの肉」
色は確かに脂の乗った鯛の身だけど身がプシュープシューと紫色の煙を噴く。
ジロの爪に付いてる液体と同じ色だ。
「こいつは溶解液だ、いくらあんたでもただじゃ済まないだろうな」
「なるほど、それは使える」
近くに落ちていた煙を噴いている肉を分解した。
なるほど、こうなってるのか。
「また何かしたのか、なんなんだあんたのその魔法は」
「え?あーうんと、なんでもかんでも分解する魔法かな?一度分解した物は何か余程の理由でもない限り好きに作れる」
余程の理由で今地球が再構築出来ない訳だけども。
「さっき散々金属を出していたのはそれか」
「そういう事」
忘れていた。
生成したミスリルを全部分解しておこう。
「あれらは……ミスリル製か、凄い能力だな、触る必要もない、これで魔王と同等か、というかあんたが魔王なんじゃないのか?本当は」
「どういう事やねん、そんな訳ないでしょ」
「ミスリルと言えばこの世界にはミスリルに並ぶ硬度を誇る金属がもう一種類存在しているぞ、確か名前は……そう、オリハルコンとかいう」
ゲームとかで聞く単語だな。
ミスリルに関しては地球にもあったけど物質としては違う物だった。
多分類似してるって意味で認識が変換されてるのかも?
それもその内分解してパーフェクトエナになろう。
「ただそれは本当に存在しているかも解らないけどな、噂で聞いただけで」
「ふーん、まあ頭の片隅にでも置いておきますよ」
そんな話一度も聞いたことなかったぞ。
それだけ情報が少ないのか、いや、ミスリルもあまり人に見せた事なかったか。
「それにしても、折角晩御飯確保したと思ったのに、魔王の部下第四位も使えないな」
もしかして部下四人しかいないとかじゃないよね。
そんな訳ないか、王都に軍勢が行ってるんだし。
「さて、これからどうするんだ?そういえばここに寄ったのもあんたがさっきのアレを始めたからなんだが」
釣りね。
「ええ、釣りを続けますよ」
いいポイントだ。
黙ってたタリアさんがジロの肩に手を置く。
「諦めろ、こうなったら満足するまで続けるぞ」
そういや王都でも結構満足するまで釣りしてた。
タリアさんにジッと見つめられた。
「なんです?」
「さっきの石化の能力、使ったのは初めてか?」
「いいえ、二回目です」
そう、今回で二回目だ。
…………
………………
同時刻、山の村近くの洞窟。
ギルドと呼ばれる組織によりハンター数名によるゴブリンの調査隊が編成され近くの村の住人の案内の元、巣穴に入る。
「本当にこの洞窟に住んでいたのか?ゴブリンの大群が?」
「はい、とある旅の方々が誘拐された子供を助けてからは悪さをされていませんけど、間違いなくこの洞窟です」
ここ数日間は農作物を荒らされたり女子供が誘拐される事も無くなっていた。
「しかしなぁ、ゴブリンの巣穴はもっと臭いし……こう、五月蝿いものなんだがなぁ」
そう言って大きな剣を背負ったハンターの一人がぼこぼこの壁に持たれかかるとバキッと音を立てて細い何かが折れた。
「あ、やっべ、ん?なんだこれ、腕の様にも見えるが」
「おい、サボってないで奥行くぞ、どうやら広間があるらしい」
同僚が歩を進めていく。
「おう、今いく」
小さい灯りの魔法で自分が持っている物を見る。
確かに腕の形をしていた。
それが付いていた所を見るとゴブリンの石像が立っていた。
「すげえな、ゴブリンにこんな精巧な石像が作れるのか?小さい頃に姉ちゃんに読んで貰った本のゴルゴーンの話みたいだな」
その本曰く、多数の蛇が付いた頭の女の怪物が伝説の剣士に倒された話、どこにでもある作り話だ。




