魔界とマダイと(10)
「貴様あ!!なんと不敬な!我が名は魔王様の直属の部下、第四位バアルなるぞ!!」
締める準備をしようと思ったら突然唾をぺっぺっと飛ばしながら鯛が叫び始めた。
「うお!喋った!」
魚だけに。
は?
飛びまくる唾が生臭い、腐った魚の内臓の臭いだ。
ヴェェェ。
飛んだ唾が地面をシュウシュウと溶かす。
溶解液という奴か。
ブチブチと千切れる音と共に網を破って立ち上がった。
「化け物じゃん」
「貴様に言われとう無いわ!」
「どう見たってそっちのが化け物じゃん」
「知っているぞ貴様!その風貌!その魔力!魔王様から聞いているぞ!異世界からの来訪者だな!」
モースの部下か。
まあ魔王と言えば部下がいるか。
第四位と言うことは最低でもこういうのがあと三人はいるってこと?
全部魚なら捌ける、いや捌いて見せようホトトギス。
「というかさっきからボリュームがでかいんだよ、五月蝿い鯛だな」
「貴様!先程から不敬が過ぎるぞ!」
しかも食い気味。
酔っぱらいのオッサンかよ。
金曜の夜に駅に居るアレ。
「ふん!魔王様と同等の力を持っているというからどの程度かと思ったらただの小娘ではないか!」
失礼な。
「貴様なぞ一思いに踏み潰してくれるわ!」
一瞬にして目の前が真っ暗になった。
周囲に重い地響きが響き渡る。
「エナ!」
タリアさんの声が聞こえる。
「はっはっはっ!こうなってしまってはその辺の虫と変わらんなぁ!はっはっはぁ!……ん?」
鯛の足が少し持ち上がった。
「んぎぎぎぎ!!ハイドラパワー……オーバーフロー」
(なんだ……もう妾の力を使うのか?)
「少しだけ、お借りしますね!」
(情けない、もう少し休んでいられると思ったのに)
「まあまあ、そう言わずに」
「なっなんだ貴様!誰と話している!なんで我が足がっ!」
私の体から紅い力が流れ出る。
「鯛の分際で私を足蹴にした罪、悔い改めな」
その足を裏から殴る。
握り拳がギチギチと鳴る。
今までのハイドラの力より遥かに強烈な一撃に鯛の体が浮く前に足自体が張り裂けていく。
地雷でも踏んだかの様に鯛の体が跳ねて転がった。
「っしゃあ!やっぱり魔王と戦うともなればこのぐらいの力はないとね」
タリアさんが私の傍に駆け寄ってきた。
「今何をしたんだ?いつもの力より遥かに強大な力を感じたが、ハイドラとは違う力か?」
「ええまあ、ちょっと内緒の力です」
「お前、本当に底が知れないな」
「伸び代だけはちょっとしたもんですよ」
この力を使えば一応呪いもどうにかなりそうではある。
私の中の彼女が協力的なら。
「ぎゃああああ!痛い痛い痛いいいい!!私の足があああああ!!」
鯛がのたうち回る。
「さて、それでは今日はこちらの真鯛ならぬ魔鯛を、捌いてイク」




