魔界とマダイと(6)
犬系動物特有の細長い口から酒を流し込み、拭って再び腰にしまった。
「俺の名前はジロ、元々人間だったがとある呪いでこの姿に変えられて人間に戻る方法を探していた」
「私を襲ったのは?」
「ある男からの依頼だ」
そんな恨まれるようなことした記憶……なくはないか。
こっちの世界でも散々暴れてるしな。
「イイダって男がな、あんたを襲えば元に戻れるかもしれないって言うからよ、ついでにあんたを倒せれば結構な額の金をくれるっていうからよ」
何考えてんだ馬鹿野郎飯田の野郎。
何か考えがあるのか。
「その飯田はどこに?」
「ん?ああ、この爪で結界を裂いて中に入れてやった」
ずるい。
「じゃあ解放してあげるんで」
「わかってるよ、中に入れればいいんだろ」
「魔王の所まで一緒にいきます?」
「そこまではいかん」
同じ様に呪いの爪とやらで結界を裂いて貰って車ごと魔界に入りジロに案内してもらう。
とは言っても入って暫く荒野だったし目印になるような物は殆どなかった。
が、私にとってはそんな事は関係なかった。
アレを見付けてしまったら。
「で、何をしてるんだ?川に糸なんて垂らして」
「気にするな、エナのこれは病気だ」
何が病気か。
水質調査みたいなものでしょ。
いい感じの幅の川を見付けてしまったのでウズウズしてしまった。
限界だった。
「どうなんだ?釣れそうなのか?」
とりあえず解らなかったのでのべ竿に餌は練り餌。
「あんた、それどこから出したんだよ、さっきまで手ぶらだっただろ」
「どこからって言うか、一度分解した物は構造さえわかっちゃえばいつでも何処でも作り出せるのが私の能力なので」
「そんな化け物を攻撃するように言われてたのか、あのイイダって奴も無茶言ったな」
多分飯田の事だから私に呪いの対策でも立てさせる様に仕組もうとしたのかもしれない。
そうは言ってもねえ。
「もう襲う気にもならないでしょう?」
「因みに次襲ったら何されるんだ?」
「タリアさんに八つ裂きにされるか巨大なシャコに押し潰されるかもしれませんね」
シャコ一度分解してるからもう中身は把握してるしね。
それにしても濁ってる川だな。
すぅーっと流れるウキを上げるともう練り餌が無くなっていた。
針を持ってモミモミして無から練り餌を生成する。
こういう釣りは餌をコロコロ変える方が釣れるからまあいい。
「なんだ巨大なシャコって」
「言葉の通りですよっと」
第二投。
なにか釣れるかな。
気配はある。




