昔とフナと(13)
「その前にお前魔法は?火か?水か?雷か?」
「に、肉体強化です!」
なるほどそれはいい、シンプルだ。
「じゃああのビルの屋上で合流な、五分後」
「え?へ?」
前方一キロ程先に一際高いビルが見える。
肉体強化の度合いがどれ程かは知らないが国家の認定チームで戦闘面で信用出来ると言われる程だ。
一っ飛びぐらいしてくれるかもしれない。
「いけますけど、お嬢さんは大丈夫なんですか?」
「心配するな、お嬢さんはお前より強い」
お嬢さんね、これでも一応社会人なんだがもしかしたら身長で若く見えてるかもしれない。
良く童顔とも言われる。
「まあとにかく解散」
パトカーのサイレンが近い。
それで五分後。
「遅かったな」
あたしのが速かった。
「え、ええ?結構早く来たのに」
疲れた様子もない所を見るとそれなりの体力があるかそういうのもカバー出来る能力なんだろう。
「ま、基礎能力と応用力の差だと思ってくれ」
あたしの能力を駆使すればこんな事も容易い。
高速移動も超高度跳躍もお手の物。
「太郎って言ったか」
「は、はい、自分じゃこの名前好きじゃないですけどね」
「魔法使い歴は?」
数秒考えてから。
「半年ぐらいですね」
まだ新米だったか。
「その、悪い奴とか許せなくて、学校のイジメとか成敗してたら偉い人から声が掛かりまして」
「ふーん、なるほどね」
どこから見てるかわからねーな。
あたしのエナの事はMから聞いたのかと思ったけど。
しかしエナはほぼ能力を隠して生きてきたはずだ。
戦闘力において信頼出来るなんて魔法の内容を知ってる奴しか言えないはず。
もしかして人の魔法の内容を見れる能力者でもいるのか?
ふと視線を落とすともうさっきの公園はパトカー数台が停まっていた。
「おい、身体能力を上げられるって視力もいけるか?」
「あ、はい、いけます」
「さっきまでいた公園を見てくれ」
「はい」
あたしに言われるがままにジッと公園の方を見つめた。
「警察と、野次馬と、さっきボコったヤンキー以外に何か目につく奴はいるか?」
「え?いえ、イマイチ違いはわかりませんね」
「……そうか」
まあ紛れてしまえば野次馬にしか見えないか。
「まあいいや、太郎、学生か?学校っでって言ってたし」
「はい、高校生です」
「あたしは蜜、社会人だ、敬えよ」
「え、あ、はい」
まあさっきから敬語だったけど。
「これからはチームらしい、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
軽く握手を交わす。
これから散々虐めてやろう。
順調ななんやかんやで半年後。
チーム編成当初はMの討伐だかなんだかがチームの目標に入ってたはずだがそういう出動もなくあたしもエナも平々凡々の平日を送りながらたまに魔法を使って悪さする連中を懲らしめたりしていた。
まあエナはあまり戦いたくはないらしいからいいっちゃいいんだが。
だが給料面はたしかにいい。
本来の稼ぎにプラスして倍ぐらいくれるからかなり生活は楽だ。
まあいつまでこの生活が続くかどうかわからないから甘えてばかりいられないけどな。
「蜜、今日休みでしょ?」
パスタを作るあたしの背後からエナの声。
「ああ、まあ緊急の出動が無ければな」
「私もー」
そらそうだ。
前日遅くに帰って来て磯臭さをさっさとシャワーで流すだけ流して寝てしまっていた。
「休みだしさ、釣りいかない?」
「仕事も休みも釣りしてイヤにならないのか?」
「仕事の釣りとプライベートの釣りは別なのー」
釣りは釣りだろ。
「まあいいけど、どこ行くんだ?」
運転するのはあたしだぞ。
「さーどこでしょー」
運転するのはあたしだぞ。
「まま、案内するからさ、それ食べたらいこ」
「へーへー」
「ここは……」
「覚えてる?」
多少の開発が進んではいるが間違いなくあたし達の地元の良く見知った川だ。
「今日使う餌はミミズ、アカムシ、サシ」
「……ああ、懐かしいな、良く残ってたなここ」
出会ってから最初に二人で釣りに来た川だ。
「昨日の取材で最初にした釣りはなんですか?って言われてね、私の最初の釣りはお父さんと海だったけど、蜜と最初の釣りはここでしょ?だから、ほら懐かしくなっちゃって」
あの時と同じ、延べ竿に道糸、ハリス、サシ。
「お前ほんと、そういうトコだぞ」
「何が、いいからほら」
言うが早いかエナはさっさと自分の仕掛けを水面に垂らす。
川の流れのゆるやかさもあの時となんら変わっていないみたいだ。




