昔とフナと(12)
「ち、ちなみにいつ頃納品されますか!」
「こちらの書類にサインを頂ければ今日中にでも」
ピラリと契約書が出てきた。
二枚。
「エナはそれで懐柔できるかもしれませんけどあたしにはどうするつもりですか?」
あたしは物で釣られたりもないし金でも動かない。
唯一釣れそうなエナ関連はエナ当人と暮らしている。
「たった今サインを頂きました」
エナがあたしの分のサインと印鑑を終えていた。
キーホルダーのハリセンを能力で巨大化して脳天をひっぱたいといた。
「んぎゃあ!」
からの燕返し。
「むぎゃあ!」
「セキュリティガバガバですね、それでいいんですか」
「ええまあ、サインはサインですから」
イソイソと書類を鞄にしまいニコニコと立ち上がる。
「能力者達の相手は大変でしょうが、給料やその他のサポートは間違いなのでご心配なく、今までのお仕事もこれまで通り続けて頂いて構いません、召集が掛かり次第、よろしくお願いいたします」
魔法使いの事件に対しては警察も手を焼いているらしいからもしかしたら警察と協力することにもなるかもな。
数日後。
エナは地元の釣り番組の収録を終えて今電車で帰ってると連絡が入って家でだらだらと晩飯の準備をしていると突然スマホがけたたましく鳴り響いた。
知らない番号だ。
「あいもしもし」
『こちら特殊能力対策本部です、蜜さんのスマホで間違いないですか?』
「いきなり下の名前で呼ぶとはねーちゃんいい度胸してんな」
若い女の声だ。
特殊能力対策本部。
それがチームの正式な名前か。
もっと無かったのか。
『今リーダーにも連絡をしているのですが、近くで事件が起こりました、直ちに向かって下さい、場所をこのままスマホに転送します』
あ、そういえばそういう契約だった。
あーめんどくさ。
ピッと通話を切ると直ぐに地図が送られてきた。
なんだこのアプリ知らないぞ。
勝手に遠隔操作とかで入れたのかな。
やべーな特殊能力対策本部。
まさか釣り番組見てる連中も出てる女がそんなチームのリーダーやってるなんて思わないだろうな。
因みにエナは無免許であたしの移動手段は車だ。
軽だ。
地図に従いほどほどに飛ばして現場に着くと公園でヤンキーが暴れていた。
ホームレスを虐めてるらしい。
同時に施設も破壊してる。
「おーおー、派手にやってるなぁ」
「あん?なんだガキ、見せもんじゃねえうぐぅ」
手前のヤンキーにワンパン。
「何やってんだてめぇいででで!」
腕を捻って蹴り飛ばす。
ヤンキー達の視線が一斉にあたしを向く。
「あたしも暇じゃねーんだ、死にてーやつから掛かって来な」
帰って飯準備しないといけないからな。
「と、特殊能力対策チームです!手をあげなさい!」
ヤンキー殲滅後、ホームレスを逃がしていると若い男が走って来た。
パトカーもサイレンが近い。
「あん?なんだ同業者か、おせーな」
「え、へ?」
「あたしもそのチームだよ」
そういえば名前しか知らないメンバーばっかりだな。
なんか証明出来る物もないし。
バッチとかそういうのくれればいいんだよ。
「あ、そういえばさっきのアプリにマーク入ってたな、ほらこれ」
アプリをその青年に見せると向こうも見せて来てペコペコしてきた。
「す、すみません!遅くなりました!」
「おう、あんたは?」
「たっ太郎って呼んでください!」
「苗字は」
結構積極的な男だ。
「えっえっとぉ」
名前を聞いてる間に再び電話。
「はい」
『あら、蜜さんいきなりぶっきらぼうですね、それはいいですけど警察に目つけられるとめんどくさいんでそこにいる太郎君と一緒に逃げて下さい』
「いやいやいや、国家権力働けよ」
『まだ結成されたてのチームで色々あるんですよ、エナさんが代表なの忘れてませんよね?』
ピッと強制的に切れた。
「ちっめんどくせーな、おら、行くぞ童貞」
「どっどどっ!?」
女慣れして無さすぎが顔と態度に出てる。




