昔とフナと(11)
揉むというには少し乱暴にパイタッチしてからゆるゆるジーパンのベルトだけ締めてあたしが玄関に出る。
「はーい」
ピザは頼んでないし新聞も断ってる。
いや、新聞ならピンポンしないか。
チェーンを外して鍵を開けるとスーツ姿の初老の男性が立っていた。
背筋がピンと伸びていて姿勢がいい。
「どちら様ですか?」
「突然の訪問失礼します、わたくしこういう者です」
スッと名刺が出てきた。
「はーん、内閣総理大臣秘書官?間違えてません?ここにはしがない女が二人住んでるだけですよ」
「いえいえ、間違えておりません、少しお話があるのです」
奥からエナの声であげていいよと聞こえて来たのでまあエナが言うならと男性を部屋にあげる。
礼儀正しい感じで会釈をして綺麗に靴を脱ぎ入っていった。
追いかけて茶の準備をしよう。
「それで、内閣総理大臣秘書官様がこんな女の城になんの用で?」
エナに真っ直ぐ向き、手提げの鞄から書類を一枚取り出した。
茶を出すとこれはこれはご丁寧にとこれまた綺麗な会釈を返してくる。
エナの肩の後ろから覗き込んだ。
「えーなになに、能力者浄化計画ぅ?いや、あの、あたし達も魔法あるって知ってます?」
「ええもちろん、存じ上げております」
書類のそのタイトルの下を見ると若者による魔法を使った犯罪の抑止、およびM氏の鎮圧とある。
調子のってバンバン魔法配りまくった結果排除されそうになってるとか笑える。
可哀想に。
どうでもいいけど。
「で?」
「はい、つきましてはこちらを」
二枚目の書類、あたしとエナを含めて数名の名前が書いてある。
「特殊チームメンバー?」
「はい、毒をもって毒を制するという方向で話が纏まってきていまして、ここに名前のあるメンバーは全員能力者、および戦闘面において信用の出来る顔ぶれという事で」
エナやりたがらなそー。
「うーん、すみません、興味が無いですね」
「そう仰らず、チームが決定したら貴女にリーダーをやっていただきたいのです」
そう言ってエナに頭を下げる。
「こいつがグループのリーダーなんて務める訳がないでしょう、調べるんでしょう?」
調べてあるから信用出来るメンバーなんて言い方をするんだろうし。
「報酬としまして」
物で釣る作戦か。
金に目が眩むタイプじゃないぞこいつは。
三枚目の写真付き書類をつまらなそうな顔のエナが食いつく様に二度見した。
「えっ!?嘘!まじ!?」
「世界のナンバーワンメーカーに注文しまして、最高級の釣竿を五本セットで如何でしょう」
唯一こいつが食い付きそうな物を提示してくるとはちゃんと調べてるじゃないか。
「リ、リールもあります?」
「勿論でございます、最高品質の竿に最高級の技術を用いて製作されたライン、最上級の技術で製造された一点物リール、そして最高級のルアーまで準備しております」
「やります!」
ヨダレ出てるぞ。
こうなったらあたしが何言ってもダメだろうな。
はぁ。
釣竿なんてどれも一緒だろ。
何が最高級なんだよ。




