昔とフナと(7)
「お、おかえりー、可愛いじゃんパーカー」
「私を誉めろ」
「ほい」
当然の様な顔をして二本目の竹竿が差し出された。
本当に可愛げのないやつだ。
お世辞とかそういうのもないんだろうな。
どんな教育されてるんだ。
「わかったわかった、諦めたよ」
もう大人しく付き合うしかない。
「なら教えてしんぜよう、仕掛けは簡単、竿から道糸」
「道糸?」
「この竿の先に付いてる糸の事、そんでハリス」
「ハリス?アメリカの俳優か?」
「この仕掛けより下の針までの糸の事」
「突っ込めよ」
さっきの木箱とは違う厚紙の箱から太いミミズを取り出しそれをあたしが持ってる竿の先に付いてる針に頭からブスリと突き刺した。
「うげぇ」
「なんだぁ?都会っ子はミミズもダメなのかぁ?」
「それやめろ、言うほど都会っ子でもないし」
そしてドヤ顔もやめろ。
腹立つ。
「まあまあ、それを振り子でうまく川に投げなよ、さっき私がやってたの見てたでしょ?」
「ああ、まあ見てろって、私は天才肌だからなんでも出来るちゃんだから」
「あれ、蜜喋り方なんか変わった?」
「地味子ちゃんとはもう言わせないから」
そんな屈辱かどうかもわからない屈辱があってたまるか。
その日、あたしは人生初の釣りでフナばかりを十枚あげると隣で三枚しか釣れなかった凡人を見下して鼻で笑った。
永遠に語り継いでいこうと思う。
こいつ釣り好きなだけで上手くはないな。
そこから更に数年、中学二年の夏。
「みぃ~つぅ~」
「なんだ変態スライム」
「なにそれ、変態は蜜でしょ」
「バカを言うなよこんな清廉潔白な幼なじみを捕まえて」
釣り一筋なエナと違ってあたしは様々な部活動に手を出しては辞め手を出しては辞めを繰り返していた。
というのも。
「剣道部の先輩来てるよ、アレ」
「ん?ああ、アレ、な~」
教室の入り口で一見イライラしてる風に待機している三年生が二人。
「また喧嘩?」
「喧嘩じゃない、行き場のない不満を私が技術力で上から捩じ伏せてるだけ」
よっこいしょと席から立ち上がりやむを得ず先輩達を目指す。
様々な運動部に手を出したがすべての部長やら主将やらを押し退けて一年の時からレギュラー入り、先生の勝手な決定で大会に色々出されまくって全国レベルの身体能力を有している事が判明した。
隣に並ぶエナは本当に凡人なのにな。
まあ兎に角運動部の連中からは妬みならなんやらが非常に多く飛んでくる。
そんなのは飛んでこなくていいから身長を来れ。
早くも縦の伸びが悪い。
出会ったときは同じぐらいだった身長も今は余裕でエナに抜かれている。
あと胸の大きさ。
毎日揉んでたら年相応を越えてかなり巨乳になって来てるぞこいつ。
男子の目を払い除けるあたしの身にもなってくれ。




