昔とフナと(5)
そこから更に数日後。
「で?何これ」
「は?都会人は釣りも知らないの?しけてる~」
週末になりエナに連れられて遊びに来たと思ったら家の近くの川だった。
あれから学校で苛められる事は無くなった。
どうやらあたしが誰とつるんでいるか広まったんだろう。
そして親に友達と遊びに行くと言ったらニッコニコで白いワンピースに麦わら帽子と少女漫画にでも出てくる様な格好をさせられ(恥ずかしいからと拒否したが聞き入れられなかった)それを開口一番エナに指差され笑われた。
馬子にも衣装とか言われたけど地味から抜け出せと言ったのはどこの誰だ。
「いや、釣りを知らない訳じゃないけど、まさか小学生女子二人で良い所に連れてってくれるって言われて川で釣りとは思わないでしょ」
「アカムシ触れる?ミミズでもいいけど、無理なら練り餌もあるよ」
「聞けよ」
よくそれで『私浮いてるから』とか言えるわ。
そら浮くわ。
話聞かずは我関せずにずずいと木の箱を差し出してきた。
パカリと開いたその箱には……。
「これはサシ、まあ有り体に言えばウジ虫だよ」
木屑みたいな物と大量の白いウジ虫がウネウネと混ざりあっていた。
五メートル後退り。
「だから友達出来ないんだよ!!」
「何泣いてんの?これだから都会者は」
「いやそれ大丈夫な小学生女子いる!?バカか!お前バカか!」
本気でブチ切れるあたしを見てゲラゲラと笑う。
なんだこいつは。
「なんだぁ、あんた感情出せるんじゃん」
「はぁ!?」
「仏像みたいな顔でスマしてるよりそっちのがいいよ」
頭がクラクラしそうだ。
その田舎者は箱からウジ虫を一匹取るといつの間に持っていたのか竹竿から伸びた糸の先に付いた針にブスリと刺すと更に潰す様にウジ虫を指先で圧迫した。
「うっげぇ」
「こうして汁だした方が釣れるんだって」
「いやいやなんでなんの疑いもなく釣りの準備続けてるの、こんなのオッサンの遊びでしょ、もっとカラオケとか本屋とかあるでしょ、友達んちでゲームやったり」
あたしの物言いが気にくわなかったのか木箱からウジ虫を一匹取り出してあたしに投げつけてくる。
「ぎゃあ!」
「カラオケ行く金あんの?」
「え?な、無いけど」
「本屋でなんか買う金は?」
「ない」
「ゲームやる友達いんの?」
「いやお前だろ!」
「私は釣りがしたい!釣りが好き!ゲーム買う金は全部釣具に消えた!」
「だからクラスで浮いてるんだよ!」
予想外のバカだった事がわかっただけでも収穫かもしれない。




