ドワーフとカマスと(完)
「あんたらのおかげで村に水が戻ってきた、あの化物の肉でそこそこの量の食糧も確保出来た、あんがとな」
近くで作業をしていたドワーフの人達もワラワラと集まってきた。
「このまま王都に向かうんか?」
「ええまぁ、とりあえずは」
「何をしに?」
それはまあ王都は海に囲まれてるらしいので。
「海で釣りをしたいので……」
「おい」
そう言えば王都に向かう理由って最初はエルフの村に住まわすのはアレだからって話だった気がする。
でも仲良くなった今ならエルフの村かドワーフの村に住む事も可能かもしれない。
「王都にいるという魔術師にこいつを元の世界に還してもらう為だ」
「え、そうだったんですか」
知らなかったぁ。
「何の為に旅してると思ってたんだお前」
「ええ……釣り?」
「適当だなお前」
「昔から割りとこんな感じですよ」
生きてりゃ大体なんとかなる。
それで幾度となく怒られたりしてるけど。
「で、それがどうかしたんですか?」
ドワーフの人達に小突かれたスランさんが小さい咳払いと共に言いづらそうに言う。
「その……村に残ってくれねえかと思ってよ」
「……」
タリアさんと顔を見合わせる。
「今回は俺がお前さん達の魚を奪ったのが発端だ、それは今となっては悪いと思ってる」
そう言えばそうだった。
「見ての通り今この村には女が多くねえ、いてくれると……その……助かるなと思ってな……勝手かも知れねえが」
確かに女性のドワーフは男性に比べて半分ぐらいに見える、もしかしたら半分いないかもしれない。
「……うーん、その、こっちとしても寝床が出来るのは嬉しいんですけども」
それでも私は私で帰らなきゃいけない所もある。
ここで歩みを止める訳にはいかない。
「そうかい」
あっさりと諦めでスランさんは引き下がった。
「引き留めないんですか?」
「いや、引き留めても無駄な顔してるぜ、お前さん」
そんなに堅い意思を持ち合わせてる程強い人間ではないけど。
「わーったよ、じゃあさっさと行っちまいな、だけど、また来いよ」
最初はこそ泥だった訳だけどそれも村を思っての事だし、根はいい人なんだな。
つーかツンデレ。
頑固親父のなり損ない。
「はい、また必ず」
「こいつは選別だ」
革製のベルトを投げつけられた。
それと革製の拳銃のホルスターみたいな物。
「女衆の手作りだ、包丁入れてきな」
至れり尽くせりだな。
格好良さ二重丸。
ベルトを修復済みのジーパンに通してホルスターを右に二つ、左に一つ付けてそこに包丁を差し込む。
ばっちりだ。
お風呂に入ってる内に作ってたのかこれ。
加工に特化してる種族だけあって凄いな。
「じゃあ、確かに、約束の品いただきました」
………………
…………
荷物を纏め、ドワーフの村に別れを告げてタリアさんと再び歩み始めた。
「いい人達でしたね」
「ああ、ドワーフは基本的に人間やエルフに友好的だ、魔族とかになると戦いになったかもしれないがな」
戦うのはやだなぁ。
そういうのはタリアさんに任せよう。
私は釣りだけしていたい。
「次の村はどういう所です?」
「ああ、次は人間の集落だな」
「人間!この世界に来てから初!」
「行商がいただろ」
あの人人間なの?嘘でしょ。
「まあ次の集落まではまだ時間がかかる、ゆっくり行こう」
「はーい……ん?」
「どうした?」
「あの青い物体は……」
私達の目の前に青いツヤツヤの物体が立ち塞がった。




