昔とフナと(4)
「みつかるとめんどいからあんまり柵の前に出ないでよ」
視界に広がる山、川、家、すこし遠くに海。
都会の方ほど高い建物がないから余計だ。
景色がいい。
抜ける風が気持ちいい。
「私ね、別に勉強が周りより凄く遅れてるとかじゃないんだけどさ、興味ない事にイマイチ真剣に取り込めないんだよね、まあ普通の事だけどさ、それでも宿題とかめんどくてもちゃんとやってるよ」
あたしの一歩前に出ていく。
涼しい風が彼女の髪を流した。
綺麗だ。
心の底からそう思った。
助けてくれたからとか、家が隣だからとかじゃない。
今このタイミングで自然の景色に包まれたこの少女にあたしは心を奪われていた。
サラサラと絹糸の様な美しい髪がそよ風に靡く。
「私はほら、結構周りから浮いてるでしょ?なんか他の連中からしたら話しかけにくいみたいでさ、知らないけど、孤立してたらいつの間にか不良扱い、先生とかも結構めんどくさがっちゃってさ、バカみたいだよね」
だからこそ引っ越してきたばかりのあたしに近寄って来たのか。
何も知らないから。
でもそれならそれで言わなきゃいいのに。
「……それに地味子は未だに友達出来てないみたいだしね」
彼女の隣に並び同じ位置で景色を眺める。
「蜜」
「んぇ?」
「私の名前、蜜だよ、地味子じゃない」
反論したあたしの頭に手を置いてガシガシと撫でるとは言い難い掻き回し方をしてくる。
ニッコリと微笑んだ。
「じゃあ地味から抜け出せるように頑張れよ!」
再びふわりと風が抜けた。




