昔とフナと(2)
「まあでも可愛い子だったじゃない、蜜可愛い子好きでしょ?アイドルとか見てるじゃない」
「いや、テレビの子とは違うでしょ」
確かに最近になってテレビでキラキラしてるアイドルを見るのは嫌いじゃないどころか好きになってきてるけど。
あたし自身があんなフリフリを着ようと思ってる訳じゃない。
ファンってほどでもない。
並ぼうとも並べるとも思わない。
見てるだけでいいんだああいうのは。
「そういう所で同世代の子と共通の話題を見つけるのよ、もしかしたらあの子もアイドル好きかもしれないじゃない」
「お母さんは実の娘を地味呼ばわりされて嫌じゃないの?」
「悪意とか嫌味の言葉じゃなかったからね」
「地味が悪口じゃなかったらなんなの」
ポンポンとあたしの頭を撫でる。
これは好きなやつだ。
落ち着く。
「パパとママの出会いも割りとそんな感じだったわよ」
「よく結婚しようと思ったね」
一体お父さんがなんて言ったかは知らないけど出会い頭に女に悪口言う男なんてろくなもんじゃない。
「最初はイラっとしたけどね、蜜も本当の親友とか好きな人が出来たらわかるかもね」
「なにそれ」
別に一人でも困らない。
そこから一ヶ月。
隣の家の子とは挨拶程度で遊んだりは無かった。
それよりも学校で起こってる事のが問題だ。
「無い」
昼休み。
確かにランドセルに入れてきた五時間目の教科書が無くなってる。
誰に貸したでもない。
これは。
「まさか本当に苛めなんてものが実在してるなんてね」
ああ、孤独だ。
学校にはあたしの味方なんていないんだ。
前の学校では苛められる前に越してきたから知らないけど。
陰湿だ。
心が堕ちる。
「ねえ、あんたの?」
「え?」
声に振り返ると隣の家の子がいた。
「えっと、エナ、さんだっけ」
「呼び捨てでいいよ、クラス違っても同い年だし、家隣だし、所でこれ、あんたの?」
その手には確かに次の授業で使う私の教科書がある。
「え、あ、ありがと、どこに?」
「え?あー廊下に落ちてたよ、おっちょこちょいだねあんた」
廊下に落ちてる訳がない。
廊下でランドセルなんて開けない。
あれ、この子、怪我してる?
「手、どうしたの?」
手の甲から血が出てる。
「あー転んだだけ、気にしなくていいよ、じゃあね」
そう言うとくるりと踵を返して教室から出ていった。
「友達……なれるのかな」
なんか向こうも向こうで素直じゃないんじゃないの。




