飛行船とサンショウウオと(9)
「いや、言ってもいいんだよ?言うだけはタダ……」
気配。
この部屋に向かって来る。
恨み、じゃない、憎しみ、じゃない、なんだろう。
どす黒い欲望みたいな。
ここを探してる?
誰かを?
「ん?どうした?」
「いや、良くないものを感じる、幽霊とかじゃなくて生きた人間の、醜い部分みたいな色、ここを探してる、誰か心当たりある?」
男二人は私が何を言っているのかもわかってないだろう。
「それがエナさんの魔法?人を感知する力?」
「いや、これは違う、オマケというかメインの能力とは……とにかくこの部屋の誰かを探してる」
この欲望の方向は……。
「蜜……かな」
「は?あたし?この清廉潔白な蜜ちゃんが人に恨まれる訳がないだろ」
「嘘つくと鼻伸びるぞ」
人一倍他人に恨まれる女が良く言うよ全く。
そんな事よりすぐ近くまで来てる。
感じがする。
Mさんと会った次の日の朝に能力に目覚めてたけど私も慣れたもんだな。
「私戦うのとか嫌だよ」
「わかってるよ、男達と一緒に後ろにいろ、店員だったら笑う」
その時は私を笑え。
扉の前に蜜が立つ。
キーホルダーを構えてるみたいだ。
ゆっくりと扉が開いていく。
「お、ホントに来たな」
やっぱり私の能力の精度は間違いないみたいだ。
扉がスーっと開くと下を向いて何かブツブツ言ってる男が居た。
聞き取れない。
でも間違いなく蜜に感情が向いてる。
これは……歪んだ愛情?
「お前は……」
蜜が構えたキーホルダーを下げた瞬間に全員が目を覆う程の強い光がその男から発せられた。
気が付くと蜜と男が消えていた。
「蜜!?」
「いない!今の男?でもどこかで見たことあるようなエナさんの感知で探せないの?」
痩せ型で髪ボサボサなのしかわからなかった。
飯田は顔まで見えたのか。
俯いてたけど。
「近くにはいない、でも……」
でも、蜜だ。
何年も連れ添ってずっといて、居なきゃいけない。
絶対に。
「絶対に見つけ出す」
………………
…………
「ねえ、この話もうやめよ?恥ずかしいんだけど」
顔真っ赤になりそう。
「なんだよ、今良いところだろ」
なんでタリアさんはそんなにくつろいでるんだ。
自分んちか。
「あたし達の昔話だろ、いいだろ見せてやれ、顔が赤いぞ」
「うるさいうるさいうるさーい!私は釣りにいく!」
立ち上がるとモイラが着いて来る。
『ママ出掛けるの?』
「ママは遊びに行ってきます!」
「パチンコ中毒のダメな母親みたいな台詞だな」
あー、あれね、車に子供放置して死なせちゃうやつ。
やかましいわ。
タリアさんは私達の会話がもう耳に入らない様でまだモニターにかじりついている。
いやほんと恥ずかしい。
昔の自分とか。
『この辺まだ川だけどね、生体反応あるよ!えーっとね、地球でいう所の鮎みたいな魚!』
よっしゃあ友釣りすっかあ。




