飛行船とサンショウウオと(5)
「あれ?蜜、今」
蜜を見ると虚空をジッと見つめて固まっていた。
「ちょ、ちょっと蜜?大丈夫?」
肩を揺らすと直ぐにハッとして私と目を合わせた。
「えっあっああ、おう、今のオッサンどこ行った?あたしは気絶してたのか?」
手に持ってたコンビニ袋も地面に落としていた。
それを拾ってふとスマホで時間を確認するとコンビニを出た時から大体一時間ぐらい経っていた。
「え、ええ、嘘、夢でも見てたんかな」
「わからんが、とりあえず帰るか」
「そだね」
こんな路地裏に女二人で残る理由もない。
「ただいまー」
「随分遅かったね、コンビニじゃなかったの?蜜さんも」
蜜と一緒に家に帰る。
出迎えてくれたのは三つ下の弟だ。
今中三。
珍しく蜜が心を開いてる男でもある。
私と同じくまじりっ気無しの黒髪黒目。
下手なアイドルよりはよほど整った顔立ちをしているだろう。
シャープなというか。
身長は百七十ぐらいだったか。
バスケ部の部長だ。
女子からモテると思う。
「おうカメ、出迎えご苦労、ちゅーしてやろうか」
「こら、中学生をからかうなって、ごめんねカメ、私の部屋にいるから、母達は?」
「かーちゃんは今風呂」
なにモジモジしてんだ。
もしかして今の蜜のちゅーしてやるにムラムラしたのか。
「すけべ」
「何が!?」
狼狽える弟を置いて私の部屋に行く。
「蜜、カメからかうの好きだよね」
「将来お前と結婚するつもりだが子供を作るならあいつの遺伝子を貰おう」
「もうそこまで考えてるの、こわ」
「怖くはないだろ」
どんだけ私と同じ遺伝子好きなんだ。
弟の貞操は姉が守るしかない。
「ところでyouは何をしにうちんちへ?」
「恋人が家に泊まりに来るのに理由がいるのか?」
「私達恋人だったの?」
知らなかった。
「それより」
私の勉強机の椅子に座りながら袋からミルクティーを取り出して飲む。
「あのオッサン、どう思う?」
「JKがJKの部屋で屯ってオッサンの話ってのもどうなの、まあ私も気になるけど、えーっとMさんだっけ?」
一見普通のホームレスだったけど。
「オッサンの着てた服、よくゲームとかに出てくる魔法使いのローブに見えなかったか?」
「ローブ?……ああ、ボロボロのアレ?」
ただのボロ毛布とかじゃなかったのか。
「じゃあ蜜的にはあの人は魔法使いだって?」
「ゲームのやり過ぎじゃないか?」
「こいつぅーー」
吊るしてやろうか。




