ゴブリンとドジョウと(14)
まだ私が化け物だと知られる訳にはいかないからね。
とは言っても私からしたら其処ら中化け物だらけだけどね。
「さ、気を取り直して柳川鍋作りに戻ろうかな、君達はさっきのおばさん達と遊んでおいで」
「はーい」
頑張ってねタリアおばさん。
クリームシチュー作ってそうな名前だな。
そう言えばドジョウを捌くんだったな。
「えーっとまず」
頭に針を打って〆る、つもりだったけどいつも刺す所に角生えてやがる。
「ったくこれだから異世界の魚は」
「あんたこの世界の魚捌くの初めてなのかい?」
「いえ全然」
話しかけて来たサラを見るともうササガキが殆ど終わっていた。
「あ、それ水に漬けといてくださいね」
「んーはいよ」
暴れるドジョウの背をいつもの包丁ですっと背開き、一気に角を引っ張り背骨ごとゴリゴリゴリっとぶっこ抜いてダンッと強めに頭を落とす。
「お、これでいいじゃん」
角と背骨全文繋がってるからぶっこ抜くにはこれが一番。
仮面アングラーシン。
尾ひれの先っぽも切り落とそう。
コツさえ分かればこっちのもん。
それにしても凄まじい指の力だ。
ゴリラの握力は五百キロ。
誰がゴリラじゃ。
ゴリラの正式名称はゴリラゴリラゴリラ。
あとは卵とか野菜とか入れた鍋にこれ入れて完成かな。
…………
………………
同時刻、タリア。
「あによ、さっきから難しい顔して」
「んー、いや、何だか最近私の知ってるエナがよく居なくなるなと思ってな」
弾力のある木の皮で作られたボールで子供達と遊びながら私は先程も含め、最近のエナの行動と言動が気になり始めていた。
「あんたの知ってるエナ?」
「……私はあいつがこの世界で目を覚ましてからずっと一緒だった、と思う」
「だって、力のない状態のエナを助けたんでしょ?」
確かに狼に襲われてたあいつを助けたのは私だ。
だけど最近のエナを見ていると。
「なんだか、ただの人間ではない、神とまではいかないが、途方もなく大きいものを感じているんだ」
その正体が何かはわからない。
占いおばばは適応の能力とその後ろに巨大な蛇の力しか見なかった。
もしかしたらそれはハイドラ以外のまた別の何かだったのか、今となってはそれもわからないが。
「あー、あんた、寂しいんでしょ」
「は?何がだ」
「エナが異世界に慣れて、すぐ他人と仲良くなって、そんでもしかしたらそろそろ故郷に帰っちゃうんじゃないかと思ってる」
「……鍋と一緒に焼き鳥も追加だな」
「暴力にも限度があるでしょ!」
私は、寂しいのか?
二百年も生きて人間一人にそんなにも気持ちが寄っているのか?
「お前はどうだ?寂しいか?」
「うーん、まあ結構仲良くなってるし、キライじゃないし、離れるのは寂しいわよそりゃ」
私もこいつ程素直になれればな。




