ダークエルフとカニと(12)
蟹ミソで味噌汁なんてのもいい。
しかしこの世界では蟹をあんま食わないんだろうか、それともミソが珍しいんだろうか。
皆呆然と私作業を見守っている。
「おい、この辺でいいのかー?」
「あ、オッケーですー、そこをスパッと」
タリアさんと町の男達数名で鉈や斧を持って伐採の様に脚をへし折っていく。
でかすぎる蟹ミソの薫りを堪能した後蟹から降りてひびの入った蟹の脚をへし折るのを手伝った。
これ何人前出来るんだろうなぁ。
身を剥いて爪を割って炊き出しみたいなデカい鍋をいくつも用意して貰いそこに分けた。
最初に入った食堂のおばちゃんが鍋を抱えながら聞いてくる。
「で、これどうすんだい?」
「うーん、おばちゃんなに食べたい?」
「こんなデカい蟹食べたことないからそんなんわからんわ!」
そらようよ。
もうなんか祭りみたいになってるな。
盗賊を倒した祝いか。
こうして私は神となった。
なんて。
夜。
大人から子供までお祭りムードの中抜け出して一人船着き場の誰もいない場所に来た。
おばちゃんに聞いた話ではこの町の人達はお祭りが好きで結構すぐお祝いみたいにするらしい。
結婚式とか町総出でやるらしい。
漣の音と低い防波堤に水が打ち付けられる音だけ聞こえる。
いや、小さい船が揺れる音も入るか。
船、か。
「ああ、記憶戻っちゃったな」
戻りたくなかった訳じゃない。
でも自分で封じていたエルフの森に行く前の記憶、全てが戻ってしまった。
時間の経過か、それともさっきの復讐というワードが切っ掛けか、どちらにしても、蜜は自分の仕事をしてくれていた訳だ。
私も自分の役目を果たすまではこの世界に居よう。
足元の割れかけた足場板に手を翳す。
スッと割れ目が直った。
「やっぱり、記憶と共に能力も戻ってるか」
極力、この能力は使わない方針で。
まあでもこれで全て私の中で繋がった。
何はなくとも強力過ぎる力にはそれなりの責任が伴う。
そんな責任負いたくない。
「戻ろ、ヴィヴィ、今見たのは内緒ね」
ガタガタと物影から音が聞こえる。
尾行が下手だなぁ。




