ダークエルフとカニと(9)
「な!なんて事をしてくれたんだ!代々受け継がれて来た蟹マンが!」
「私が言うのもなんだけどネーミング考えた方がいいよ」
「エナに言われちゃおしまいだなあいたっ!」
常に一言余計なアホエルフの額にデコピンを当てて盗賊団のリーダーの胸ぐらを掴んでラヴィさんの前で落とす。
「あいて!な、なんだよ!ちょっと脅しただけじゃねえか!」
「このダークエルフのお姉さんは昔あの蟹に一族をやられてんの」
「は、はぁ?俺等とは関係ないだろ!俺達はナンパに蟹を使っただけだろ!」
「さっき人身売買みたいな話してたでしょ!白状しな!」
「勘弁してくれよぉ」
仲間が全滅ので観念したのか泣きそうだ。
ラヴィさんがリーダーに背を向けた。
「とんだ無駄骨でしたね、もう貴方も悪さしないように」
「ゆ、許してくれるのか!?」
「蟹が無ければ烏合の衆、当の蟹はボイル状態、今更いいでしょう」
ラヴィさんが一人山奥の方角に歩き始める。
「ラヴィさんが優しくてよかったね」
「あ、ああ!もうしねえから!あんた等も許してくれ!」
情けない声を上げながらリーダーが仲間を置いて逃げていく。
自分のピンチに仲間を見捨てる奴はダメだな。
あれ、なんか逃げるリーダーの後ろ姿に何かがフラッシュバックしそう。
デジャブかな。
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その頃勇者一行。
「へー、勇者って大食いもいけるんだ」
「昔っから大食いでな、出禁になったラーメン屋もあるぞ、つーかこの店のステーキ美味いな」
港町の大衆食堂で開催された大食いイベントで勇者と後一人がぶっちぎりで食べ進めていた。
レットは元々少食なので早々にリタイアした。
「らーめん?てなによ」
「地球の麺料理だよ、俺みたいな若い奴は大体好きだな」
「へー、ん?」
「ん?イーマ、どうかしたか?あれは……」
勇者とほぼ同ペースでステーキを頬張っていたフードを被った少女が勇者に一瞥くれた。
「何あの女、感じ悪、勇者!やっちゃえ!」
「いや、あの人は……って負ける負ける!」
勇者も負けじと再びステーキを頬張りはじめた。
数十分、周りの誰も寄せ付けないペースでステーキを頬張り続けて二十を越える枚数でギブアップした勇者を横目に少女が三十に到達して優勝が決定した。
その少女がフードを取りながら勇者に近づく。
見た目イーマより幼いぐらいに見えるその少女は勇者にデコピンをした。
「おーいバカ太郎、もうギブアップとは情けない」
「え、えへへ、蜜姉さんに勝てるとは思ってませんよ、というか太郎って呼ぶのやめてくださいよ」
「え?知り合い?」
「ああ、地球でちょっとな、どうしたんです?何かありました?蜜姉さんが出てくるなんて余程の事ですか?」
「何かじゃないぞバカ野郎、お前エナにちょっかい出しただろ」
その名前を聞いて勇者の顔がパッと明るくなる。
「エナさん?えへへ、美人で巨乳ですよnあたあ!!」
額に蜜のパンチ、後頭部にイーマの裏拳を受けて頭蓋骨が悲鳴を上げた。
「お前、本当に気付いていないのか?」
「へ?何がですか?」
額と後頭部を押さえながら涙目で聞く。
「エナの正体はな……」
「……え?」
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