ダークエルフとカニと(8)
しかし本当にウサギと呼んでいいんだろうか。
いやウサギだって叫んだの私だけども。
見た感じ大型犬ぐらいありそうだけど。
暗がりで光ってるからそう見えるって訳じゃないよね。
こわ。
齧歯目こわ。
子熊でも通るんじゃないかってサイズ感ある。
「あのウサギ私達を追ってきたんですかね?どうやって?」
「どうでしょう、匂いか、適当に走っていただけか、足跡か、はたまた魔力の感知能力でもあるのかもしれませんね、ウサギらしく大きな耳で音を拾っていた可能性もあります」
確かにそれはある。
というかデザイン上そっちの方がらしいっちゃらしいか。
「あ、いましたよ」
「え、でもここって」
角を曲がってしばらく走るとウサギに追い付いたが行き止まりだ。
でも頭上から光が入っている。
目測で四十メートルぐらいか。
私達が落ちた穴とは違いそうだな。
そんな私達の思惑を知らずかウサギはその頭上の穴に三角跳びの要領でピョンピョンピョンピョンと登っていってしまった。
「ちょああ!おいこら!待て!」
「大丈夫です、いけます、失礼しますね」
「へ?」
突然私ラヴィさんにお姫様抱っこされたかと思うと強く跳躍。
そのまま一気に地表に出た。
ダークエルフって凄い。
タリアさんも出来そうだけど。
地上に上がると例の蟹盗賊団とタリアさん達が戦ってるのが見えた。
「ラヴィさん!あれ!」
「はい!参戦しましょう!」
そう言って着地と同時に私を下ろしてタリアさんに襲いかかる盗賊に背後からキックを喰らわせた。
「ラヴィ!遅いぞ!」
「申し訳ありません、エナ様と少し世間話を、状況は?」
「大して変わってない!何人か戦闘不能にしたぐらいだ、何分蟹が邪魔でな」
確かに蟹がうまくコンビネーションを取って盗賊と共に戦っている。
凄いな。
たまに盗賊にも蟹の攻撃当たってるけど。
「大体は蟹が盗賊を仕留めてる」
一瞬の関心を返せ。
「エナ、やれるか?」
「策があります、ヴィヴィも!降りてきて!」
空中でビュンビュン暴風を起こしながら戦っていたヴィヴィも降りてくる。
武器歌とかじゃないんだ。
セイレーンとは。
「なによ!いつ帰ってきたの?」
「今、それよりもゴニョゴニョ」
「ふーん、まーたワケわからない作戦ね、そんなの本当に効果あるの?」
「物は試し!今夜は蟹鍋!」
「はいはい」
ヴィヴィが再び空中に上がっていった。
ズワイだろうがタラバだろうがこれでイチコロよ。
「なのでこの作戦のキモはラヴィさんの炎の出力と維持する時間なんですけど」
「一族の恨み、灼熱の業火に換えて見せましょう」
「私はどうする?」
「タラバさん、間違えた、タリアさんは周りの盗賊達を、邪魔が入らない様に宜しく」
そういえば穴に落ちたときに釣具一切持ってなかったけどどこにあるんだ。
後で探さないと。
やれやれというポーズのタリアさんが盗賊達に襲いかかる。
元騎士団長の根性見せてくれ。
私は親指の腹を噛みきってポケットから出した鯨の瓶に血を垂らす。
「サモンベーコン」
それを地面に叩きつける様に投げる。
煙幕と共にベーコンが現れてゴロンした。
噴気孔大量の水を蟹に向けて発射。
普通の鯨のこれは海面に出て来て呼吸の為らしいけど魔力を帯びたベーコンはこれを自在に操り攻撃に転換できる、らしい。
その大量の水、海水だから塩水が蟹を包みドームの形になった。
「はっ!蟹を水で閉じ込めてどうするつもりだ?動きを封じるつもりか?はっはっはっ」
盗賊のリーダーらしき男が何か言ってるけど無視してラヴィさんが飛び出した。
水のドームの周りを高速でぐるぐる回りながら最大級の火力で炎を焚く。
そして着いた火をヴィヴィが上空からの風で煽る。
高笑いをしていた盗賊のリーダーも事態に気付いたらしい。
炎を出し続けるラヴィさんに攻撃しようと迫るがタリアさんがそれを許す筈もなく文字通り一蹴。
火力はどんどん上がり山火事にでもなるんじゃないかという炎の中で蟹がもがくのが見える。
水のドームがブクブクと水泡を出している。
煮えている。
熱湯だ。
「蟹を茹でるならやっぱり塩水じゃないとね」
あとは何分だろうな。
十分、二十分ぐらいだろうか。
ボイルするだけだ。
勝った勝った今夜は蟹鍋だ!
妨害しようとする盗賊達をちぎっては投げちぎっては投げ完全に鎮圧した。
最早抵抗しようとする者はいない。
甲羅が完全に真っ赤になったのを見届けてベーコンに合図を出すと蒸発する様に水がすぅっと消えた。
ため息をつく様にベーコンも瓶に戻る。
「お疲れ、またしばらく休んでな」
水の操作か、疲れるのかな。
ドシンと音を立ててドームから解放された蟹が力無く地面に落ちた。




