ダークエルフとカニと(3)
王都に攻めて来た剣先団の連中はこの港町を出て山を越えた先にある洞窟、更にその奥にある湖だか海だかわからん所を拠点にしてると調べがついているらしい。
そこまで転送してくれよ。
まあいい、冒険は嫌いじゃない。
しかしそんなに奥地にいてどうやって海に出たんだろうなぁ。
地下に海に通じる通路でもあるんかな。
「とりあえずお腹空いたんでどこかご飯入りましょうよ」
「そうですね、死者を蘇生しないと物語が進みませんからね」
頭から水でもぶっかけとけばなんとかなるんじゃん?
「だーかーらー、私は酔ってないし、酔ってたとしてもそんな弱くないからぁ!」
大衆食堂に着くなり水を注文すると同時にヴィヴィが追い酒キメ始めた。
そろそろ殴りたい。
「だからお前は飲むなって言ってるだろ!いい加減にしろ!」
置物のタヌキをペチペチ叩く元騎士団長も右手に酒瓶を握りしめている。
置いて店出たい。
ヴィヴィはどこに向かって喋ってるんだ。
何かいるのか虚空に。
「ラヴィさん、しばらく禁酒にしましょうね」
「お尻ペンペンですね」
大ウツボの頭頂部にデカイ穴空ける女のお尻ペンペンは張り裂けるんじゃないかな。
「そんでよぉ、また出たらしいぞ」
「またかよ、勘弁して欲しいぜ」
隣で食事をしていた漁師風の風貌の二人の会話が耳に入って来る。
お化けでも出たかな。
船乗りを惑わす悪いセイレーンならここにいるから縛り首にして欲しい。
「今度もでっけえ蟹を引き連れてるらしいぜ、あんな所で暴れられたら商売上がったりだぜ全く」
デカイ蟹。
「ちょいちょいおじちゃん達、その話聞かせて?」
「お、なんだいおっぱいのねーちゃん、蟹の話が気になるのかい?」
脊髄ぶち抜くぞ。
「なんだぁ!浮気かぁ!またかお前ぇ!」
くるくると回転しながらタリアさんがフラフラしながら滑って私の後頭部に酒瓶を直撃させた。
ガシャンという音の後にタラタラと頭からアルコールが垂れてくる。
店の中が静まりかえった。
「ま、まて、事故、事故だから、悪気はない、な?ラヴィ助……」
タリアさんの肩を掴んで捻る様に上半身を無理矢理こっちに向けさせる。
左足で強く地面を蹴って腹に膝蹴り。
いつぞやのおっさんの時の様な膝蹴りで床が抉れた。
タリアさんのボディが空中で五回転ぐらいしながら固い床に不時着する。
トラクターに轢かれたウシガエル。
ラヴィさんがタオルを持って私の頭をガシガシ拭いてくれる。
「ね、ねえちゃん強いじゃねえか、エルフの姉ちゃんはいいのか?」
「気にしなくていいですよ、でも次セクハラしたらああなりますよ」
ゴクリと漁師の飲み込む唾の音が聞こえた気がした。




