勇者とウナギと(完)
数日後。
「ええー!一緒に行かないんですか!?」
「ごめんね、他にやらなきゃいけない事もあるから」
そそくさと出発の準備を終え、大陸行きの船の前で勇者君達を見送る。
私達は違う船だ。
「で、でも王様には一緒に行くように言われましたよね!」
「それなんだけどね、王様と話して私達は剣先団を抑える方に行くんだ」
「そ、そんな」
ショボくれる勇者君の後頭部をグローブが直撃した。
「あだっ!」
「お世話になりました!」
イーマちゃんがブラスちゃんと腕を組んで前に出てくる。
「元気でね、あと諸々上手くやるんだよ、自分に素直に」
「す、直ぐには難しいですね」
うぶだなぁ。
イーマちゃんの腕を離れてブラスちゃんが私に抱き付く。
「おっと、また会おうね」
胸に押し付けて来て顔は見えないが笑顔だろうか、それとも泣いているだろうか、はたまた拗ねてるだろうか。
イーマちゃんに引き剥がされて力無く項垂れる。
「あ、あとレット君も頑張ってね」
「え、ああ、えっと、何がです?」
「さーね」
言いたくても言えないんだろうなぁ。
幼なじみでずっと一緒だからこそってのもある筈だ。
ある、と思う。
あるかなぁ。
同じ幼なじみでも人と自分じゃこうも違うとな。
蜜は良くも悪くも思った事ズバズバ言う所あるからなぁ。
そうこうしてる内に船の出港の時間になり勇者チームとは手を振ってサヨナラだ。
またいずれ会う事もあるだろう。
この世界にいればね。
あ、勇者君にどうやってこの世界に来たのか聞くの忘れてた。
四人を乗せた船がゆっくり離れていく。
「笑顔でバイバイ出来てよかったわね」
「ヴィヴィ」
「最初はどうなるかと思ったわよ」
「人間関係においても適応してしまうので」
そういう意味ではいい能力かな。
昔クラスメイトに私は人の心が判らないとか言われたけど余計なお世話だ。
「じゃ、私達も行こうか」
直ぐ目の前に私達が乗る船だ。
勇者チームとは違う港に向かうらしい。
「でも良く王様が許可したわね、王都守って貰いたかったんでしょ?あの王様」
「うーん、まあ半分脅しに近かったかも」
それでも剣先団はいずれ倒さないといけない、そんな気がしてる。
もしかしたら私がこの世界でやる事ってこれかもな。
全ての魚を捌いていくぅ。
ってか
「ま、とりあえず判明してる剣先団の基地潰したら一回帰って来るでしょ」
そこでハイドラの血を抜く方法が見つかれば万々歳。
「じゃ、行こうか」
今回のメンバーは私、タリアさん、ヴィヴィ、ラヴィさんで四人だ。
フォーマンセルは基本。
一番最初に船に乗り込み次に乗って来たタリアさんの手を掴む。
「are you ready?」
新しい冒険の幕開けだ。
「出来てるよ」
力強い返答が帰ってきた。




