勇者とウナギと(13)
「もしかしてイーマちゃん、最初の時に脅かしちゃった事で私の事苦手になってた?」
「い、いえ、そんな事は……」
あれは流石にやり過ぎたかもしれない。
大人げないな、反省。
「まあいいや、勇者君とレット君が待ってるよ、行きな」
「……はい、ご迷惑おかけしました」
ペコリと私の胸に向かってお辞儀。
「そういえば勇者君の事はちょっとわかったけど、レット君て何者なの?」
「え、ああ、あいつは私の幼なじみです、二人で小さい村で育ったんですけど姉弟みたいなもんで」
ん?
「いつも私の後ろを付いてくる様な泣き虫だったんですけどいつの間にか魔法の達人になってて」
んん?
「勇者に声掛けられて村を出る時に僕も一緒に行くって、本当私がいないとどうしようもないんですけど」
あれあれあれ。
それって。
「弟分?」
「ええ、まあ私の金魚の糞ですよ」
酷い言い様だな。
でも鈍いのは勇者君だけじゃなかったって話かこれ。
「まあ、なに、その、頑張ってね」
「え、あ、はい!」
会ってから始めての笑顔だった。
可愛いじゃん。
えくぼの出る可憐なお嬢さんだったか。
もしかしたらそれもレット君の宝物かもしれない。
「まあ上手くやって」
ブラスちゃんがやれやれと言った感じのポーズ。
二人は宿に帰って行った。
私はと言うと用事があるからと言ってこの丘に残った。
二人の背中が見えるギリギリぐらい距離になる。
こう見ると姉妹みたいだ。
仲いいんだろうな勇者チーム。
金的はやりすぎだけど。
子孫残せなくなったら困るのはイーマちゃんかもしれないんだぞ。
「ここからは私の独り言だけどさぁ、私の幼なじみはいつ出て来るのかなぁ、まだ出て来れないの?」
風も無いのにざわざわと木々が揺れる。
「そっちも本当は出てきたいけど何か事情があるんでしょ、それはわかるよ、蜜の事だもん」
いつだって近くにいる感じがあるというか気配の様な物を感じてる。
「でもさっき胸揉まれた時唇噛んでたでしょ」
バキッと枝の折れる音が聞こえた。
「誰にでも安易にさせてる訳じゃないから安心していいよ」
当たり前だバカって聴こえて来そうだ。
木々の揺らめきがより一層強くなる。
相変わらず風はない。
あってもそよ風程度。
「じゃ、もう少し見守っててね」
木々のざわめきがスーッと止まった。
「私ももう少しやる事がありそうだからね、終わったら一緒に帰ろう」
何のアクションもなくなったし私も帰るか。
「じゃ、またね」
どうせその内出てくるだろう。
蜜はいつもそうだ。
自分勝手でひねくれ者だから気が済んだらしれっと顔出すに決まってる。
だからそれまで待とう。
さ、館に帰ろう。




