勇者とウナギと(9)
「えーとですね、ほら私魚倒したじゃないですか、食べたじゃないですかさっきの」
「ああ、サーペントとか言ったか、それがどうかしたか?あれ殆どタレの味だろ」
「それは別にいいんですけど、倒した時、ハイドラ使って無かったはずだったんですけど、力出てたんですよ」
我ながら何言ってんだって感じだ。
スイッチオフにしてたのに電気ついてたみたいな。
「いつもはこう、体の中でオンオフがはっきりしてて使うぞって思うと勝手に強くなる感じなんですけど、今回はそれをしないで強くなってたんですよねどう思うぎゃあ!?」
タリアさんの方を向くと何か鋭い物が高速で飛んで来て私の額にスコーンと当たり跳ね返ってタリアさんの手元に返っていく。
いつものナイフだ。
「あ、危ないじゃないですか!」
「血出たか?」
「え」
当たった場所を擦るが刃物が当たった感覚はあったが確かに無傷だ。
今はハイドラしてない。
「このナイフには物理的な切れ味は勿論魔術的、呪術的な切れ味もある」
「殺す気じゃん?」
手元のナイフが薄く紫に光るのが見える。
側面の文字にはそういう意味があったのか。
「でも私包丁で自分の指は切れましたよ、と言っても小さく刺す程度ですけど」
「その傷は残ってるか?」
「そんなの……」
自分の親指を見る。
確かにベーコンを呼ぶのに刺したはずだ。
「ない」
びっくりする程卵肌。
いくらなんでもそんなに再生が速い訳ない。
どんな細胞分裂だ。
今日の今日だぞ。
「最初に城に行った時に婆に言われた事、覚えてるか?」
お婆ちゃんに言われた事。
確かテュ、テュ、テュポ。
「テュポンヌ」
「テュポーンな、それは神話の生物なんだ、お前の持ってる世界樹の竿、あれに付けてる糸、確かキングだかエンペラーだかっていうドラゴンの髭だと言われていただろう?」
「ああ、あれね、丈夫だからまだほぼ無傷ですよ」
「テュポーンはそれの時代よりも更に前、今の魔術なんかが生まれる前の代物だ、私も詳しくはないけどな、一般的には神々の時代とされている」
テュポーン、姿を想像するだけで楽しい名前だ。
ウネウネしてそう。
「テュポーンはその時代で破壊の限りを尽くしていたという山より巨大なハイドラの名前だ」
やっぱりウネウネしてた。
「ハイドラって事はやっぱり蛇ですね、頭いっぱいありそう」
「そこまでは解らんがなともあれその時代の最強の一角だ、それと同等の力となると……」
「なんちゅーもん飲ませたんすか」
誰のせいだ誰の。
「まあなんだ、お前がそうなったのは私にも責任があるが極力もう力は使わない方がいいだろう、どうなっても知らないぞ」
「責任って言葉の意味調べて来て?」
知らないぞじゃないんだよ。
どこかでまた行商ちゃん捕まえて問いたださないといけないなこれ。




