勇者とウナギと(2)
「え、あーっと、お前また失礼な事でもしたんだろ!」
勇者君が背後のイーマちゃんを責めるがさっきと同じ様に脇腹に拳を入れる。
「うっさい」
「痛い痛い!あ、えっと、後ろのこの大人しそう男がレットで」
「どうも」
イーマちゃんを退けてその後ろに立ってた薄紫の髪の青年を指差す。
コクリと小さく頭を下げた風な動きを取ったが一瞬睨まれた。
なんかしたかな。
「それで、こっちの静かなのがブラスです、ブラスは声が小さいので聞こえにくいかも知れませんけどちゃんと喋ってます」
確かに蚊の鳴くようなか細い声で少女は喋っていた。
囁いていたという方が適切かもしれない。
身長は百五十もないぐらいだろうか、この中では一番小さい。
蜜といい勝負か?
銀の髪に銀の瞳、雪の様な儚さがある。
種族雪女とかかな。
「レットは魔法使いで、ブラスは回復術士です」
違ったわ。
魔法使いの魔法の中には回復魔法は入ってないんだろうか。
それともブラスちゃんはその中でも特に回復魔法が凄いって事なんだろうか。
「四人ともこれから宜しくね」
勇者君の顔が一層輝く。
ビシッと敬礼した。
「よろしくお願いします!」
元気いいな。
「そういえば勇者君の名前は?」
「え、あー、えっと、好きじゃないんですよね、余りカッコよくないし、だから勇者で通してます」
雑過ぎるでしょ。
もしかして異世界の片仮名の名前の人達に字面で負けるとか思ってるのかな。
「まあ何かあったら協力する、と思うから」
そう言って海に向き直る。
「えっと、釣り、ですか?」
勇者君は地球人だし私のやってる事に理解あるだろう。
後ろの三人は何やってんだぐらいの顔で見てる。
タリアさんとかヴィヴィにも初見の時はそういう顔された。
やっぱり馴染みのない文化なんだなぁ。
漁師さんはいるし漁もあるんだけど個人の趣味でやるって文化がない。
つらみ。
「そ、これが私の趣味で人生で生き甲斐だからね」
改めて瓶の蓋を開ける。
「じゃあ私は沖に出るから、何か用なら鳥の人を探して私の所に飛ばしてね」
伝書セイレーン。
「あ、あの、ボートとかですか?」
不思議そうな顔をする勇者君を尻目に腰の包丁で親指の先をちょっとだけ刺して血を一滴。
「そ、私専用ボート」
瓶に垂らして海へぽい。
一瞬の強い光と共に海から愛車ならぬ愛鯨、ベーコンが頭を出した。
荷物を全部抱えて飛び乗る。
「じゃ、そういう事で」
「え、ええー、空飛ぶ絨毯とか魔法の乗り物とかは色々見たけどえぇーー」
納得出来てなさそうな勇者君を背に軽く手を振ってベーコンに沖に出る指示を出した。
ゆっくり、津波が起きないぐらいの速度で十数メートルの浮き島は沖に向かって泳ぎ出す。




