ドワーフとカマスと(10)
まあ魚なんてツガイになるような生物ではないがこの世界の生物だしどんな生態でも今更って感じではある。
「まあ、とにかく釣り上げる方向でいきますかぁ」
他に選択肢無いし。
いきますかぁとは言っても方法が無いのではどうしようもないけどとりあえずロッドケースからあの時活躍した世界樹の竿を取り出しドラゴンの髭を結び先端にミスリルの針を付ける。
相変わらずでかい針だ。
「お、おい、なんだそんな物騒なもん取り出して」
「へ?化物用の釣竿ですけど」
スランさんがその針をまじまじと見つめた。
「な、なにか?」
「……いや、なんでもねえ」
針がどうかしたのかな。
「それよりどうすんだ?こんな棒一本で」
「いやー多分食わせるところまではイケますけど陸に上げるとなるとあのサイズじゃ流石にキツいですね」
ワイヤーをモーターで巻き取るぐらいの機械があれば別だけど。
辺りを見渡しても水車小屋の残骸しかない。
それにしてもこの倒壊でも水車自体は無事なようだ。
苔とかは生えているがほぼ無傷に見える。
「この水車、頑丈なんですね」
「おうよ、こいつは特別製だ、ドワーフ製じゃねえけどな、かなり昔にフラッと訪れた旅の人間が設置したらしい」
そう言われるとファンタジーの世界な割りにはどちらかというと日本人ぽさのある建物だなこれ。
もしかして昔に私と同じようにこの世界に飛ばされた日本人の仕事だろうか。
「それがどうかしたのか?」
「うーん使えるかも」
「なぁ、水中だから良く見えないがアイツの魔力角こっちを向いてないか?」
タリアさんの呼び掛けにスランさんと水面を見ると確かにあの巨体に見あった巨大な角がこっちを向いてるようにも見える。
もしかしてこの針の魔力を感知してるんだろうか。
「この水車、滑車に使いましょう」
もう迷ってる暇がないかもしれない。
この水車小屋を壊したのがもしあのカマスなんだとしたらこのまま襲いかかって来るかもしれないし。
「そ、そんなこと出来んのかよ!?」
「ダメだったら皆まとめてお陀仏ですよ」
タリアさんは身軽だから逃げられるかもしれないけど。
水車を三人で瓦礫の中から引き取り出して地面に横倒しにする。
「スランさんはここで押さえといてください!」
ドワーフ族の筋力を信じよう。
釣り針を水に投げると着水とほぼ同時に化けカマスの方から吸い込む様に食い付いて来た。
やっぱりこの世界の魚は魔力を帯びてるってだけで食べる習性でもあるんだろうか。
「タリアさん!いくよ!」
「推して参る!」
「引くの!」
シャツを裂いて竿と私の手をシャツの切れ端で固定してタリアさんが私の腰に手を当てる。
へそチラ。
水車を滑車として糸を張り川側に背を向ける形で引っ張る。
これでも馬鹿力女と言われたもんだ。
握力はクラスの男子と比べてもほぼ勝ってたし腕相撲だって負けた事がない。
今こそ力の見せ所。
タリアさんも全力で私の腰を引っ張るし私も全力で踏ん張る。
「スランさん!水車をこっち側に回して!」
軸を地面に刺した水車を押さえるスランさんの腕も筋肉が盛り上がっているし顔も真っ赤だ、相当な圧力が掛かっているだろう。
押さえながら回すなんて並みの力で出来る芸当じゃない。
頑張れドワーフ。
当然水中のカマスも暴れる。
自分が今どんな状態かはわかっているんだろう。
右に左に暴れるがちょっとずつ陸地へ近付いて来る。
私も全身の筋肉がはち切れそうだ。
竿と糸と針も大丈夫だろうか。
ここでバラす訳にはいかない。
どれか一つでも要因が無くなれば負ける。
こういう時は母親の口癖を思い出す。
男は度胸、
「女はぁ!ド根性ぉぉお!!」
二人で引っ張る力と水車を回す力がカマスの力を上回った。
一瞬だけ力が緩んだカマスが地上に飛び出して来た。
水車が大きくギュンと回る。
「んごぉ!」
盛大に後ろに転んだ。
カマスが地面の上でバタバタを暴れる。
「タリアさん!」
「風の刃!」
私がタリアさんの名前を呼ぶ頃にはカマスの首が飛んでいた。




