王都とウツボと(9)
「ほ、ほーん、なるほどねー」
わかった顔だけしておこう。
「知ったかぶらなくていいぞ」
「うるさいっすね」
ところで帰ると言ってもどうやって帰るんだこれ。
転送魔法のおばあちゃんもここにはいないし。
「泳ぐんですか?もしくはヴィヴィに掴まる?」
「いやいや、私は頑張っても同時に二人が限界よ、特にそこのオッサンみたいなゴツいのは無理」
確かにヴィヴィは馬力無さすぎてなぁ。
ふっ。
「あによ」
「なんでも」
「言いたいことあるならハッキリ言え」
「なんでも無いってあぁん」
迫り来るヴィヴィに乳揉まれた。
というかいつの間にかヴィヴィの足はいつも足に戻ってた。
どういう原理なんだそれ。
「こら、遊んでる暇はないぞ」
ヴィヴィのせいで怒られた。
「で、どうやって帰るんでんん、いつまで揉んでんの!」
ヴィヴィの羽根付きの手を払い除けてタリアさんに向き直る。
この鳥変態です。
男の人呼んで。
タリアさんが突然私のジーパンのポケットに手を突っ込む。
私の周りには変態しかいねーのか。
ポケットから小瓶を取り出した。
「あ、それ」
クジラの瓶を開ける。
「これはこう使うんだ」
そう言って取り出したナイフで私の指の先を少し切って血が滲む。
「痛ったぁ!」
「ちょっとだろ我慢しろ」
なんで私でやるんだ。
自分でやれ。
私の指から垂れた血を瓶の中に数滴垂らすとそのまま海の方へと投げた。
「は?なんですこれ」
「見てればわかる」
わかるかよ。
なにがどういう原理だよ。
瓶が落ちた辺りが強く光って水中から何かデカイ物がせり上がって来た。
「あれが何に見える?」
なんでタリアさんがドヤ顔なんだムカつく。
「クジラ、ですね」
タリアさんが私の腰を抱えてウツボの背からクジラの背にダイブ、デオさん、ラヴィさんも私達に続いて跳んで来た。
ヴィヴィは突然の出来事にビックリしているがパタパタと空を飛んで来た。
全員でクジラの頭に乗る。
大体十メートルぐらいだろうか。
数人で乗るには問題ないサイズのクジラだ。
「これがあの瓶の使い方だ、圧縮された魔力の……いや、お前にはそんな説明してもちゃんと理解出来ないかもしれんな、まあつまりお前の血でお前に従順なクジラが呼び出せるって事だ」
「なっなっなんだってー!?じゃあわざわざ船出して貰わなくても陸っぱりじゃない釣りも出来るじゃないですか!」
ボードと言わないまでもこれなら沖に出放題の使い放題プランじゃん。
なんで言ってくれないの。
「お前本当に釣りしか頭にないのか」
「今更でしょ」
これからは一人で海に出よう。
「ま、そういう事でこれで王都に帰れる訳だ」
これ無かったらどうやって帰るつもりだったんだ。
泳ぐつもりだったのか。
なんてやってる内にウツボの体が眩い光に包まれ始めた。
「ほら、離れるぞ、鯨に指示しろ」
「あ、はいはい、王都に向かって出発!えーっと、名前は……じゃあホエール号」
「センス皆無」
「うるさいですね、また改めて後日付けますよ」
そんな名前なんてポイポイ出て来ない。
ネーミングセンスは求めるな。
ホエール号(仮)はウツボに背を向けて王都に向かって泳ぎ始めた。
結構速い。
この速度ならさっきのウツボよりは遅いが王都まで十分も掛からないだろう。
割りと近くまで来てたな。
このサイズが船より速い速度で王都に向かったらそれこそ津波とか発生しないかな。
さっきまで周りにいた筈のイカタコエビはさっきウツボが暴れた時に鎮圧されてから全く動きがない。
全滅したんだろうか。
よわ。




