ドワーフとカマスと(9)
立派な魔力角を水面から出して水車小屋跡の前まで来てピタリと止まる。
「お、おい!隠れるぞ!」
スランさんの掛け声で崩れた水車の影に隠れた。
「あんな化物どうにか出来んのか?」
まあそう思うのも無理はない、だが。
「さっきあなたが食べてた魚、あれの小さいやつですよ」
「……えっ?」
気付いて無かったのか。
まあここまでサイズ差があったら仕方ないと言えば仕方ない。
しかしなぁ。
「カマスって確かに凶暴な魚ではありますけど小屋壊す程地上には出れないと思うんですけども」
あくまで私の世界でのカマスだけども。
「なら小屋を壊したのはあいつじゃない可能性があるな、釣るか?」
タリアさんがそう言ってナイフを構える、私が釣り上げたら頭を落とす的な意味合いだろう。
「いやー流石に一人二人であのサイズはキツい、あの紫の小瓶でもあればまた別ですけど」
「あぁ……アレな、アレはもうやめとけ、というかもう手持ちはないぞ」
「そう言えば詳しく聞いてませんでしたけどアレってなんなんです?」
「内緒」
教えろよ。
何得体の知れない物人に飲ませてんだ。
いくら日本人が未知の食べ物好きとは言っても限度があるぞ。
「とにかく私が頭落として背中を開く、ようはあの時と同じ事をやればいいんだろう?だから早く陸に上げてくれ」
確かに角が生えてるだけで見た感じ表面が固くなってるとかいう風ではない、でっかいだけのカマスだ。
でもなぁ、あのサイズに見合う様な餌もルアーもないし。
というか私が一番懸念してるのはそこではない。
「もし川にいたのがアレの子供ならツガイがいるんじゃないですか?」
遠方から引き連れて来た子分とかならそうでもないかも知れないがカマスも生物である以上増えるには交尾ないし放精のどっちかが必要なはずだ、多分。
なら一尾ではないだろう。
「あんなのがもう一匹いるっていうのか?流石にそんのが途中で乱入して来たらヤバいな」
それがヤバい。
近くに影は見えないから何とも言えないけど。
この世界の生物の事だから魔法で水面から上に出れまーすなんて言われでもしたら更にお手上げになりかねないし。
情報とは力なり。




