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プラトニクス  作者: coach
276/281

第276話:鈴音の修学旅行2

 (レイ)は、点呼を取った。

 一人ずつ名前を読み上げていく。

「そんなことする必要あるか?」

 士朗(シロウ)が言った。

「念のためだ。『ホームアローン』みたいなことをしたくない」

「ホームアローン?」

「昔の映画、大家族の子どもが一人、家に置き去りにされる」

「面白いか?」

「面白い。大家族のわちゃわちゃ感が見ていて楽しかった。その頃は、大家族に憧れたよ」

「今は?」

「一人になりたい」

 無事、全員そろっていたことを確認した怜は、最初の目的地を発表した。

「今日って、半分ミステリーツアーなの?」

 倉木さんが訊いてきた。

「悪いが、旅のしおりは作ってない」

「山に登るなら、この格好、大丈夫?」

 怜は、倉木さんのフレアスカートを見た。

「大丈夫だ。ちょっと歩きはするが、ちゃんと舗装されている」

「お城には?」

「いかない」

「よかった。ハイヒール履いてこなくて」

 最初の目的地に行くには、まず電車に30分ほど揺られる必要がある。

 ボックスシートを三つ取ってそれぞれ座ると、

「わたしは初めましてだよね、スズちゃん」

 七海(ナナミ)が自己紹介した。

「うん、でも、何かで一度お話したことがあるかもしれません」

「そうだったっけ?」

「委員会か何かで」

「話してないと思うな」

 七海は、にっこりと微笑んで、

「断言できるよ」

 と続けた。

「どうして?」

「だって、一回でも話してたら、こんなに可愛い子のこと忘れないと思うから」

 鈴音(スズネ)は、(タクミ)を見た。

「いや、見られても反応に困るよ」

「でも、何か言ってください」

「ノーコメント。どうしてか分からないけど、何を言っても危険な気がするんだ」

 怜は、(タマキ)の視線を感じた。

 どうやら、鈴音と巧が知り合いだということを知らなかったらしい。

 怜は、環に対して首を軽く横に振った。すると、環は微笑したようだ。もっとも、いつも瞳に微笑を灯しているので、重ねて笑ったのかどうかはよく分からないところではある。

 鈴音に向けて日向(ヒナタ)が改めて手を差し出して、その後、(アヤ)が拳を突き出した。

 綾の拳に鈴音の拳が打ち合わされて、グータッチ。

「二人はどういう間柄?」

 賢が訊くと、綾は、にっこりと微笑んで、

「地獄に耐えたあと、ケーキを食べた仲よ」

 と答えた。

「地獄って?」

「二時間半、クラシックを聴き続ける」

「それは確かに地獄だ」

 怜は、この人選でよかった――苦手としている倉木さんも含めて――と思った。

 何一つ嫌なことが起こりそうにないという絶対的な安心感がある。

「ポッキー、食べる人」

 綾が言った。

 全員が手を挙げた。

 怜が見ていると、鈴音は、主に女の子と話しながらも、男子とも話すようにしていた。

「はわーわ」

 怜の隣から、士朗があくびをした。眠いのか訊くと、

「最近いつも眠い」

 とあくびを噛み殺した。

「悩みがある?」

「人並みにな。でも、悩んで眠れないわけじゃない。ただ、受験生らしく振舞っているだけ」

「話によると、オレたちは、8時間から10時間の睡眠を必要としているらしい」

「8時間? もし朝6時に起きるとしたら夜10時に寝なくちゃいけないってことだろ。無理だろ。10時間睡眠なんてまして不可能だ」

「学校が10時くらいに始まってくれればな」

「2時限やって午後に2時限やって帰る」

「理想的だな」

「実際には6時限だもんなあ。しかも、高校ではさらに増えるって話じゃないか」

「うむ」

「正気じゃない。何をそんなに勉強することがあるんだ」

 怜はちょっと考えてみた。

「社会に出るための準備に必要なことなんじゃないか」

「なるほど。それで勉強して立派になって、社会に出て、不倫や汚職をするってわけだろ」

「みんながみんなそうなるわけじゃない」

「このシステムはどこかおかしい気がする」

「システムは全て狂っている。なにせ人が作ったものでありながら、人を従えるわけだからな」

「高校行くのやめるか」

「やめてどうする?」

「どうもしない。引き込もって暮らす」

「世間の引きこもりへの視線は厳しい。解決すべき問題として見られる」

 士朗は首を横に振った。

「やっぱり狂っているな。この世の中では、大勢に従わないと、病気か問題扱いされる」

「そうして、治療や解決の対象になる。問題を抱えた哀れな人間だという風に解釈される」

 七海が口を出してきた。

「二人で何か難しいことを話しているね」

「人生に絶望していたんだ。そういうことあるか?」と士朗。

「絶望するほど人生のことを知らないからなあ」

「知らない?」

「うん。だって、まだ14年しか生きてないんだよ。逆に、知っているの?」

「知っている」

「教えて」

「生まれて年を取って家族を作ったり作らなかったりして年老いて死ぬんだよ。それが人生さ」

「うーん、賛成できないな」

「ほお」

「それは形式としての人生でしょ。内容は別」

「何を盛っても同じことなんじゃないか。お茶碗にトーストは置けない」

 怜は、七海に見られた。

「岡本くんってこういう人だったんだ」

「いや、知らない」

 七海はもう一度士朗を見ると、

「お茶碗にトーストは置けないかもしれない。でも、白米以外にも盛ることはできるよ」

「玄米?」

「そう。麦飯もね」

「麦飯は好きじゃない」

「わたしも。で、たとえ白米しか盛れなかったとしてもだよ、その白米をどうやって美味しくしようかって考えることはできるよね。それが人生の意味なんじゃないのかな」

「ポジティブだな。たぶん、お前とは分かり合えない気がする」

「そんなことはないよ。たぶん、分かり合えるよ」

「分かり合えたとしても、それは頭で理解し合えたってことで、心が通じ合ったってことではないんじゃないかな」

「何を話しているの?」

 日向が口を出してきた。そうして、七海と士朗の二人の議論を聞いた後に、

「こんな明るいうちからそんな話をしていたの。呆れた」

 と切って捨てた。

 電車が到着したのは、彼らの町の駅よりも一回り小さい駅だった。

 ここからは、バスで15分ほど移動することになる。

 バスはある程度混雑しており、男子はみな女子に席を譲った。

 怜は立ったまま、車窓から外を眺めていた。すると、道路脇に小さめのモミジが紅葉して、綺麗な赤いラインを形作っている。特別な道路というわけでもなさそうなのに、どうしてモミジなんて配されているのだろうか。

「近くにインターチェンジがあるんじゃないかな」

 環が言った。

「え?」

「玄関前に花を置くのと同じだと思うよ」

 街にとっての玄関がインターチェンジにつながる道路というわけである。だから整備しておく。瞬く間にそのような洞察ができる彼女に対して、怜は落ち着いた様子で、なるほどなるほど、と誰でもよく考えれば思いつくことであるかのような風を装ったが、環はすでに隣の七海と話していた。

 バスが到着したのは神社である。

 このあたりの紅葉の名所らしい。

 行楽日和であるので、さすがに、人が多かった。

 神社に行くのに広めの参道を登ることになるのだが、道沿いには茶店や土産物屋が軒を連ねており、観光客や参拝客が、のろのろとした列を作っていた。

「こういうことになると思っていたんだ」

 怜は、肩を落とした。

 すると、隣から鈴音が言った。

「そんなに大したことないじゃん」

「本当にそう思っているか?」

「もちろん。うわあ、すごい」

 怜も、思わず、おおっと歓声を上げた。

 神社の近くで、天を突くような威容を持つイチョウが、一行を迎えた。

 パーティの何人かはスマホで写真を撮ったが、怜は、写真にしなくても、この景色を一生忘れないだろうという自信があった。が、念のため、撮っておいた。念には念を入れることは何も悪いことではない。

「加藤くん。撮って、撮って」

 鈴音が環と一緒に、黄葉の下にやってきた。

 怜はスマホで写真を撮ってやった。

 どちらからも恨まれることの無いように、カメラから等距離で撮った。

 撮った写真を確認させると、鈴音が不満げである。

「変な顔している」

「そうだろうか」

「うーん」

「もう一回撮ろうか」

「お願いします」

 そういうわけで、もう一回撮ると、今度は環が不満げな顔である。

「顔なんて前についていれば、いいと思うけどなあ」

 環は鈴音と顔を見合わせた。

 そうして、やれやれと首を横に振った。

 怜は、もうそれ以上は言わずに、再度スマホを構えた。

 そうして、写真を撮ると、また二人は顔を見合わせたけれど、やむを得ないと言った表情で、受け入れたようだった。

 そうしていると、みんなが集まってきて、

「じゃあ、記念写真だな」

 と士朗が言った。

 誰からも異論は出なかった。

 道行く女性を一人止めて、集合写真を撮ってもらう。

 士朗はすぐに写真を全員のスマホに送ってくれたようである。

「幹事役を任せるべきだったんじゃないかって、今さら思っている」

「お前の企画だろ」

「適材適所」

 広く造られた境内も、紅葉が見頃だった。

 観光客たちは、美しい赤や黄の下を歩きながら、盛んにスマホでパシャパシャやっていた。

 本殿の前はやはり列になっていて、怜は閉口したが、その顔を見て、呆れたように微笑む少女の姿を近くに見た。彼女がお参りを済ませたあと、怜は、何のお願いをしたのか訊こうかと思ったが、やめた。何のお願いをしたとしても彼女なら自分で叶えられるだろう。

 お参りを済ませた後、境内を歩いて帰りながら、

「なんかお腹空いてきたなあ」

 と日向が言い出した。

「さっきカフェがあったけど、軽く食べていかない?」

「ちょ、ちょっとタイム」

 怜は慌てた。

「え、なに?」

「もう食べるところは決めてあるから。今食べたら、そこで美味しく食べられなくなる」

「予定は未定でしょ。わたしの腹時計は今鳴っているのよ。うん、我ながらいいこと言ったなあ」

「ケン」

 怜は親友に助けを求めた。

 重々しくうなずいた賢は、

「ヒナタ」

 と幼馴染に声をかけた。

「なによ」

「もう少し我慢するんだ」

「『いい子にしてなさい』って? ケンは、いつからわたしの父親になったの?」

「なってないけど、おじさんから、お前の監督の役目は譲られている」

「ウソでしょ!?」

「いや、本当」

「父親役を?」

「そう」

「だいたい、父親って娘に嫌われるもんだよね」

「そうかな」

 賢は、幼馴染以外の女の子に確認してみた。

 すると、誰一人そういう子はいないようである。

「みんな、おかしいんじゃないの!?」

 日向は空腹を抱えて、絶叫した。

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― 新着の感想 ―
私事で拝読が遅くなってしまい、こんな変なタイミングでのご感想となり申し訳ございません。 怜くんの環ちゃんと2人の時も然ることながら、大変かけがえの無い彼らが集まる、独自の空気感が心地がよいですね。 実…
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