僕の価値は何円?
僕が生まれた時から授かっていた特殊なチカラは『価値』であった。こんな化け物と表現するべきような人間である僕はずっと一人だ、ずっと一人で構わない。
全く、人間という知的生命体の愚かさのせいで、正しい価値を見出されずに消えていく名作や才能達。
(生きている間に評価されないモノに一体どれほどの価値があるのだろうか、いや、ない)
当人が死んで、死んだ後に評価されても当人にとってはもう遅い。僕という人間は歪んだ価値観の塊だ。
そして、抱えた秘密は誰にも明かさせないままに、僕の人間は今日もこの世界に居続けている。
幸せに満ち足りた人間も、不幸のどん底にいる人間も、皆等しく五千十二円。たった、それだけの価値の君達を冷めた目で見ながら、喧騒さに溢れた交差点を歩く。信号機も気にする必要などない。気にする必要などないのに、僕はモヤモヤした思いを抱えていながら、前に向かって走り出す。
僕の未来を変えてくれた命の恩人の墓に、どんな顔で何と報告したらいいのであろうか?
「すいません、センパイ。なにかを成せる人間のことを馬鹿にしすぎていました。あなたの予言は外れましたよ。『僕自身の価値を言ってくれますか?』でしたら、もう意味ありません」
「やぁ、後輩よ。無様だね、何と無様だろうか、いや、君の人間性がダメなのだったね。君が居なくなってしまうわけにはいかないんだよ」
ケラケラ下卑た笑みで笑うセンパイには、抜群の返しをするべきだ。
「『人が死ぬときは、人の心の中から、その人の思い出が消える時』でしたか?」
「はっはっは、その通りだよ」
僕の物言いに何も動じることなく、センパイは笑って返す。僕は今日もまた自分だけの人生の道を歩く。
最後に会う人は、生涯全ての思いの言葉を伝えても、伝えきれないほどの恩人で、共に同じ状況になった恋人にステップで遭いに行く。最期まで友人で、家族もいない僕の家族で、偽の恋人であり続けてくれた君に伝え切りたい言葉を言いにいく。
君の姿が目に焼き付いている間に、君が静かに眠っている中に、君の右腕を握りしめて、僕は最初で最後の本当の言葉を言う。カミサマに与えられた祝福を、お互い上手く使い切れずに亡くなった者同士で、積もる話もたくさんあるけれども、君とだけは、君とだけは、君にだけは、いつも照れ隠しで酷い言葉を言い続けてしまった。それだけが、君のいない世界では誰一人として僕をミてくれない世界で、僕はたった一つだけの後悔だったのだ。
「アイも、愛も、哀も、逢も、穢も、全て僕には与えられなかった世界で唯一残った僕のIを返して」
「いいよ。返してあげる。恋人を演じてくれて、ワタクシの価値を徹底的なまでに上げてくれたら……」
「わかったよ」
ある日の後悔。僕のそんな迂闊な言葉が君を苦しめ続けたんだね。僕は君のためになら、どんなことだってした。しかしながら、どれだけ頑張っても、人間の価値は変わらない。君の『13万8000円』と君の描いた絵の最高傑作の『238年後の五千十二万円』も、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部変わらない。君がどれだけ、絵を描こうとしても二束三文、クズ銭。
僕は君に告げられた遺言は……
『君の価値は0円』