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ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます。
更新遅くてすみませんm(_ _)m
「ラーズ。どうだ、余力はあるか?」
「はい、と言いたいのですが、正直ギリギリです」
安全部屋に入り、凶魔に気づいたソートとラーズはすぐに聖剣と聖盾を構えた。
安全部屋には休憩するために入った二人には正直余裕がなかった。
『ニ゛グ……』
「俺が正面から受け止める」
「分かりました。では私が背後から……」
「たのむ」
だが、希望もあった。この迷宮にいる凶魔は弱いと……
この地に赴任し、初めて相手取った凶魔が一番強く感じたくらいで、その後は自我が完全に崩壊していた凶魔は手順さえ踏めば楽に対応できるようになっていた。
幸いこの迷宮にいた凶魔は今まで対応してきた凶魔と変わりなく、第9位程度の悪魔が凶魔化して少し強くなった程度だった。
この程度なら聖域結界がなくとも、手順さえ間違えなければAランク聖騎士一人でも対応できる。
そう判断したソートとラーズは互いに頷き合図すると、目の前の凶魔へと駆け出した。
「はぁぁぁぁ!!」
だが聖騎士たちは知らなかった。
悪魔くずれである凶魔の悪気はすべて、悪魔神によってクズ用の悪気へと自動変換されていることに……
年度分の納値こそ済まされているため悪魔格を強制的に下げることはできないが、それが第9位の悪気のものと似ていることに……
『ニ゛グ……ダァァァァァ!!』
吼えた昆虫の様な異形な姿の凶魔の六本ある腕が霞んだ時には、駆けていたソートの身体に熱い感覚が走っていた。
「ガハッ……」
その熱がすぐに激痛へと変わるとソートは口から血を吐き片膝をついた。
「な、なにも、見えなかった……はぁ、はぉ、ど、どういう、こと、だ……」
『ニ゛グ……ウマウマ……』
異形な凶魔は右三本の鉤爪についたソートの血肉を口に運ぶと片方の口角を吊り上げた。
『グケケケ……ウマウマ……』
六本の腕、その先の手は鋭い鉤爪となっていた。
運良く三本の鉤爪は聖盾を前に突き出すように駆けていたため防いでいたが、残りの三本の鉤爪がソートの右肩、右胸、右脇腹を貫いていた。
「ソートッ!!」
ラーズは凶魔の背後に回り込むのをやめ、すぐにソートの側へと駆け寄った。
「ら、ーズ……」
ソートはすぐに残り少ない聖力を使い辛うじて傷口をとじたが、そのせいで先ほど凶魔の鉤爪を防いでくれた聖盾の維持ができなくなっていた。
「あ、あの、凶魔は……やばい」
そう言ってソートは立ち上がると細くなった聖剣で身体を守るように構えた。
凶魔がソートを捕食対象として認識しているのか、一本一本鉤爪を舐めながら、その濁った瞳はソートをじっと捉えたままだった。
「あの凶魔……俺を餌だと認識したようだ。どうやら俺はここから逃げれそうにない」
「何を、二人で少しずつ後退すれば、気配は感じなくなったが部屋の外には隊長がいるはずだ。隊長と合流すれば……」
この安全部屋は安全確保のため迷宮魔物から全てを遮断する仕様となっていた。
それは人族にとっても同じく全てを遮断されてしまっていた。これは安全部屋という役割からも仕方ないのだが……
中の気配さえ分かっていればラグナならばすぐに異変を感じ、この部屋へと入ってきていたかもしれない。
だが残念ながらそうではなかった。中に入ると外の気配を全く感じることができなかったのだ。
ソートはゆっくりと首を振った。
「辛うじて傷口は塞いだが、傷が思った以上に深くてな……立っているだけがやっとだ。歩けそうにない」
ソートの両脚は、ソートと言う通りガクガクと震え、いつ倒れもおかしくないほど力が入っていなかった。
「ソート……」
それを見たラーズは悔しそう両手を握りしめた。あまりにも力を入れすぎたため握りしめた際、爪が食い込みラーズの手から赤い雫が落ちる。
「……分かった。トビラもすぐそこにある。ソート待ってろ。諦めるなよ。少しずつでいいから後退して持ち堪えてくれ」
「ああ」
その返事をきくと同時にラーズは駆けた。ラーズはソートのためにも一分一秒でも早くラグナと合流したかったのだ。
『グケケ……』
だがラーズは、駆けると同時に動く悪気を背後に感じた。
(ソートっ、くそおぉ!!)
――――
――
『クロー。少し進んで左通路、くずれ一体いる……』
『了解』
『その先。ずっと悪魔くずれ通路にいる。危険だけど楽』
『おう、俺には好都合だ』
『おお』
バカみたいに膨大な量の聖力が上層階の方から悪魔くずれを誘うために放たれていたようだが、今はもう感じない。
それもそのはずで、すでにこの迷宮に入り込んでいた悪魔くずれ全体の三分一くらいはその聖騎士に側に集まっているように感じる。
――いやぁ、ほんと助かる。
ついでに迷宮全体にバラけて居た悪魔くずれも、その間は聖力に誘われ上層階を目指してくれていたため上層階へと向かう順路に集まってくれている。
――ふっ、俺にとっては好都合。手間が省けるってもんだ。くっくっくっ。
『そこ穴ある。足下気をつける』
『お、おう』
悪魔くずれを処理するペースが上がったためなのか知らないが、なぜかグウから送られてくる念話も機嫌がいいように感じる。
ガラガラガラッ……
「すー、すー……」
――……こいつらのせいで少しペースが落ちてたからな……
「……むふふ」
あ、言ってなかったが、見習い聖騎士の少年には俺が睡眠魔法をかけた。
これは俺が考えた結果で見習い女聖騎士には伝えていない。わざわざ伝えなくてもいいだろう……
だってほら、いくら俺が助けた少年だろうと、男は男。
俺は人族の男を相手に会話を楽しむ気なんてさらさらない。と言うか、この少年が目覚めた時に、隊長ってヤツに引き渡しとけばいいだけの話だからな……
「……ふは」
そもそも助けなきゃよかった話なんだけど、あの時は妻たちや少女の顔がチラついて……
――まあ、いいんだけど……
だからなのか、俺はグウの依頼を完遂して早く妻たちの顔が見たくなった。
――よし。もう少しペースを上げようか……
「くふふ……」
――……
先ほどから聞きたくなくても背後から聞こえてくる謎の不気味な声。
――……正体は分かっている。分かっていてずっと気にしないようにしてたんだけど……
後目にそっと見習い女聖騎士を見て……
「……ぁぁ、そんな……もう……」
すぐに視線を前方に戻した。
――……ふむ。
見習い聖騎士がくねくねと気持ち悪い動きをしていた。
――……変なヤツ。
前にも言ったが、見習い女聖騎士は基本的に大人しい。抵抗する素振りはまったくみられない。だだ、それに変なくねくね動きが加わった。それだけのことだ……それだけ……
「……ぁぅ」
――しかし……
見習い聖騎士にバレないように歩を進めつつ観察していると、顔を真っ赤にしたかと思えば気持ち悪いくらい、にやにやと口元を緩めている。
だが次の瞬間にはしゅんと肩を落としては口を尖らせ青い顔をする。
まったくもって理解不能。
――……もしや、悪魔の俺に恐れをなし短期契約とはいえ契約した事実を、今になって後悔しているのだろうか? こんなヤツでも見習いとはいえ聖騎士だ……
もう一度見習い聖騎士を一瞥する。
「……むふ、ぐふふ……」
――……
――おかしい。どうも違う気がする。
緩みまくっている見習い聖騎士の顔を見て、俺は首を振った。
「おい」
「はぃぃっ、な、な、何よ。びっくりするじゃない」
声をかけてみれば、わたわた顔を真っ赤にして顔を背ける。
――ふむ。脅したから怒っていただけか……?
「なんでもない」
「むう」
見習い聖騎士は口を尖らせあからさまに不愉快そうに顔を顰めてはいるが、口元はなぜか緩んでいるように見えるのは気のせいだろう。
――一応こいつも聖騎士だ。怒らせているくらいがちょうどいいか。
俺は改めて早く終わらせてしまおうと歩むペースを早めた。
『その角、曲がってすぐいる』
『了解』
「おい。悪魔くずれだ。舌噛むなよ」
「え、う、うん」
何度もやっているから大丈夫だと思うが、念のため後ろ目に見習い聖騎士を見てみれば頷き真一文字に口を結んでいた。
――うむ。
それから俺は、敢えてアウトドアワゴンを引く大きな音を立てながら悪魔くずれに近づいた。
ガラガラガラッ……
こうやって近づくと大概の悪魔くずれは、こちらに気づき食い物と認識している人族をターゲットと捉え……
『グッ!?』
嬉々として襲ってくる……
――あれ? Uターン……?
『ア゛ア゛ア゛ア゛ァァ……!!』
――に、逃げ、たっ!!
「ちょっ、ちょっと待て、こらっ!!」
俺に気がついた悪魔くずれは襲ってくるどころか、俺に背を向け、且つ奇声を上げ逃げ出した。
――ウソだろ……
「好物が目の前にいるだろがっ!!」
「ひっ、ひぃぃぃ……」
俺の言葉に反応するように背後から悲鳴が聞こえてくるが、お前じゃない。
逃げ出した悪魔くずれは反応するどころか、こちらを見向きもせず一目散に逃げていく。
「なっ、待てこらぁっ!!」
『ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァッ!!』
悪魔くずれの逃げるスピードがさらに上がった。
「……のやろっ!! 逃げるなっ」
『グ!? ア゛ア゛ァァ、グ!? ア゛ア゛ア゛ア゛ァ』
少し距離の離れた悪魔くずれは逃げならがも必死な形相で俺の方をチラチラ見ている。
――こいつ、自我が……ん、んん!? あれは……なんだ……
俺は逃げる悪魔くずれの首根っこに変な物体、手のひらサイズで羽根の生えた小さなスケルトンが張り憑いていることに気がついた。
――スケルトン!! じゃああれが……邪魔か!?
背後から見ているため、触角は確認できないがなぜかそう思えた。
――あんな小さなヤツとは思わなかったが、そうと分かれば……処理するだけだ。
俺はすぐにアウトドアワゴンから手を離すと同時に見習い女聖騎士をその場に降ろし――
「逃がさんっ!!」
逃げる悪魔くずれに向かって全力で駆けた。
「邪魔ぁぁ!!」
ガッ! ガッ! ガッ!!
俺が一歩足を踏み出すたびに迷宮の地面が大きく抉れていく。
『ああ……』
『ギアァァァァッ!!』
「い、いやぁぁぁ、置いてかないでぇぇ!!」
グウ、悪魔くずれ、見習い聖騎士から三者三様の声が上がる。
悪魔神にも邪魔は処理するよう指示を受けている。逃すわけにはいかない。
迷宮の地面が抉れるたびにぐんぐんと逃げる悪魔くずれとの差が縮まっていく。
――……あと少し。
『ギァァァ!!』
「俺から逃げれると……ぐぅっ!?」
俺の伸ばした手が、悪魔くずれの首元に掴まっている邪魔へと伸び、あと一歩というところで……
『ガァァア!!』
『ゴァァ!!』
『ァァァァ!!』
複数の悪魔くずれが俺の進路を妨げた。
――くっ!?
いや、逃げる悪魔くずれ(邪魔)が悪魔くずれの群れの中に突っ込んだのだ。
その差が再び離れていく。
「くっ!!」
あれほど必死に奇声を上げていた邪魔の憑いた悪魔くずれがもう大丈夫だと安心したのか、不意に俺の方に振り返ったかと思うと――
「ん?」
鼻をほじほじしている。さらに――
『バァァガ……』
憑いた悪魔くずれの口がバカだ、アホだと動いている。俺を小馬鹿にしているのだろう。
――ふふふ、いいだろう。後悔させてやる。
「この程度で俺から逃げれると思うなよ!! どけっ!!」
両腕に魔力を纏うと、俺は進路を妨げる悪魔くずれを片っ端から殴りつけ一撃で粉砕していく。
『ギョギョッ!!』
それを見た悪魔くずれは慌てて逃げ出そうとしたようだが、悪魔くずれ(邪魔)自身も悪魔くずれの群れに進路を遮られ逃げることがでないようだった。
「くっくっくっ」
『ア゛ア゛ア゛ガッ!』
「終わりだ……」
俺がそう思い手を伸ばした時には、その邪魔が憑いていた悪魔くずれが、その場にドサッと崩れ落ちた。
「!?」
そして……
『ァァァァ……』
再び聞こえた奇声。その奇声のした前方に視線を向ければ別の悪魔くずれに憑いた邪魔が、背中を見せ必死に逃げていた。
「このやろ!!」
八つ当たりのように周りに群がる悪魔くずれを一撃粉砕して、逃げた悪魔くずれを追おうとするも……
『クローの女。悪魔くずれに囲まれてる』
グウから聞こえたしょんぼりとした声の念話。見習い聖騎士の危機に諦めるしかなかった。
「くっ」
すぐに駆け戻ると見習い聖騎士が泣きながら二体の悪魔くずれに向かってアウトドアワゴンを振り回していた。
「ぶあ〜、来るな、来るな!!」
見習い聖騎士の少年は寝たまま転がっている。
「すまなかったな」
もちろん。俺がその悪魔くずれどもを一撃粉砕してやったので見習い女聖騎士と寝てる見習い聖騎士は無事だったが――
「あ゛ぐま゛ざま゛、あ゛ぐま゛ざま゛あ゛ぐま゛ざま゛〜」
「む、お前また……」
泣いてすがりついてきた見習い聖騎士にクリーン魔法をかけてやることになったのは、言うまでもない。
最後まで読んでいただきありがとうございます^ ^
皆さま体調はどうですか?
私は暑さにやられてバテバテ、熱中症にもやられかけました(ノД`)アブナカッタ
皆さまも気をつけてくださいね。
って気をつけてる?
そうですよね、失礼しました(^^;




