84
ブックマーク、評価、誤字脱字報告ありがとうございます。
嬉しいです。
少し短めですみませんm(_ _)m
『あいつらはいったいなんなんだ。聞いてないぞ。なぜあの人族は強い。人族は俺様たちに喰われるだけの餌じゃないのか!?』
何かに釣られたかのように勝手に動き出し、俺様の言うことに従わなくなった下等な悪魔たち。
追跡して様子を見れば、すぐに原因は分かった。
『おい、ヤブキリっ。お前まで俺様の命令背いて、なに勝手な行動をしようとしてんだっ!!』
『クケケッ……チ、ニク、ウマソウ……スグソコ……クケケ……』
『クソがっ!! これだから知能の低い悪魔は……』
俺様は下等な悪魔に手を向け邪気を放った。
『クケケッ……ニク……』
『チッ! これでも言うこと聞かねえのか……』
いくら邪魔神様の邪気に侵食され自我を崩壊しつつある下等な悪魔とはいえ、俺様の邪力では格の高い悪魔を従わせることはできなかった。
地道に下級悪魔を従え力をつけるしかないことにヘドが出そうになった。
(俺様の力はこんなもんじゃねぇ。配下だってそのうちに……)
そんな時だ。ぼろぼろで死にかけていた第五位格の悪魔を見つけた。
そいつが今目の前にいる俺様一番の気に入りの駒で傀儡化に成功した悪魔だった。
こいつは俺様にとって都合よく、邪気に侵されていた。
弱ってる悪魔など俺様たち邪魔にとっては格好の餌食。憑依してすぐに傀儡化してやろうと実行した。
まあ、俺様の実力をもってしても丸一日かかってしまったが、どうにか第五位格の悪魔を従わせることに成功した。
格上の悪魔をこの俺様が……高位邪魔から散々、戦力外だと言われ続けていた俺様は、笑いが止まらなかった。
これで邪魔神様も俺様の優秀さに気づくだろうと……笑い続けて顎の関節が外れそうになり慌ててしまったのも、もう遠い昔のように感じる。
それから俺様は、邪魔神様の邪気に侵された下級悪魔を傀儡化し続け、餌である人族を喰らい感情値を奪っていった。
人族を喰らって獲た感情値を邪魔神様に送るのは当然だが、俺様自身もその感情値を頂くことで俺様の力も上がっていった。
なぁに、邪気に侵されている悪魔が獲ていたものを俺様自身が強制的に頂くだけのこと。
下等な悪魔などに感情値など過ぎたるものだ。
お前たち悪魔は一生俺様に感情値を送りつづける傀儡となればいいのだから……くっくっく。
そして、俺様はついに見つけた。みなが面倒だと敬遠していた迷宮。
その中でも辺境の地に見つけた迷宮を……
そこで俺様は力を蓄える。蓄えて高位邪魔へと上り詰めるのだ。
少しずつ俺様の勢力が増えていくことに確かな手ごたえを感じていた、それだというのに……
『俺様は邪魔神様から直に送られた優秀な邪魔だ……
悪魔は黙って俺様に従えばいいんだ。従って感情値を俺様のために稼げばいいんだヤブキリッ!』
『クケケ、ニク、ウマソウ……ケケッ』
『クソがっ!! おのれぇぇ、こうなったら……』
――――
――
「ね、ねぇ悪魔様? 私はいつまで、この、なんというか……尻尾で掴まれたままなのかな〜と……」
大人しく尻尾にぶら下がっている見習い聖騎士がちらちらと俺の顔色を伺いながらこちらに視線を向けてくるが、この、見習い聖騎士、あの少年を元に戻してやってから俺のことを急に様付けで呼び始めた。
何か企んでいるとは思わないが、こいつ本当に素人に毛が生えた程度で、ふらふらとして迷宮トラップを何度も踏みかけているのだ。
「あ〜、ひょっとして私のこと気に入ってたりしてません? 悪魔様〜」
そう言った見習い聖騎士がにこりと笑顔を向けてくる。
――ぶっ!
どこにその自信があるのかと思ったが……
――はっ、おっぱいか。今は鎧で見えないが、セリス並みのおっぱいがその自信を……その自信でイニシアチブを取る気か!?
すぐに見習い聖騎士の意図に気づいた俺は無愛想に返事した。
ガラガラガラッ……
「お前は歩くのが遅い……それだけだ」
「ええっ〜……それだけ? 本当に? あ、それでも否定できのが悔しい……」
ガラガラガラッ……
「……」
「ねぇねぇ悪魔様〜。アルは……あ、アルはこいつのことで、こいつも一応見習い聖騎士なんだけど……
そのアルが寝ている気持ちよさそうな乗り物、それは何?」
「ん……?」
一応、こんな見習い聖騎士でも女だし窮屈だろうと思って両腕は自由にさせてやっていた。
まあ、それでも宙に浮いている状態だから迷宮の壁に触れることはできないんだけど……
「それだよ。それ」
見習い聖騎士は右手で乗り物を指差していた。
「これか? これは……」
あれからしばらく経つが、損傷の大きかったと言っても元に戻してやってるけど、アルの意識はまだ回復していない。
男なんて触りたくない俺は、人が乗せれるサイズのアウトドアワゴンを所望した。
「秘密だ」
「ええ、教えてくれても……あー分かった。これって悪魔界の物でしょ?」
「……」
ガラガラガラッ……
「だんまりですか……見たことないから凄いなぁと思ったんですよね。
あ、でも私、寡黙な人ってステキだと思うんですよね……大人って感じ?」
腕を組み何やらうんうん頷いている見習い聖騎士を見て思う。
――俺は人じゃない悪魔だ。
『クロー。そこ右、悪魔くずれいる』
『了解』
悪魔くずれが、いくら聖騎士に釣られて迷宮の上階に向かっていると言ってもその足並みはバラバラで自我のほとんどない悪魔くずれに至っては牛歩並みの速度だ。
だから俺が普通に迷宮の上階に向かって進むだけで……
「いたな」
「えっ? ひぃ、き、き、き、凶魔ぁ!!」
俺の背後から悲鳴が聞こえてくるがすぐに済むことだと、俺は気にせずその悪魔くずれの前に進んでいく。
ゲァァァッ!!
悪魔くずれはすぐに見習い聖騎士の存在に反応し喜びの奇声を発して向かってきた。
「ふんっ!」
俺はその悪魔くずれを殴りつける同時に、容赦なく魔力を叩き込んだ。
動きは鈍いが何度も叩き込むのは面倒だと思い一度でたっぷり魔力を叩き込んでやった。
パンッ!
悪魔くずれは断末魔の叫びすらなく消し飛んでしまったが、今回は地面に叩きつけていなかったため、残った黒水晶は大きく吹き飛び転がっていった。
『おお』
「ちっ」
――これだから……
思わず舌打ちしてしまったが、俺はその黒水晶を慌てて追いかけ踏み潰した。
『クロー。グッジョブ』
でも、なぜか、グウから機嫌良さげな声が届いた。
「……ね、ねぇ?」
「なんだ?」
「どうして悪魔様は……えっと、その〜凶魔を倒しているのかな〜と……もしかして悪魔様はいい悪魔なのかな〜とか思ったりして……あは、あはは……」
「……」
――まさか、悪魔神に頼まれてるとか、迷宮主に頼まれた、とか言えるわけない……あー、でも感情値のためといえばそれが一番だから……自分のため?
「教えるわけないだろ……というか、俺は別にいい悪魔とは限らんぞ」
尻尾で掴んだ見習い聖騎士をわざと俺の顔の近くまで引き寄せると、その胸のあたりをわざとガン見してやった。
「……っ!?」
案の定見習い聖騎士は顔をかーっと真っ赤にして、俺からすぐに顔を背けた。
「ふふ、対価を忘れていたのか? 腹が立つだろ? 人の弱みにつけ込むのが悪魔だ。悪魔にいい奴なんていない。気をつけろ」
――女聖騎士は大事なおっぱいなんだ。勘違いして下手な悪魔の餌食になってもらったら大きな損失。気分が悪いもんな。
見習い聖騎士が黙ってこくりと頷く姿を確認した俺は、見習い聖騎士を元の位置に戻した。
『それよりもグウ。悪魔くずれとは別に邪魔という奴がいるらしいんだが、見当たらないか?』
『ちょっと待つ……ダメ。分からない。悪魔くずれしかいない』
『そうか……』
――ということは、悪魔くずれに扮しているってことなのか……そうなると、一体ずつ処理していく方が確実か……邪魔、名前からしてほんと迷惑なやつだ。
――――
――
「た、隊長。さすがにこれだけの凶魔を相手に、私たち二人は無理です。これ以上はもちません」
「はぁっ!!」
その声にラグナは目の前に迫っていた凶魔を力任せに両断し、部下たちを横目に見た。
ソートとラーズは互いに背中合わせになり大きく肩で息をしていた。
互いにカバーをしてはいるものの、聖騎士の鎧は傷だらけで、いつその鎧が破損してもおかしくないほど酷い有り様だった。
「分かった。お前たちはそこの安全部屋に入って休憩していろ」
ラグナは不測の事態に備え、迷宮にある安全部屋を背後に置き、凶魔を誘っていた。
「はぁ、はぁ、し、しかし、それでは隊長一人を……」
「なあに、もうしばらくの辛抱さ……っ!!」
そう言いつつ、ラグナは大きな聖剣を乱暴に振り回し、ソートとラーズが安全部屋へと駆け入る隙を作った。
「おら、何をしている。早く入れっ!!」
「しかし……」
「隊長!!」
「ぃいから、早くいけぇぇ!! よく確認しろっ! セイル様たちがこっちに向かって来てんだよ!!」
さらに振り回した大きな聖剣が凶魔を吹き飛ばした。
「!? ははっ、本当だ」
「はぁ、はぁ、隊長。すぐに、すぐに回復したら……代わります……はぁ、はぁ、だから……」
「バーカ、しっかり休憩しねぇと、お前たち使えねえ、よ!!」
大振りで凶魔を簡単に切り捨てていくラグナだが、その額にはポツポツと大粒の汗が吹き出し始めていた。
「……はぁ、はぁ……ふぅ……」
(くっ……調子に乗って少し聖力を解放しすぎたぜ)
安全部屋へと入っていくソートとラーズを横目にラグナは小さく呟いた。
――――
――
「うそ……だ」
「な、なぜこの部屋にも凶魔がっ!!」
安全部屋へ入ったソートとラーズは部屋の中にいた凶魔を見て顔色を悪くした。
『クケケッ、ニクガキタ……』
「ま、まさか……安全部屋と言うのは……」
「魔物だけ、か……」
そう、迷宮にある安全部屋は迷宮の魔物にのみ適用され悪魔はその対象ではなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます^ ^




