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ラグナたちは見習い聖騎士が誤って踏み抜いた仕掛けによって発動させてしまった転移トラップにより離れ離れになってしまった。
「くそっ!」
ラグナは強めに自身の聖力を放ちつつ感知した聖力に向けて迷宮内を全力に近いスピードで駆けていた。
聖力を放つのも自身の位置を知らせるため、凶魔にも自分の位置を教えてしまうが今は致し方ないと割り切る。
――転移トラップとはやられたぜ。だがまあ、ここからなら、奥に進むことだけを考えればいい……
そう、幸か不幸か、ラグナは迷宮の出入口付近に転移し戻されていた。
もちろん、迷宮やダンジョン内の探索において、このようなトラブルに見舞われることはよくある。
ラグナはいつものように皆と速やかに合流し態勢を整え直せばいいことだった。
だが、残念ながら今は、新たに加わった見習い聖騎士たちを率いていた。
――……感知できる気配は五つ、か……
その見習い聖騎士たちが皆と同じように聖力を放つことができるのかと言えば、もちろん厳しく指導してきていたので、できると思いたい。
だが、迷宮内でただ一人となった実戦経験の乏しい見習い聖騎士が、冷静な判断のもと行動を起こせるかと言えば、ラグナは首を振ることしかできなかった。
――この聖力の気配は……ソートと……ラーズか……
ラグナは嫌な予感を振り払うかのよう、また首を振る。
――俺たちが行くまで……死ぬんじゃねぇぞ。
「隊長!!」
「ソート、ラーズ!! 無事のようだな」
「はい!」
「すみません隊長。私がもう少し見習い聖騎士たちに迷宮内は慎重に行動するよう伝えていれば……」
「いや、それを言うなら俺もだ。早く見つけてやってアイツらと合流するぞ」
「は! しかし、どうしますか隊長。その……見習い聖騎士たちの聖力が感じとれませんが……」
すでにセイル様、ガラルド、アクス、の位置は、おおよそであるが把握できたラグナも、それは分かっている。
それでいて、もしかしたらその三人のうち一人くらいは、見習い聖騎士たちと合流していてほしいと一瞥の望みを抱いていた。
「……とりあえず、俺たちは……俺たちのできることをやる。少しきつくなると思うが凶魔をこちらに誘い込み、狩る!!」
――そうすれば、その分あいつらが凶魔に遭遇しても狙われる危険性も減る。
「はい」
「了解」
――――
――
セイルは光輝く聖剣を手に駆けた。
「滅びなさい!!」
その姿は後方で聖域結界を張っていた司教セイルの姿とあまりにもはかけ離れていた。
右手に聖剣、左手に聖盾を構えたセイルは、ラグナにも劣らぬ速さで駆け凶魔との距離を一気に詰めた。
グルッアアァア!!
凶魔はセイルを拒むかのように鉤爪を突き出してきたが、身体を捻りさらに腰を落としたセイルは、意図も簡単にその鉤爪を掻い潜り、光輝く聖剣の力を目の前の凶魔に振るう。
「聖剣術其の参っ、破悪聖光剣」
グァァッ……
目にも留まらぬ速さで振るうセイルの聖剣術によって凶魔の赤黒く脈打つ硬い皮膚に、細い光の線がいくつも走った。
「はあ!」
セイルが聖剣を振るう度に細い光の線が何十、何百と走っていく。
グァァァァァア!!
光の線が走る度に、苦痛の叫び声を上げ踠き逃げ出そうとする凶魔に――
「はぁ、はぁ、逃しませんっ!」
セイルがさらに一歩踏み込み聖剣を突き出した。
グルァァァァア……
聖剣は凶魔の身体を貫き、その身体に光の亀裂が大きく入る。
ガッ、ガァァアッ!!
さすがに、これには狂い感覚が鈍くなっていた凶魔さえも激痛が走ったらしく、口から粘り気のある泡を吹き出し、両手の鉤爪を闇雲に振り回して暴れ始めた。
「無駄ですよ、はぁ、はぁ……あなたはこれで終わりです」
セイルは仕上げにと邪魔なその鉤爪を聖盾で大きく弾くと、突き刺した聖剣を通して凶魔の身体の内部から爆発させた。
「滅聖!!」
グアアァァア!!
それが断末魔の叫びとなり凶魔は黒い水晶を残して消滅した。
「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ……」
セイルは息を整えると、壁の片隅で身を小さくする二つの人物に近づいた。
「……もう、大丈夫ですよ」
「せ、セイル様、ありがとうこざいます!」
見習い聖騎士のサラは座り込み腹部から血を流すカイトを庇うように抱きしめていた。
――どうやら、間に合いましたね……
カイトの出血は酷いが意識はしっかりしている。サラの方はすり傷程度だ。
ここでようやくセイルは安堵の息を小さく吐いた。
「サラ、カイトそのまま動かないでくださいい。今、回復魔法をかけます」
「……す、すみませんセイルさ、ま」
上体を起こそうとしていたカイトを制したセイルは、横たわるカイトとサラに向けて回復魔法を施した。
カイトのキズは騎士の鎧を貫いて身体の側面を抉っていた。先ほどの凶魔の鉤爪にやられたキズだろう。
「カイト危なかったですね。サラも念のためにしましたが、二人とも体調はどうですか?」
「はい、セイル様。もう大丈夫ですありがとうございました!」
腹部のキズを確認しつつゆっくりと上体を起こしたカイトは、セイルに向かって頭を下げた。
「はい、私も大丈夫です」
続いてサラもカイトを倣って頭を下げた。
優しく頷き返したセイルはゆっくりと立ち上がり辺りを見回した。
――ん? この聖力は……
「あの〜セイル様……?」
「はい、どうかしましたか?」
「セイル様はどうして普通に聖剣が使えるんですか、セイル様は司教ですよね? 司教様は魔法効果を高める聖杖を使うと習いました」
サラとカイトは疑問にもにた表情を浮かべているが、その眼差しは憧れに近いもののように感じた。
「……よく覚えてましたね」
「「はい」」
少し照れるサラとカイト、自分の思いとは裏腹に助祭、司祭、司教と昇格してしまったセイルは妬まれることはあっても憧れの視線を向けられることはなかった。
――こんなこと……
セイルは聖騎士時代を思い出し懐かしく思い、口元を少し緩めた。
「ふっ、それは私が元聖騎士だからですよ」
「ええ、セイル様は聖騎士だったのですか!?」
「はい、と言ってもBランクまでです。
その後は結界魔法の適性が発現して助祭にされてしまったんですよ」
――まあ、そのせいで上層部から嫌われているんですよね。
助祭からは幹部候補との位置付けになる。そのためSランクの聖騎士よりも立場が上になった。
助祭になると聖騎士のように前衛を務めることはなく、司祭、司教、大司教の補助のほかにも、戦闘では聖騎士団の指揮と、聖域結界による後方支援がメインになる。
だが元聖騎士だったセイルは前衛としても優秀だった。
そのため自身の地位を脅かす存在になりうるセイルは早々に上層部から疎まれてしまった。
「そうだったんですか。でも、ラグナ隊長よりもすごく感じました!」
「いえいえ、さすがにそれは無理ですよ。本気になったラグナの相手など私ではとても無理です」
――魔力が増えた分、体力は随分と落ちてしまいましたからね。
「そうなんですか」
「そうです……む!?」
セイルは感じ取っていた聖力が急に大きく膨らみその意図を探った。
――これは……ラグナ……そうですか、凶魔を誘っているのですね。他には……ソートにラーズですね。
「どうやらラグナが凶魔を誘っているようです」
「隊長が!?」
「はい、私たちもそちらを目指しますよ」
「「え」」
「ほら、グズグズせず歩いてください」
――――
――
「おい、お前の仲間がわざとらしく聖力を放っているぞ。なぜか分かるか?」
「分かるわけないじゃない、です」
「はあ」
――まあ、見るからに優秀そうな顔、してないもんな……
「……な、なによ、その顔……」
「いや、何も……」
俺が無視して歩き出すと見習い聖騎士が慌ててついてくると、また後ろの方で勝手に話し始める。
「あーもう、ちょっと……あのね。いくら私が優秀でも、私、見習い聖騎士になって一年も経ってないんだよね」
見習い聖騎士は何か話してないと不安なのだろうか、先ほどからずっとこんな調子だ。
仕方なく俺も付き合ってやるんだが――
「ほう、そうなのか」
「そうだよ。それにもうヘトヘトで聖力を感じとる気力もないんですよ」
見習い聖騎士がなぜか胸を張った。
そこは威張ることじゃないと思うが、それよりも俺は、見習い聖騎士が着ている鎧が邪魔で邪魔で仕方ない。
「はぁ……そうかよ」
「むう……また呆れた顔してる」
『悪魔くずれもうすぐ。人族もいる』
グウのナビで進んでいるが、どうやら悪魔くずれの近くまで近づけたようだが――
――ふむ。人族は、聖騎士だろうけど……気配が弱々しいな。
『悪魔くずれ移動する』
『了解、とりあえず行ってみる』
「おい、そんなことより悪魔くずれがの近くまで来た。
お前の仲間の聖力に誘われてそっちに行きそうだから急ぐぞ」
――まったく、逃げられたら面倒だろうが……
「ほえ、ええ! 悪運くずれって凶魔でしょ、なんでこっちからわざわざ向かって行く必要があるのっ!! 行くならそっちの聖力の方じゃないの……」
「うるさい。とっとと走らないと、お前一人置いて行くぞ」
「はい走ります。走りますから置いて行かないでください」
数メートル軽く走っただけで見習い聖騎士がもう離れている。
「待って、待ってください」
その顔は今にも泣きそうだ。
「ったく、お前は遅えな」
「え、え、ぎゃああぁぁぁ……あ、あれ?」
見た目は割と可愛らしいがその悲鳴はまったく可愛らしさのカケラもない。
俺は足の遅い見習い聖騎士を尻尾に絡め持ち上げるとそのまま迷宮を駆けた。
「……な、なんか楽、これいいかも……」
――こいつ……
全力で駆けて数分、赤い液体を口から滴らせた赤黒い悪魔くずれを捉えた。
「いたっ!!」
その悪魔くずれは聖力に誘われ迷宮の上の階を目指しているようだが、先回りした通路でうまく遭遇した。
「ひぃぃ、で、出たぁ。私あいつ嫌ぁ!!」
背後から悲鳴が聞こえてきるが、俺はそれを気にすることなく悪魔くずれとの距離を詰める。
「おっと、逃がさんよ」
素早く悪魔くずれの正面に立った俺は、そのまま顔面を鷲掴みにし後頭部から地に叩きつけた。
「終わりだな」
口から赤い泡を吹き意識のない悪魔くずれの頭に圧縮させた魔力を押し込み内側から爆発させる。
パンッ!!
いつものように迷宮の地には大きな陥没をつくってしまったが、悪魔くずれはちゃんと仕留めてやった。
「ありがたく思えよ……」
俺にとっては、もはや作業に近いものになっているが、たぶん悪魔くずれは痛みを感じることもなく消滅したと思う。
俺は転がった黒い水晶を踏み砕いた。
「さてと、次は……んっ」
俺は人族の僅かな気配を感じた。
――その言えば……人族の気配もあったな……
俺はちらりと後ろ目に尻尾で掴んだままの見習い聖騎士を見た。
「な、何よ」
口は悪いが涙目のまま大人しくしている……
「人族の気配が僅かにある……多分お前の仲間だ」
「え、ほんと! 誰かな……」
見習い聖騎士は、涙目の顔から一瞬にして笑顔に変わった。けど、その笑顔を見たらなんとなく……
「……」
――うーむ。聖騎士……面倒だ。無視するか……
そんなことをつい思ってしまう。
「さてと……『グウ』」
『次は一回戻る』
俺が次の悪魔くずれの位置をグウに頼んだところで――
「ふふ、サラかな……」
呟くように見習い聖騎士が女の名前を言った。
「何、他にも女聖騎士がいるのか?」
「そんなの普通にいるに決まってるじゃない。何言ってるの……」
「ふむ。それはけしからんな……」
――けしからん女聖騎士が、この迷宮にもう一人いたなんてな……ふふふ。
「けしからんって? あー、その顔……」
見習い聖騎士がジト目を向けてくるが――
――ん? あれ、気配が今にも消えそう……?
「うーん。そいつ、死にかけてるな」
「ちょ、ちょっと、急いでよ。サラかもしれないし」
――うむ。それは俺も困る……
「ああ」
小さな気配を探りつつ数分進むと袋小路の通路で横たわる聖騎士を見つけた。
「こ、こいつは……」
「きゃっ……」
その聖騎士は先ほどの悪魔くずれに喰い荒らされ酷い有り様だった。
見習い聖騎士は思わず両手で顔を覆い隠した。
見れば見るほど酷い有り様だと思う。息をしているのが不思議なくらいだ。
――ん? こいつ……回復魔法が使える? いや違う再生スキルか……だが、そのスキルの力は微々たるものだな……ふむ。このキズ、自力ではまず助からないな……
恐らく先ほど俺が処理した悪魔くずれは、食事中に聖力に誘われそちらに向かったのだろう。
だから辛うじて生き残れた。
「あああ、アル……あなたアルね!!」
先ほどまで顔を両手で覆っていたはずの見習い聖騎士の脚が空を泳いだ。
恐らく俺の尻尾に掴まれていることを忘れ駆け寄ろうとしたのだろう。けど今は……
――こいつ、どこかで……見たことある。どこだ?
「……ィナ……」
――ん?
すでに意識もないはずなのにその聖騎士は何かを呟いていた。
「ァ……ィナ……ま……ろ……」
――あ、い、な? ……アイナ……?
「……むかえ……いく……アイナ……」
「っ!?」
その名前を耳にした途端に、懐かしいギルド内での情景が俺の頭の中に浮かび上がった。
――「ハンター様……お願いお兄ちゃん……助けて」
――「クロー、私たちからもお願い!」
そう冒険者の真似事を始めたばかりの頃、俺は女性三人から少年を助けてくれとお願いされた。
二人は俺の妻エリザとマリー。そしてもう一人の少女の名が……アイナだった。
この少年は間違いなくあの時の少年だ。
別れ際でも俺はガラにもなく「何かあれば呼べ」そう伝えた。
今思い出してもなぜその時は、そんな言動をしてしまったのか理解できないが、結局あの時もあの後も、約束はしたが何もしてやっていない――
――……アイナ、か……
「…………一度だけだ」
「え、何を……」
俺は言い訳がましくそう呟くと所望魔法を使った。
『我は所望する……』
これは至る所にある欠損があまりにも酷く、いつ事切れてもおかしくない状態だったため、本人の体力を消費して回復する回復魔法の使用を避けたためだ。
俺が右手をかざすと聖騎士の少年の身体は眩い光に包まれた。
身体にキズや欠損が酷かったせいか、青白い光は細かい粒子になりしばらく少年の回りをぐるぐると回っていた。
そして、青白い光の粒子が全て少年の身体に吸い込まれた後、少年は元の姿へと戻っていた。
「え、ええ!! な、なんで!?」
見習い聖騎士が俺と少年を見比べ理解できないと首を振っている。
「こいつの知り合いと約束したことがあった」
見習い聖騎士にはそう言って誤魔化したが――
――ん? ラット?
そう、先ほどからラットからも謝罪の思念がばんばん送られてくる。
――『主……』
ラットは悪魔時代、この少年と契約をしたがセリスによって遮られ履行できなかった。
その無念の念がラットの思念によって送られてくる。が、そのラットからの思念は少しずれていた。
なんでもラットの思念によると、その時の狡知な行動が、俺の使い魔として相応しくなくて許せないらしい。
これは何というか……俺のことをどう思っているのか聞くのが怖くなったが、これはラットのためだと思い一肌脱いでやることにした。
――『心配するな、俺が主としてラットの分まで借りを返しといてやる』
背後にいる見習い聖騎士にバレないよう、俺はまだ意識のない少年の額に手を置き、さらに悪魔法:悪運を刻んでやった。
『悪魔法、悪運……』
悪因は小さなものにしたから、よほどのことがない限り気づかれることはないが、この悪運とは、結局のところ運がめちゃくちゃよくなってしまう。悪魔らしくない悪因だ。だから滅多に使うことはない。
悪魔なのに運をよくしてやるってどんな悪因だと今までは思っていたが――
――『主、ありがとう』
――『主として当然のことをした。ラットは俺の優秀な使い魔だからな』
――『主、ラットもっと頑張る』
――『おう』
ラットから無念の念の思念が来なくなった。
たまには使い魔のために動いてやる俺も悪くないと思った。
最後まで読んでいただきありがとうございます^ ^




