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更新遅くなりました。
すみませんm(_ _)m
視界がぐにゃりと歪み、戻った時にはニワの迷宮主の部屋とよく似た部屋に立っていた。
辺り一面、土壁で覆われて奥にはニワの部屋で見たことのある大きなモニターがある、その前に30センチくらいの土っぽい人形がぷかぷか浮いている。
その人形の気配はどこかニワに似ていて……たぶん弱い。どこの迷宮主も主自身は強くないのだろうか?
と、つい余計なことを考えてしまう。
その人形が俺の気配に気づいたのだろう、振り返ると、焦る素ぶりをみせることなく、俺をジーっと見つめている。
――……土偶か。
迷宮の名前からして予想していたが、振り返ったその姿はまさに土偶だ。表情なんてない。
その無表情の土人形が、ぷかぷか浮かびながらこちらに向かってくる。
俺も、ニワのハニワを見ていたので今さら驚くこともない、人化を解き悪魔の姿を晒しその土人形に歩み寄った。
「ドの迷宮主のグウであってるか?」
「……グウはグウ」
その土人形が俺の問いに少し間を開けながらも、身体全体を使って肯定の意思を伝えてきた。
「おまえが、悪魔のクロー?」
見た目に反して子どもっぽく可愛らしい声は覇気がないものの、身体全体を傾けつつ俺に尋ね返してきた。
ニワのハニワ姿とそう変わらない土偶のグウは、身体に関節なんて見当たらないので、身体の傾け具合からも、本人は首を傾げているつもりなのだろう。
「ああ、俺はクロー。悪魔のクローだ。それで、悪魔の俺に話とはなんだ?」
「うん。あれ……」
そう言ったグウは大きなモニターの方に身体ごと向き直ると、モニターの画面をいくつにも分割させた。
「みて」
土でできた指示棒を創り出したグウが、その指示棒を操り画面の方を指した。
「ん?」
画面一つ一つには、迷宮内それぞれ別々の場所を映し出しているようだが、そのすべての画面には思わず眉を顰めてしまう異形な存在を映し出していた。
「……困ってる」
「こいつら……悪魔か!?」
そう、すべての画面には、俺が今まで見たこともない、全身が赤黒く脈打つ異形な姿をした悪魔を映し出していた。
グウはコクリと頷くように身体全体で肯定してみせる。
「こいつら……」
――ぅげっ!
「喰ってやがる」
その映し出された異形な悪魔たちは、ハンターらしき物体や、迷宮の魔物らしき物体を獣のように貪り喰らっていた。
まるで何かに取り憑かれたように夢中で喰らっている。とても理性のあった悪魔の行動とは思えない。
そりゃあ、中には狂ったように血肉を貪り食べる奴はいるかもしれないが、あくまでも対価として血肉を求めた結果だ。感情値にもなるし、知性のかけらを微塵も感じさせないこいつらと違う。
魔物だってそうだ。生のまま喰らいついて食べる、そんな習慣は悪魔でもない。
――……あり得ない。
俺は意図せず首を振った。
――ん!?
【いや〜、やられたよ】
そんな悪魔の囁きとともに周りの空間が色あせていく。すべての音が止み、動きが止まる。俺は身体、指一本すら動かすことができなくなった。
――……囁き、か……これはどういうことだ?
【くっくっく、すごいだろ。あ〜、それより今は邪魔だ。邪魔神が僕の悪魔界域に干渉してきたんだよ】
――邪魔……神が干渉?
【そうだよ。舐められたもんだ。僕が気づかないとでも思ったのかね。あ、ちなみにボクも神だよ。もう分かってたでしょ?】
――……
【あれれ、もしかして気づいてなかった……今だって時間止めてるでしょ?】
俺は思わず天を仰いだ。と言っても身体は動かないので気分だけ……
俺としては、神に近い存在だろうと当たりをつけていたけど……なんてこった。
この悪魔界のトップだ。納得する部分もあるが、なぜそんな奴が俺個人に囁いているんだよ。
色々尋ねたい衝動が湧き上がるが墓穴を掘りそうなので敢えてスルーすることにした。
【くっくっく、反応なし? まあ、いいや。それで、そいつらはいいように利用された成れの果てなんだよね。
人族は凶魔と大層な名で呼んでいるようだけど、あれは悪魔くずれ、つまりクズさ。ほんと情けない。あーあ、感情値も随分と流されたよ】
――クズ、れ? 感情値が流れたとはどういうことだ?
【邪魔水晶さ。邪魔神もよく真似たもんだよ。お陰で時間がかかった】
――……。は、はぁ……非常に分かりずらいんだが……
【そう? 屋敷に魔水晶があるでしょ、あれとよく似た小型版。それを持っていれば自分の稼いだ感情値は独り占めできるとか、バレないとか、都合よく騙され利用されたようだね】
――利用されたようだねってことは解決済、なのか?
【いいや。色々と矛盾や歪みが生じてねコーディネーターが動いてやっと分かったのさ。
あーそうだ。邪魔水晶は持っていると肉体に侵食するからさ、今度から定期的に配下をスキャンさせるようにしようかな。うん。そうしよう。その方が僕の仕事も減りそうだし……
いつまでも好き勝手やらせるわけには……クックックッ、イカナイカラネ】
囁きなのに思わず背筋が凍りついた。本能的に思う、逆らったらマズイと……
【それで受けるんでしょ? 迷宮主の要求。いや〜、よかったよ。みんな迷宮内は複雑やら、ややこしいやら、なんだかんだで面倒だって言ってさ、なかなかいい返事くれなかったんだよ。クズは残さず駆除しないといけないのにさ。
君なら迷宮主と面識があるわけだし、迷宮主の力を借りれば一匹残らず駆除できるでしょ。駆除してよね。じゃ、任せたよ。候補】
――……ふぅ、行ったか? しかし、候補か……嫌な呼び名だ。まあ、この迷宮内のことは初めから片付けて殺るつもりだったからいい……ん?
【……あ、そうだった。この迷宮に邪魔が一匹潜りこんでるからさ、そいつも片付けてね】
――邪魔……
【うん。邪魔神の駒だよ。悪魔神の僕が君たち悪魔を使ってるのと一緒さ】
――……
【ん〜うん。ついでだ、邪魔神はさ、僕の悪魔界域を真似たおバカな神なんだよ。
ぷくく、そいつの邪魔界域はもうすぐ破綻するんだ。それが邪魔神は気に入らないようだね。他の神にもバカにされてるしね。ぷくく】
――……あ〜、神とか破綻とか……俺には関係ないから、もう何も教えてくれなくていいぞ……です。
【そりゃそうだよね。邪魔神の駒である邪魔が人族を食い物にしていればいずれ行き詰まる。
だから邪魔神は僕を妬み、僕の界域から感情値を奪ってるんだよね。
感情値は僕たち神の力の源でもあるから。大方、邪魔界域に新たな人界でも創ろうと考えていたんだろうね】
――絶対わざとだろ……わざと聞かせたな。
【くっくっく、さあね。でも少しは理解できただろ? 邪魔とクズは徹底的に潰さなきゃ。あんな骨だけやろう、その内すり潰して界域の狭間に棄ててやる】
――……骨だけって邪魔神のことか?
【そうさ。駒である邪魔もそう。触覚の生えた人型の骸骨だと思えばいい。ほんと面白みのない貧相な奴らさ。自身に血肉がないから常に欲しているのさ。
あ、たまに仮面をつけて人族や悪魔に紛れ込む厄介な奴もいるから、おっと、そろそろ時間だ。じゃあね、任せたよ】
悪魔の囁きが聞こえなくなると、周りに色が入り、気配や音色んなものが動きはじめた。
――はぁ。
もうため息しか出ない。
「……ポイント……もうない」
グウの可愛らしい声が癒しに聞こえる。土偶だけど……
俺と悪魔神との囁きがあったことなど知らないグウは、モニターを眺めつつ淡々とした口調で呟いている。
その姿はどこか諦めにも似た哀愁感を漂わせていた。
「……そうか」
「うん。それで――」
グウが言うには、悪魔くずれが迷宮に入り込んだ当初は不純物ポイントになると嬉々として放置していたらしいが、その悪魔くずれは、次第に勢力を広げながら迷宮内の魔物やハンターを喰らいだしたそうだ。
一見、個々バラバラに活動しているようにみえるが、そうではないようだとグウが言う。
どうやら悪魔神が言った邪魔とやらが潜んでいることは間違いないようだ。
「ふむ」
さすがにマズイと感じたグウは、どうにかして悪魔くずれを迷宮から排除しようと、すべてのポイントを使って魔物をけしかけたそうだが、時既に遅く、勢力を広げていた悪魔くずれに、返り討ちにされ餌食にされてしまったのだと言ったグウが、肩を落としたように感じた。土偶だけど……
「では、今は迷宮内に人族も、魔物も残って居ない、のか?」
「ううん」
グウが身体を左右に振った。
残り少なくなった魔物は、悪魔くずれに手を出さないように指示をだし、魔物を産み出す迷宮渦は活動を停止させていたそうだ。
そんな時、たまたま人化できたことを自慢してきたニワから俺の存在を知ったそうだ。
「そうだったのか……」
「うん……」
――まあ、どちらにしても俺に選択肢なんてない。悪魔くずれは処理しなければならないんだ。
「よし。グウの要求はこいつらをどうにかすればいいんだろう?」
「うん……できる?」
「そうだな……対価はニワと同じように、迷宮内の感情値を俺がもらうってことでいいんだな?」
――騙すようで悪いが、俺にも都合があるからな。
「うん……いい」
「よし、決まりだな。人族も居ないようだから、手取り早くすませてやるよ」
「ん? 人族……一組動いてる」
「一組?」
「うん……いま、地下三階にいる」
グウは頷くと、その人族の姿をモニターに映し出した。
モニターに映る人族が二体の悪魔くずれ相手に奮闘している。
「ほう。こいつら悪魔相手に……なかなかいい動き……? ……って、こいつら聖騎士じゃねぇか」
「聖騎士?」
「ああ、それに、この聖騎士たち……どこかで見たことあるような。まあいい、それより――」
俺は使い魔のラット、ズック、ニルを召喚した。
エリザたちも今日は大人しくしていると言っていたし、ポイントのない迷宮主を一人にできないと思い召喚した。
ニルは悪魔獣デビルホース。シュラルに貰った使い魔の卵から孵った六本足の空を駆ける大きく真っ黒な馬。特徴としてユニコーンみたいに額に大きく立派なツノと真っ赤な鬣がある。
有難いことに、ニルの巨体はエリザ、マリー、セリスの三人をいっぺんに乗せてもまだまだ余裕があるが、小さくもなれ普通の馬のように振る舞うこともできる。優れた悪魔獣だった。
「俺の使い魔だ。ラット、ズック、ニル、という。お前たち俺が迷宮の掃除をしている間、迷宮主のグウを頼む」
『主、任せて』
『あるじ、まかせる』
『ワカッタ』
「……」
グウは慣れない使い魔に怖々と接していたが、大丈夫だろう。
「みんな行ってくる。グウ、悪魔の場所を頼むな」
「……分かった」
グウの返事は泣きそうな声に聞こえたが大丈夫だろう。
俺はグウに念話で指示をもらいながら、最下層から悪魔くずれを掃除して行くことにした。
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