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更新遅くなりました。
すみませんm(_ _)m
先導し俺の前をゆっくりと飛ぶセラが急に速度を落とし隣に並んだ。
――ん?
元々セラの方を見ていた(どことは言わない)俺はすぐ隣に並んだセラの顔色を窺ったが、嫌な顔をしているわけではないので俺の視線を不愉快に感じたわけではなさそうだ。
不思議に思い尋ねてみると――
「何かあったのか?」
「……下の方はご覧になられましたか?」
そんなことを言う。ただ俺と話がしたかっただけなのだろうか? そう思うとただ黙ってセラのお尻……けふん、後ろ姿を眺めているより楽しい気分になった。
「……想像以上に栄えているんだな……」
そう、俺たちは結構な時間、飛行しているのだが、一向に街の終わりが見えてこない。
それほど人界の街とは規模が違う。それだけで悪魔と人族との力の差にかなりの開きがあることを知れた気がする。
だが、均等の取れた同じような建物が延々と続く街並みは正直、見ていて面白くもなんともない。
――ん? ほぅ……いろんな種族がいるんだな……
地上では俺の知らない、見たことのない種族も多く、そんな悪魔たちが活動しているようだが、いったい何をしているのか? 商売をしているような悪魔は見当たらない。
――まあ、当然といえば当然か……
誰でも必要なものは感情値を使えばすぐに手元に届くわけで、仮に商売を始めたところで儲かるはずもない。
「悪魔界の住人はすべて悪魔神様の加護を受けた悪魔神兵です」
「……ほう」
――それはまた物騒だな……
「加護悪魔といいます。与えられた使命が違いますが、立場としましては配属悪魔と同じようなものだと思っていただければ良いかと思います」
「ふむ」
――配属悪魔とね……直接、自分で感情値を獲なくても支給されてるってことだろうから……要は配属悪魔も加護悪魔も公務員みたいなものってことか? ……ん? じゃあなんだ、こいつら納値の心配をしなくてもいいってことだろうから……気持ち的にはスローライフ?
そんな知りもしないことを都合よく考えていると、セラが少し躊躇した様子で口を開いてきた。
たぶん俺の勝手なうらやま思想をセラに感じとられてしまったのだろう。
「ある条件を満たすと誰でも悪魔神様の加護は得られます。クロー様は、その……加護悪魔にご興味が……」
――ないな。あるわけない……俺には配下もいれば大事な大事な妻たちもいる。そんな生活を捨ててまで加護悪魔になんてなりなくない……
「……セラ、俺に悪魔神兵なんて無理だぞ、これからもよろしく頼むな」
無表情を貫いていたセラだったがほんの僅かにだが目尻が下がったように感じる。
「はい。お任せください」
セラも、よく見なくてもかなりの美人さんだからちょっとした表情の変化を見るだけでも癒しになる。
――ふむ。
おっと、勘違いしてもらっては困る。俺にとっての一番の癒しはおっぱいだぞ。特に妻たちのおっぱいがいい……ん? 妻たちのおっぱいだからいい……
――そうだ。妻たちのおっぱいだ。
妻たちの笑顔、激しく揺れるおっぱい。思い出しただけで笑みがこぼれる……
――水着なんて着せたらすごいことになりそ……そうだ。今度は海に行こう。妻たちを連れて海だ……ふふふ……スローライフに海は必須だろう……やはり俺は、今のままスローライフ環境を整えていくべきだ。ふふ……ふふふ……ふははは……ふははははは……!!
「……さま…」
「クロー様?」
「ははは? ……ぁ!?」
セラの声に冷静さを取り戻した俺だが、セラの視線が少し冷たい気がする。その表情からも、もしかしたら何度も呼ばれていたのかも知れない。
「セラすまない。少し妄想……じゃなく考え込んでいたようだ」
「そうでしたか、それは申し訳ございません」
「いや、いいんだ。ところで、どうかしたのか?」
「はい。クロー様……それでご確認なのですが、クロー様は力を得たくてナナ様をお側に置いたのですか? それともつながりを求めてのことですか?」
――何だ? こっちがセラにとって本題だったのか? だがセラの言っていることがまったく理解できない。
「……力? つながり? ただなりゆきだっただけの話だが、力やつながりを得るのにナナは関係ないぞ?」
「そう、なのですか……つながりはないと思ってましたが、しかし……クロー様のそのお姿は、間違いなく悪化を……」
セラが右手を軽くアゴに当てて、何やら一人悩み始めてしまった。
――悪化? ……悪化ね。状態が悪くなるってことじゃなさそうだが……
「……すまん。俺にはセラの言っていることが分からないが」
セラが意味深なことを言うものだからこちらまで気になってきた。それでセラに説明を求めてみるも――
「……ナナ様が伝えているものと思いましたが……ナナ様もあんな様子……もしやナナ様ご自身もご存知ではなく……うーむ……そうだとすれば……」
珍しく俺の声が届いていないようだ。まだ一人で思い悩んでいる。
「セラ?」
「……!?」
俺がセラの顔を眺めもう一度呼びかけてみると、セラが慌ててこちらを見た。
「……これは、私としたことが申し訳ございません」
「気にするな、それより何をそんなに考えていたんだ?」
「はい。私はクロー様の専属悪魔です。クロー様が何も知らないとなるとやはり危険だと判断いたしました。
立場上可能な範囲でしかお教えできませんが聞いていただけますか?」
――危険?
急に真剣な表情になったセラがそんなことを言う。
――嫌な予感しかしない……
「ああ」
「では、まずナナ様です。ナナ様は、南人界の管理を司る特級悪魔シュラル様の眷属だということはご存知ですか?」
――ぶふっ!? ……いきなり危険なワードが出てきたが……ま、まぁ、無難なところから聞いて落ち着こうではないか……
「……セラすまん。特級悪魔とはなんだ」
――実は大したことない話につながるかもしれないしな……
ほんと、最近は俺の記憶にないことばかりで困る。俺はたしかに十数年もの間、睡眠学習を受けたはずなのに、なぜこうも知らないことばかりがつづくんだ。
それに、ナナもたしか、支配地持ちの悪魔になったら知る情報もあると苦し紛れに言ったことがあったが、特別、睡眠学習のような刷り込みされたような情報なんてない。
――ないよな?
キャパオーバーだったとか言われたら立ち直れんが、こればかりは誰も教えてくれないしな……ほら見ろ。セラが不思議そうに俺の顔を見ているじゃないか。
やはり俺には睡眠学習が少し足りてないんじゃないのか?
「……特級悪魔とは、第一位悪魔になった者の中から、特に優秀だと悪魔神様に認められた者です。悪魔界に四人しかおりません」
「第一位悪魔のさらに上、そんなものが……」
「はい。その四人は特別に四つの人界(東人界、西人界、南人界、北人界)それぞれ管理することを任されているのです」
――今何と?? 人界が四つ? なんだよそれ!
「人界は四つもあるのか?」
「はい」
――四つ……そういうことか。どうりで。……おかしいと思ってたんだ。支配塔のトビラの数はやたら多い……その割には俺の支配地の周辺はスカスカ……これで納得だな。
「その四人は特級悪魔になられた際、支配地を解放していますので支配地こそ所有しておりませんが、得られる感情値は、任された人界の中で納められた感情値の一部を管理料として獲ることができるようです」
「……ほ、ほほう。それはまた、圧倒的な数値になるのだろうな。
まぁ……俺には関係ない話だろうが……」
――考え方としては国税と地方税みたいなもんなのかね……
「はい」
「なるほど。それでナナは、そのシュなんたらってヤツの眷属だったってことだよな……なるほど、なるほど……たしかに何も知らなかったら危険だったな……」
――よし。これからナナの仕事は屋敷内のパトロールに変更しよう。
やばい、セラが少し呆れた様子で俺を見ていた気がする。
「そうではありません。ナナ様の保有する血統魔法が少し危険なのです」
「血統魔法? ああ、たしか〈権力〉だったか……俺は一度使われているが、自分の不利な条件でしか発動できないようだし特別危険視するほどのことではないと思うが……」
「いいえ。それも狙った主の配下として確実に仕えるためのものですから油断ならないのですが。後の二つ、〈衝動解〉と〈骨抜き〉こちらがさらに問題があるのです」
「衝動解と骨抜き? 嫌な魔法名だな……」
「非常に危険で常に警戒すべき魔法です――」
セラが二つの魔法について簡潔に教えてくれたが、その存在を知らなければたしかに危険な代物だった。
衝動解、これは悪魔なら誰でも、内に秘めている黒い衝動(破壊衝動と殺戮衝動)通常ならば無意識に自我を保とうと抑えている衝動なのだが、その枷を緩め増幅させてしまう厄介な魔法で対象者は契約を結んだ主のみ。
ナナの場合は配下契約している俺にあたる。
だがこれは魔法と言ってもナナ自身の意思と関係なく常時発動しつづけるタイプのものらしく、その消費量も僅か、ただ魔力が切れようが命を削ってまでも発動しつづけるというナナ自身にとってもリスクの高い魔法のようだ。
この魔法の下ではちょっとしたことで黒い衝動は増幅され襲いくる。下手をすればその黒い衝動に呑まれ自我を失ってしまう。だが、その黒い衝動に呑まれず抗い、逆に取り込めれば今までと比べ物にならないくらいの力を得ることができるらしい。
それを悪化というらしく、俺はこれを何度か経験しているだろうことをセラに言われたが、姿が変わったくらいで俺にその自覚はない。
では逆に、この魔法で増幅された黒い衝動に呑まれてしまうと、破壊と殺戮の限りを尽くしその果てに、虚無感に襲われる。
虚無感に襲われたものは人格が崩壊し他人の助力なしでは立ち直ることは難しいだろうとセラが言う。
そしてその虚無感に襲われているタイミングでもう一つの骨抜きが発動され、はれてシュラルに忠実な駒のできあがりとなるわけなんだと。
そうやってシュラルは眷属を送り出し駒を増やしつつ自身の地位を盤石なものとしていったらしく、今でもそれを継続しているそうだ。
では、その送り出したナナを含めたその眷属は何者かと言うと、実はよく分かってないらしく。シュラルの子どもではないことはたしかなようだ。
一番有力な情報としてクローンでは? と言われているそうだが、これもまた俺みたいなブラックホールのような悪魔の渦に湧いた、ただの悪魔にシュラルの固有スキルらしいクローン血種を与えられ生き残れた者を保護している姿は何度か目撃されているらしく、ほんとうの意味のクローン悪魔ということではなさそうだが、他にも色んな情報が飛び交い全てを否定することはできないそうだ。
まあ、早い話がシュラルの能力の一部、血統魔法を与えられ何らかを施された悪魔なのだろう。
だがナナの場合は元々の個体の自我が強くシュラルの意思が感じられないとセラが教えてくれた。
それが分かっただけでも少しホッとした自分がいる。
――なるほどね。あの抑えきれない黒い衝動はナナの魔法の影響もあったわけか……でもな……
「セラありがとう。これで不可解だったことの一つが分かった。がナナは俺の配下にかわりないぞ。なぜこのことを今のタイミングで俺に?」
「はい。実は先ほど配属悪魔であるセバスから連絡が入り、悪魔神殿に仲介役としてシュラル様がいらっしゃるというのです」
そう言ってセラは小さく見えてきた悪魔神殿を指差した。
その神殿は禍々しくも貫禄のある姿をしている。
「……なぜ?」
――何で、そんな奴がわざわざ出てくるんだよ。
「それはシュラル様が南人界の管理者だからだそうです」
「俺の支配地は南人界にあるってことか? それでもわざわざ本人が出てくる必要はないんじゃないのか?」
「はい。そうなのです。私も急なことで何を企んでいるのか分かりません。それで、つながりのあったナナ様のことだけでもと思いお伝えいたしましたが、余計なお世話でしたでしょうか?」
「いや、そんなことないぞ。……セラ助かる」
――まったく情報がないより遥かにマシだ。
「いえ。私にはこれだけしか……」
やはりセラも何やら気になる様子でどこか覇気がない。
――参った。厄介ごとの匂いしかしない。
「行くしかないよな」
「はい」
最後まで読んでいただいたありがとうございます。
説明、あまり長くしたくなかったのですが、すみませんm(__)m




