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更新遅くまりました。
すみません。
ゲートの抜けた先は小さな小部屋だった。この部屋には俺たちが通ってきた、俺の使用空間へと繋がるゲート以外は何もない。ほかには奥に出口らしいトビラが見える、ただそれだけだ。
「クロー様、ここが悪魔界の中で支配塔と呼ばれる管理塔です」
「支配塔? ああ、ここがそうなのか……」
「はい」
俺が使用する空間へのゲートはこの支配塔にある。
いや別に俺だけってわけじゃないんだが……簡単に説明すると、支配地持ち悪魔である第7位悪魔が一階層、第6位悪魔が二階層、第5位悪魔が三階層……と階位が上がるごとにゲートの位置も上がっていく。
そして最上階の七階層に第1位悪魔たち使用空間へと繋がるゲートがあるんだ。
まあ、階層が分けられている時点で、下位層の悪魔を小馬鹿にし、見下してくる悪魔がいることはセラに聞いた。
特に俺は種族がら絡まれやすいだろうから「私が周囲を警戒します」と俺のすぐ隣の位置に控えている。
専属配下になったばかりだというのにセラには気を使われる始末だ。
だから俺は悪魔界にくることを控えていたし、セラも懸念して――
――あれ、なぜか嬉しそう? 気のせい、か?
もしかしたらカマンティスもそんな輩で、俺が気に入らないからと悪戯を仕掛けてきたのでは? と今になって思う自分がいる。
みんなは俺の種族については何も言わない……だからこそ余計にそう思えてならない。
俺は急に人化が解けた自身の両手を眺めていた。
「……そうでしたクロー様。悪魔界では変身していようとも、みんな強制的に元の姿に戻されるのです……」
と言ったセラが、片方の頬に手を当てボーっとしている。
最近は俺が悪魔の姿に戻ると、配下たちはよくボーっとする。そして一言目には「何かやることはないか」のようなニュアンスで俺に仕事をしたいと言ってくる。
休める時は休んだ方がいいとやんわり追い返すんだが……これはやはり、迷宮のときに悪魔の囁きが勝手に流してきた、配下たちの囁きは何かの間違いだったようで、俺が迷宮を支配下に置き、我が支配地を黒字化したから、支配地持ちの悪魔として正式に認めてもらえたのだろうと思っている。
なんと言ってもデビルヒューマン族は悪魔界において意地汚い、弱くて使えない、何となく配下にしたくない小賢しい種族としてその名を馳せているらしいからな。
迷宮を支配地に置いてから余計に酷くなったイオナの俺に向ける眼差し……少し怖くなりつつあるが、同族であるイオナの話だから間違いないだろう。
「セラすまんな。ん?」
隣にいたはずのセラが、部屋のトビラを引き開けて待機している。
そのトビラには、まるで埋め込まれたような不思議な形で俺の使用空間内を上から見たような……そう、まるでジオラマ模型のような物が表示されていた。
「これは……俺の屋敷……」
さらにその下には俺の名前と保有支配地の数が表示されている。
――うーむ。これならトビラを見ただけで、俺の使用空間だと一目で分かるが……
「ああ、それは、物好きな高位悪魔の強い要望でそうなりました。ここに表示されているのは使用空間内の立体地図になります」
「何か意味があるのか?」
「いいえ、ただ自分の使用空間内がいかに充実して凄いのかを自慢したかったのでしょう。
それでも面白い発想だと採用されてしまい、今では全ての部屋のトビラに立体地図が表示されるようになっています」
「中がリアルタイムで覗かれているってことではないな……」
よく見なくても、その立体地図が静止しているのは分かるのだが、聞かずにはいられなかった。
――誰でも覗き見ることができる状態だったら気分が悪いしな。
「はい。これはただの立体地図になります」
「そうか、それならいいんだが……」
部屋から出ると、薄暗い空間が広がり、一箇所だけ、ぼんやりと青白い光を放ち続けている場所がある。
――ああ、あれは魔法陣か……
「クロー様。あれが上の階層へと繋がる魔法陣です――」
セラの説明によると支配塔は、中央に上の階層へ繋がる魔法陣があり、その魔法陣を囲むように悪魔たちの使用空間へと繋がるトビラが存在している。
この位置からでは奥の壁が見ないところをみると、この支配塔はかなりの大きさがあるように思える。
――まあ、それも外に出てみれば分かることなんだけどな……
「ん? ……分かっていたが、俺の使用空間はかなり広いな……ほかのやつの使用空間が狭く見える」
当然、ほかのトビラにも悪魔の名前のほかに立体地図が埋め込まれていたが、明らかに俺の使用空間より狭かった。
「はい。クロー様の支配地は第2位悪魔相当の使用空間になってますからね。
こちらに保有支配地の数が表示されてますが、その横が赤く塗り潰されています。
これがペナルティーのある支配地を含んでいるという意味です」
――いきなり赤字だったもんな。分かっていたが、やはりいわくつきの支配地だったのか……
「……なぁセラ、使用空間の広さは階位で決まることは分かったが、保有する支配地が増えた場合でも何か変わりはあるのか?」
「はい。クロー様の支配地のように例外もありますが、通常なら入ってくる感情値が増えます」
「ん? それだけか?」
「クロー様のおっしゃってる意味が分かりかねますが……」
セラがきょとんとした表情をしている。いつもは線のように細い目でにこやかな笑顔を浮かべているセラだっただけに、目を見開いた表情はたまにしか拝めない。少し得した気分になった。
「……あ〜。いや、いいんだ。そうだよな感情値が全てだよな」
「はい」
少しだけ周りの第7位悪魔のトビラの前を通り、立体地図を眺めながら外へと向かったのだが、支配地が増えている悪魔ほど立体地図内に見える屋敷に個性が表れていた。
使用できる感情値に余裕ができ、屋敷の方へ回せるようになったからだろうとセラが教えてくれたのだが――
そんな話を聞いたら余計に、所望魔法でどうにかできてしまう俺は少しおかしいのだろう。
ふと、悪魔の囁きの言葉が頭に過ぎる。
――【気にしなくていいよ……】ふむ。
俺も今さらだと思ってるし、気にしないことにした。
「クロー様? どうかされました?」
「いや……参考になるものでもあればと思ってな……これとか、こんなヤツな……」
「なるほど……」
それはまだ、薄っすらと炎や氷、岩などで屋敷を覆っている程度だが、今後、悪魔の格が上がっていくとどんな屋敷になるのだろうか? と少し興味が湧いたが――
――住むところではないな……
そう思った途端にセラに微笑みを向けられた。どうやら嫌そうにしていたのが顔に出ていたらしい。気をつけねば。
――――
――
「おっ、外……あれ? 悪魔界ってこんなところだったのか?」
支配塔から出るとそこは高台だった。
おどろおどろしい世界が広がっていると想像を膨らませていた俺の目に、夕焼け空にきれいに栄えた街並みが入った。
――意外だ……悪魔界の景色もキレイじゃないか。捨てたもんじゃないか……
俺がキレイな街並みに見惚れていると――
「ふふ、驚かれましたか? 悪魔界の空はずっと血の色です。人界のように朝や昼、夜はありません」
「ち、血の色なのか!?」
「はい。全ての悪魔に、活力がでるように調整された環境になっています。クロー様はどうですか? 体調に変化はありませんか?」
――前言撤回。
「い、いや……問題ない。大丈夫だ」
「そうですか。慣れないうちは元気が出過ぎるようです。我慢して体調を崩しやすいので、その際は遠慮なくおっしゃってください」
セラの気遣いにはいつも頭が上がらないが――
――あれ、今一瞬だけ残念そうにしなかったか? ……気のせいか……
セラは次に何もない空に向けて指をさした。
「あちらに薄っすら見えますのが、あの城が、この悪魔界全てを司る悪魔神様の悪魔城です」
指差す方向をよく見れば空に大きな黒い影が薄っすらと見える。
「あそこに悪魔神様……」
「はい。記憶の刷り込み時に学ばれていると思いますが、基本的に配属悪魔でなければ、よほどのことがない限り、あの城に招かれることはないかと思います」
「へ、へぇ……」
――睡眠学習中に学んだ? な、なんでだよ。悪魔神様のことなんてまったく記憶にないぞ!?
俺が一人、記憶がないことに軽く動揺していると、セラが少し遠慮気味に俺の顔を覗き込んでいる。
「……ど、どうした?」
「……はい。今日、我々が向かう悪魔神殿はあちら……ここの高台からでは見えませんが、街の外れにある、泉のほとりありますので……」
「そうだな……飛んで行こう。セラ案内を頼めるか?」
「はい。お任せください」
セラが喜々として翼を広げ浮き上がると、俺もセラにつづいて翼を広げた。
「では、ご案内いたします」
「ああ、頼む」
――……ぬおっ!?
そう言って俺の前を飛ぶセラを見て、俺は後悔した。
どうしてセラにスカートを着用させなかったのかと……
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