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ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます。
――ん?
外から妻たちの賑やかな声が聞こえてくる。
「エリザ殿も、マリー殿もなかなか筋がいいぞ」
「本当ですか!」
「ああ、本当だ」
「セリスさん! セリスさん、じゃあ、あっちのすこし遠い方の的を狙ってみてもいいかな?」
少し興奮しているように見えるマリーが嬉しそうに遠くに見える的に指差した。
ちなみに、その的は俺が妻たちの練習用のために出してやったもので、動かないものから浮かんでゆらゆら揺れているもの、左右に揺れているもの、くるくる回っているものなどあらゆる状況を見越して設置してやったものだ。
「どれ……うーむ」
そう言うとセリスはマリーが指差した的に向け魔球を放った。スピードの乗ったセリスの魔球はいとも簡単にその的へと命中した。
「うわー」
「セリスさんすごい!!」
二人からきらきらと輝く瞳を向けられるセリスは照れくさそうに頭を描きながら――
「……すこし遠いが……まあ、大丈夫だろう」
そう言って二人に遠くの的の狙い方を教え始めた。
「……今の破裂音は……エリザたちの魔法か」
ただセリスの放った魔球は結構な威力があったようで、執務室にいた俺のところにまで音が響いてきた。
「頑張っているんだな、どれどれ……おお! 早速、装備してくれたのか……うんうん」
いつも以上に弾んで見えるエリザとマリーのおっぱいに癒されつつ――
――すぐに装備してくれるなんて、なんてできた妻たちだ。贈った俺としては嬉しい限りだ。
「ふふふふ……」
俺はしばらく妻たちの姿を眺めつつ癒しの時間を満喫していた。
どことは言わないが――
「今日の妻たちはいつも以上に元気でよろしい」
――むふ。なかなか似合ってるな。
そう、エリザとマリーは、俺がハの迷宮、ニワの部屋から取って……けふん、貰ってきたものを装備していた。
マリー曰く、エリザが装備しているのは美綺之鎧・婦人型。
全体的に銀色に金糸の紋様入った感じは、神秘的でセリスの鎧と似ているが、セリスの鎧を初めて見た時ほどのインパクトはない。
――残念だがセリスの鎧……あれは衝撃が強すぎたんだよな。
というのも、セリスはビキニタイプだが、エリザのはベアトップドレスのようなミニドレスタイプ。それでも今までで一番スカート丈が短い。
そのためミニドレスのスカートから伸びる美脚と、ズリ落ちないようにだろうが、おっぱいに胸元の鎧が少し食い込んでいて色っぽい。
――あれ……走ったらズリ落ちそうだな。
胸元が少し心配だが、ズリ落ちるなら俺の目の前でズリ落ちてほしいものだとそう望む自分がいる。
――セリスの金属ブラ……あれだって俺との模擬戦の時だけズレてポロリのサービスをしてくれるんだ。おや? もしかして、そういう仕様か?
おっと話がそれてしまった。そうエリザの鎧なんだが、不思議と触った感じはドレス生地と変わらないようにも感じたが、これもセリスの装備と同じもので金属製の布でちゃんとした鎧なんだそうな。
ただ本体から取り外し可能な肩のパーツが、セリスの内側へと丸みを帯びているのに対して、エリザのは戦う女神っぽく外側に広がっていてカッコいい。
――俺も鎧……着てみようかな……でもな、悪魔になったら吹き飛ぶんだよな……たぶん。
次にマリーの装備だが、美綺之鎧・参弐型と言うらしい。
全体的に銀色に金糸の紋様入り神秘的な感じはセリスとエリザの装備と一緒だ。こういうシリーズらしい。
やはりマリーの鎧も、セリスの鎧ほどのインパクトはなかった。
だが胴体がチューブトップのような鎧に腰の部分がミニスカート、それにシースルーのような透き通るひらひらした布がおまけで付いていた。
――おお、マリーのはおヘソが見えてしまうのか……適当にミニタイプとでも呼んどく?
マリーの言う製作者のビッキーさんは、ハの迷宮には似たようなタイプの装備を置いていったのだろうな。
そう思うと、少し残念でならないが、それでもエリザと同じようにスカートから伸びた引き締まった美脚に、ズリ落ちないように鎧に食い込んだおっぱいには、そそられるものがあった。
マリーに「迷宮行きたかった」と涙目で訴えられた時には少し困ってしまったからな。
――今度連れて行ってやらないとな……うほ。
妻たちは走りながら魔球を放つ練習を始めた。おっぱいがバインバインと跳ねている。
――そうだよ。これだよこれ。俺はずっとおっぱい……じゃなく、妻たちを眺めていたかったんだよ。まさにこれこそスローライフ。
「……ふふ、ふふふ」
ん? おっぱいばかり見て、大悪戯はどうするのかだって? ふふふ、心配しなくても、ちゃんと考えたんだ、どうやったらみんなに被害がなく俺が楽に勝てるか、をね。
そして、思いついたのが迷路を創り出すことだった。
参考にしたのはハの迷宮だった。あの四つん這いで通っていった狭い通路だ。
人一人がやっと通れる迷路を強度最大にして俺の使用空間いっぱいに出す。
これなら大人数で攻められようが、なんてことないんじゃないかと思っている。
ずっと四つん這いでいく迷路ってのも味があっていいよな……行き止まりなんかあったら大渋滞だ。
――ふははは、なかなか楽しそうだぞ。
あとは要所で俺が待ち構え一人ずつ潰していけばいい。みんなは後ろに待機してもらえないもいいな。
セラたちに第4位悪魔も結構いると聞いてはいるが焦りはない。
さすがの俺も自分の異常性には気づかされてしまったしな……考えたくもないんだけど……
――調整者……
俺はハの迷路、配下みんなの昇格、進化を知らせる囁きがあった時のことを思い出した。
――――
――
【あはは、いいね、いいね。配属悪魔の進化は初めてのことだよ。さすがコーディネーターだね】
――何を言っている。
俺は訳が分からず首を捻ることしかできなかった。
【ん? 何って君はコーディネーターなんだよね?】
――コーディネーター??
【あれれ、なんで? 覚えていないのかい?】
――そんな言葉、記憶にない……というか初めて聞いた。
【(むむ、あいつ、ちゃんと仕事してない)そう。まあ、正確には君はまだコーディネーターの候補なんだけどね】
――候補? さっきから意味が分からないんだが……
【うーんと……そうだね。早い話が、君に備わった異常な能力こそ、その証なんだけどねぇ……】
【固有魔法】
★所望魔法
【所持魔法】
悪魔法
攻撃魔法 防御魔法 補助魔法
回復魔法 移動魔法 生活魔法
【固有スキル】
不老 変身 威圧 体術 信用
魔力同調 悪魔の囁き
★攻撃無効 ★魔法無効 ★状態無効
――……
【今はそれだけしか証明できないや……ほら、君には四つ? あれ四つ??】
――た、たしかに……言われてみればそのスキルと魔法は少しおかしい、のかな?
【少し?】
――……いや……悪魔はみんなこんなもんだと思っていたんだけど……
【……悪魔はこんなもの? 悪魔とは……悪魔ね。君はまるで違う何か……ああ、なるほど君はそうだったね。いけね。だから候補者に選ばれていたんだよね。ぷふっ、いいねぇ、いいねぇ。君、やっぱり面白いよ】
――なあ? ……もしかして俺って何か役目があるのか!? それだと正直困るんだが……スローライフや、スローライフとか、スローライフが……
【ぷくくくっ……なんだよそれ。くっくっくっ、今は候補者だし気にしないでいいよ。面白くなくなるし……
あ〜でもディディスの時は君が近くにいてくれてよかったよ。手間が省けたしね】
――ディディスだと!? じゃあ、なんだ、あの時は……
【あちゃぁ、ボクの悪い癖だ。つい話し過ぎちゃったよ】
――嘘つけ……んで? ほらつづきは?
【あはは。君のそういったところ……楽しいねぇ。そうだよ。ほかに近くにいなかったから君だった。
コーディネーターとはこの世界の矛盾、つまり相反する存在の排除を任せているんだよね……いやぁ、ほんと君がいて、よかったよ。うんうん。楽できたし。
あ、でも、勘違いしないでよ、ボクは話が分かるからね。基本は、何でも話し合いで解決させてるんだよ】
――話で解決か……それで、矛盾だとか相反とか、わけ分からないんだが?
【あれ? 気づかなかったの? 君は攻撃無効スキル持っているだろ? 無効だよ? 無効】
――……ああ、それが何か関係あ、る? あれ?? そういえば……ディディスの攻撃……痛かったな。
【ほぅ、解ったのかい? それだよ、それ。ディディスは攻撃有効スキルを持っていた。
つまり君とは相反していたわけだけど……そういった事象がこの世界では稀に起こるわけ。詳しくは話せないけど……矛盾や相反はこの世に綻びを入れる、だから良くない。とだけ覚えておいてよ。
そしてあのディディスはそのスキルの変更を拒んだ。まあ、それ以外にも色々問題はあったんだけど……何だかんだ偶然が重なって君の出番がきたってわけさ】
――ふーん…………あれ? ちょっと待ってくれ。それだと俺はどうなる? 攻撃無効だぞ。いいのかよ?
【ふふふ……】
――な、なんだよ。
【どうしようかな〜。あ〜でも、やっぱりここまでかな〜。配属悪魔の進化、なかなか楽しませてもらったよ】
――なんだよそれ。
【何か楽しいことしてくれたら、僕は口が軽くなるんだけどな……あ、でもこのことは誰にも言わない方が……君のためだよ】
――……
悪魔の囁きが俺の心の不安を煽る。いつもの俺だったら気にせず前に進んだかもしれないが――
前触れもなく配下たちの昇格や進化を告げる囁きに不安を覚えた俺は引き返そうかと思った。
「ニコ、ミコ、悪いが少し気になることが……」
【あれ、自分の目的よりもそっちが気になるの?】
俺の言葉を遮るように聞こえてきた悪魔の囁きに思わず眉間にシワを寄せた。
――――
――
――俺は静かにスローライフを送れればそれでいいんだけどな……
執務室の窓から元気のいい妻たちを眺めていると――
「クロー様、そろそろ時間ですが、準備はよろしいですか?」
トビラを軽くノックしてセラが入ってきた。
「ああ。いつでもいいぞ」
俺とセラはすぐに場所を別途設置したゲート室に移した。
「クロー様。少々お待ちください」
ゲート室に入ったセラは俺に軽く頭をさげると、すぐにゲート召喚に取り掛かった。
「気にするな。ゆっくりでいい」
「はい」と返事したセラは口元を緩めながらも、何やら呪文を唱え、金色のトビラを召喚した。
「では、クロー様の使用空間から悪魔界へゲートを繋げます」
「ああ」
セラがその金色のトビラに手を当て魔力を注ぎ始めると、トビラはゆっくりと開き始めた。
「悪魔界へのゲートは正直、まだ繋ぎたくなかったのですが……はい。これで悪魔界、悪魔城への通路が開きました」
トビラの先に冷たそうな石造りの小部屋が見えている。
「そうか、ありがとうセラ。しかし、なんで今回から支配地の譲受手続きが悪魔界にある悪魔神殿で行うことになるんだよ」
俺が面倒くさそうにそう言うと、セラが困ったように眉尻を下げた。
「こんなこと初めてのことですので私自身も戸惑っているのですが……あのカマンティスも来ますし気を引き締めて参りましょう」
「そうだな。同伴者は悪魔執事一人だったよな? セラ頼むな」
「はい。お任せください」
「ん?」
セラがキレイなお辞儀をしたあと、俺の左手を引き金色のゲートをくぐった。
最後までまだ読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
美綺之鎧シリーズ、現時点で5種類ほど考えていたんですけどね……しっくりこなくてこんな感じになりました(^^;




