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ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます。
ボロボロになったトビラを開けるとみんなの視線が一斉に集まった。
「あ、クローさま!!」
「「「「「クロー様!」」」」」
「「クロー!」」
「主殿!」
みんな、嬉しそうに声を上げるだけで一向に起き上がる気配がない。
それどころか、何か満ちたりた表情を浮かべている。
「どうした? なぜみんな裸で横になっている? それにこの屋敷……」
俺はボロボロの屋敷を見渡し、最後に全裸になっているみんなを眺めた。
大中小バランスのとれたおっぱいが目に入り、このままでも悪くないなと場違いながら思っていると――
「クロー様、お目汚しすみません」
セラがぷるぷる震わせながら上体を起こした。残念ながらセラの小さなおっぱいではその揺れを楽しむことはできないが、それでもおっぱいはおっぱい。
「いや眼福だぞ」
ついいつもの調子で答えてしまったが、それを聞いた妻たち三人は自分の服に手をかけている。
「エリザにマリー、それにセリス、今は脱がなくていいからな、今は……」
「あら」
「あはは」
「ぬっ」
俺の妻たちも笑顔を浮かべているが、寝転がったまま起き上がる気配がない。
「本当にみんな大丈夫なのか?」
「大丈夫です。みんな魔力切れを起こしているだけです」
「魔力切れ?」
「はい」
――なるほど。それで裸なのか……
みんなは自身の魔力で服を具現化しているその魔力がなくなれば当然裸になってしまうってことだ。
「なるほど……それを聞いて安心した。だが、この娘は誰だ?」
俺が指を指した娘は、身長がエリザくらいの少女で胸は小さい。一瞬、美少年? と思ってしまったがあれがついてないから、少女で間違いない。
「ええ!!」
その少女が信じられないといった様子で目を見開いていた。
少し垂れ気味の大きな目が可愛らしく、焦げ茶色した髪はショートカットくらいの長さで、ゆるふわパーマがかかったようにしょんしょんとあちらこちらにくせっ毛で飛び跳ねている。
額に小さなツノが一本と髪の上にタヌキみたいな耳が――
――タヌキみたいな耳? え? タヌキ……
「もしかしてカナポンなのか?」
「そうカナよ。クロー様、酷いカナよ」
カナポンもセラに続きぷるぷる震えながら上体を起こした。カナポンのおっぱいも残念ながら揺れてはくれない。
「残ねじゃなく……すまん」
「むぅ、それに僕の本当の名前はマゼルカナ。あ、でも真名じゃないカナよ」
マゼルカナ曰く、管理悪魔族は癒着防止のために、他の配属悪魔にくらべ短い周期で配属先が変わるらしく、本名を教えないという行為も、配属先の主に対して割り切る意味でもあったのだとか。
変に情に流されないための行為だったらしい。
「カナ……じゃなくマゼルカナ。もしかして進化して俺の専属悪魔になったって本当なのか? そう悪魔の囁きが聞こえてきたんだが……」
「本当カナよ。だからクロー様は、ずっとずっと、ずうっと僕に和菓子を提供するカナよ」
マゼルカナが当然だよねと、一人頷き片手をこちらに差し出してくる。
「和菓子ってお前な……はぁ」
仕方なく適当に思いつく和菓子をマゼルカナに手渡してやった。マゼルカナはそれを嬉しそうに頬張り始めた。
「クロー様。私もクロー様の専属悪魔に進化いたしましたので、末永くお願い致します」
一方、となりのセラバスは身を乗り出しながら声を弾ませていた。
「あ、ああ。よろしくな。俺の方も迷宮の主の協力を得て支配地にすることができた。これで少しはましな運営が可能になったと思うのだが……マゼルカナどうだろう?」
「もぐもぐ……ん? ちょっと待つカナよ」
マゼルカナは食べていた手を止め、俺の問いに答えようと、部屋にある大きな魔水晶を眺め始めた。
食べることに夢中でスルーされるかと思ったが杞憂だったようだ。
「あれ? 僕の目がおかしくなったカナ?」
すると、眺めてすぐマゼルカナの様子がおかしくなった。何度も目をこすっては魔水晶を眺めている。
最後には壊れたロボットのように振り返り、俺をジーっと見つめ始めた。
「どうだった?」
「し、信じられないカナよ。とんでもない勢いで感情値が入ってるカナ。このままなら……」
「赤字は脱却しそうか?」
マゼルカナはこくりと頷いた。
「よし!!」
「な、なんと!! さすがはクロー様です」
俺を見つめるセラの眼差しが少しおかしい感じもするが、これで俺は感情値を気にすることなく晴れてスローライフを送れる。
「ふふふ。これでいよいよ俺もスローライフを……」
「はい、はーい。クローさま! あたしも頑張りましたよ」
俺のスローライフ妄想を吹き飛ばし、ナナの元気な声が割り込んできた。
――ナナ……
俺は少し嫌な予感がした。
その声にナナの方に目を向ければ、未だぷるぷる震えて上体を起こしている途中だった。
ナナのおっぱいが元気に揺れている。
「あたしクローさまの代行をちゃんと務めましたよ。領地だって一つ手に入れたんだから」
――ん?
「ナナ、今なんて?」
「うん? あたしちゃんとクローさまの代行をやり遂げたんだよ」
もしかして褒めてくれます? と両手を広げたナナがにまにまと口元を緩め始めた。
「いや、そこじゃなくて、領地がどうのって……」
ナナはまだ両手を広げたまま――
「えっへん。あたし領地を一つ手に入れたんだよ」
やっぱり訳の分からないことを言った。しかも、自分が魔力切れで動けないためか、クローさまおいでおいでと手招きまでしている。
「まて、もっと詳しく……」
「クロー様。ナナ一人でやったんじゃないよ。みんなで、特にマゼルカナが頑張ってくれたんだぜ」
「マゼルカナが……」
マゼルカナは俺が出した栗まんじゅうを美味しそうに頬張っている。
――とてもそうは見えないが……
「ライコの言う通りです。ですが魔力提供したみんなの頑張りがあってのものです」
「そうですよ〜」
ライコ、イオナ、ティアもどうやら少しは動けるようになったらしく上体を起こしそう言った。
「セラ、すまん教えてくれ」
「はい。実はクロー様。クロー様との念話が途切れた後、すぐに第3位悪魔カマンティスから悪戯を申し込まれたのです。ご丁寧に返答期限付きで……」
「悪戯? 期限とは?」
「はい。返答期限はだったの二日でした。そして悪戯とは悪魔同士が領地を賭けて戦うゲームのことです。と言っても悪戯は小規模な戦いのことを言います。
これが大悪戯の場合ですと総力戦ですね」
「小規模……」
「はい。小規模と言っても30VS30しかもこちらは宣戦された方でしたので防衛戦です」
「30VS30って、支配地持ったばかりの悪魔にそんなこと許されるのか?」
信じられんと首を振っていた俺にセラがゆっくりと答えてくれる。
「はい。詳しくは配属悪魔規約に抵触しますので話せませんが、通常ならばあり得ないことでした」
「それを、その第3位悪魔は破ったと……しかも俺の不在の時に……」
――ゆるせん!!
俺の胸の奥にある黒い衝動が蠢き始めた。
「はい。悪戯を申し込まれてしまいますと、私たちに取るべき選択肢は三つしかありません。
まず一つ目は相手の提示した感情値を払い見逃してもらうこと。
二つ目に降伏すること。
最後、三つ目に迎え撃ち返り討ちにすること。
これしかないのですが、クロー様の不在時に降伏はあり得ませんでしたので、残すは感情値を払い見逃してもらうことと、迎え撃つこと。
しかし、その見逃してもらうために定時された感情値は、とても払うことなどできないとんでもない数字でした。そこで私たちは……」
「返り討ちにしてやったんだよ……」
ナナが嬉しそうにセラの言葉を遮った。
「ナナ、あなたは黙ってなさい……」
「ええ! だって……あたしもクローさまと話したい」
ブーたれるナナを無視してセラが再び話し出した。
「……悪戯の防衛戦ならばやりようがあるのです。ルールが至ってシンプルですから」
「セラ、俺はよく分からないんだ。そのルールとやらを教えてくれ」
「はい。防衛戦の場合。クロー様のこの使用空間が戦場となります」
「なるほど、それでこの有様なのか……」
俺はボロボロになっている屋敷に納得した。
「はい。申し訳ありません」
「そんなつもりで言ったわけではないんだ。すまない。俺はお前たちが無事なら屋敷なんてどうなってもいいと思っているからな……」
――魔法ですぐ直せるし……って、あら……?
俺がそんなことを思っているとは思っていない配下たちは、感極まったのか涙を浮かべている。
――……
俺は少しバツが悪くなった。
「ぐす……ありがとうございます」
「う、うむ」
セラを含むみんなが落ち着くまでしばらく待った。
「失礼しました。それで悪戯の制限時間は二十四時間。相手を全てを戦闘不能にするか、この魔水晶に触れられないこと、この二つです。
敗北すればこの領地を失っていましたが、勝利しましたので相手の領地を一つ得ることになりました」
「なるほど」
――それでナナは、領地を獲たと言ったのか……
「もうしばらくすれば、カマンティスから領地が一つ譲受されるはずです」
「そうか……みんなよく頑張った……」
――だがな……やっぱり許せねぇ!!
「クロー様、一人で攻め込もうなど考えないでくださいね」
セラの言葉にみんなの視線が一斉に集まった。
「うぐっ」
あっさりと俺の思考をセラに読まれ、みんなからやめてほしいとの声が飛んでくる。
俺は何も言えず黙り込んでしまった。
――しかしだな……
「クロー様。どうせメンツを潰されたカマンティスは大悪戯を申し込んでくるはずです」
「大悪戯……」
「はい。何を思ってこの地を支配下に置こうと考えたのか分かりませんが、暗黙のルールを破ってまで悪戯を申し込み、尚且つ自身の領地を失ってしまいました。
なりふりなど構っていられないはずです」
「そうなのか……よく分かった。俺一人で攻め込むのはやめる」
「それがよろしいかと思います」
みんなから安堵のため息が聞こえてきた。
「だがなセラ……頭で分かっているんだが、まだ俺の気がおさまりそうにないんだ……
だからさ……俺のいなかった今回の悪戯戦、もっと詳しく聞かせてくれないか?」
「はい。それでは……」
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