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「ニワ! この辺りにゲートを設置するぞ?」
『かーっかっかぁ……好きにするがよい……』
ニワから適当な返事がくる。
「そうか、助かるよ」
ちゃんと聞いていないようだが許可はもらった。ならば遠慮は無用だろう。
「……よしっ、と!」
迷宮に続いているだろうと思われるトビラの横にゲートを設置した。
――ふむ。これで俺の使用空間から迷宮までの通路を確保した。帰りはこれで帰ればいいだろう……ん? これは!!
部屋の隅で箱に入れられ放置されているものを手に取って広げてみる。
――……やはり、似ている。
「なあ、ニワ? 対価を払うから、この二つもらってもいいか?」
『かーっかっか、好きにするがよい』
ニワが、こちらに見向きもせず適当に返事をくれた。
「そうか……わかった」
――しかし、よく不純物として吸収されなかったものだ……それともしなかったのか?
迷宮についてはよく分からないが、ニワの気が変わる前に……
――収納っと、ふはは……思わぬところにお土産があったわ……あとは……
『我は所望する』
対価に見合いそうな物をガンガン部屋の隅から出していく。
――まだまだ……こんな物じゃ足りないな。
部屋の四分の三ほどに家具や食べ物といった、この世界では珍しいものを積み上げていった。
――ふはは。これだけの物量なら……文句はないだろう。
「ん?」
飛ぶスペースが狭くなったためか、トンボが俺の出した家具の上に停まっている。
――そういえば、お前がいたんだったな……
音もなく飛んでいたのですっかり忘れていたが、飛べるスペースのなくなったトンボはどこか不機嫌そうに見える。
――ふむ。あのトンボ……使い魔にすれば妻たちの乗り物に使えそうなんだよな……いや、昆虫だしな……やめておこう。
「ニワ! 対価、置いといたからな……」
『かーっかっか……好きにするがよい』
ニワがまた適当に返事する。
――必要のないものは不純物ポイントにするだろう……さて、これで俺の用は済んだわけだが……ニコとミコに念話をする前に……
「ニワ、俺はそろそろ帰ろうと思うが……」
『かーっかっか……』
目に涙を溜めていた、可愛らしいあの姿はどこにいったのやら……
ニワは、どこからか取り出した姿見の前でポーズを決めては顔をによによさせている。
人化してからずっとこんな調子だ。
『かーっかっかっ……』
ニワは仁王立ちのポーズをとり、声高らかに笑っている。ドヤ顔だ。ドヤ顔でツルペタの胸を張っている。
――……帰る前にもう一度教えてやるべきだよな……
『かーっかっかっ……うむ。これじゃ、この姿じゃ。ワシの記憶にある姿で間違いないのじゃ』
「そうかそうか……それは良かった」
すでに五、六回は聞いたと思う。
――そりゃそうだろう……俺は、あの土人形を見て姿をイメージしたわけだし、半分は保険としてニワの記憶に任せたからな……
『かーっかっかっ……かーっかっかっ……』
よほど嬉しいのだろう。ドヤ顔のニワが、腰に手を当て胸を張っている。
――ツルペタか……
俺は揺れないおっぱいを見てため息をつくと、揺れているツインテールを眺めた。
――――
――
『なぜ、もっと早くに教えぬのじゃ!』
ニワが顔を真っ赤に染め、茶色の陶器のようなものをバスタオルのように巻いている。
「ん? 言ったんだぞ。言ったが、高笑いして不要じゃ、と言っていたのは何処のどいつだ?」
『ぐぬぬ……』
そう、人化したニワは全裸だった。全裸にもかかわらず得意満面にポーズを決めていたわけなのだ。
まあ、埴輪に服なんて着る習慣があるわけないので、ニワが気にも留めていなかったのも至極当然であるが、さすがに全裸のままのニワを放置して帰るのはかわいそうに思えた。
「人間だった頃の記憶をもう少し探ってみるといい……」
と一言忠告してやったとたん声高らかに笑っていた顔がみるみる真っ赤に染まっていったのだ。
「まあいいじゃないか。それ以上減るものなんてないしな……」
『お主どこを見て言っておる……むむ、なぜじゃ、なぜか、お主のその視線が不愉快に感じるのじゃ……』
――むっ、結構鋭いな……おっぱい見て言ったのがバレてるじゃないか……
「気のせいだ……」
そんな時だった、ドーン!!と、この部屋のトビラが音たてて崩れ落ちると、見覚えのある二人と一頭の大きな銀狼が入っていた。
『ぬっ!』
「ガァァア!!!!」
「クローを返すがう!!」
「返すがぅ!」
銀狼とその二人がニワに向かってすごいスピードで襲いかかる。
『……誰じゃ……』
ニワはそう一言漏らすだけで、その行動に全く反応できていない。
迷宮の主といってもニワ自身にはそれほど力がないのかもしれない。
――まずい!!
「ニコ、ミコ、やめろ!!」
俺はニコたちとニワの間に身体を滑りこませると、一番スピードの速かった銀狼の鼻先をビンタし、ニコとミコの手にある小太刀を手刀で叩き落とした。
「きゃうんっ」
「あう……クロー……がう?」
「ぅ……がぅ?」
「そうだ。こいつはニワ。この迷宮の主だが、俺の支配地となることを認めてくれた協力者で、俺の盟友だ。許可なく手出しは許さんぞ」
――ここまできて、ぽしゃったら目も当てられん。
「そんなつもりじゃなかったがう……ただクローを……」
「そうがぅ……ごめんがぅ」
ニコとミコの二人がしゅんと肩を落としここまでの経緯をポツリポツリと語り出した。
「はあ? すると俺はお前たちと離れてから三日も経っていたというのか?」
「そうがう……心配したがう」
「したがぅ」
「……な、なんということだ……」
俺が闇の世界に呑み込まれた、あの一瞬で三日も経っていたのだという。
二人は突然消えた俺の気配を探すも見つからず、あてもなく、念話も使えないしで途方にくれていたらしい。
そんな時に、突然最下層付近に俺の気配を感じ、その気配を頼りに辿り着いたこの部屋に乗り込んできたという。
「そうだったのか……」
二人の姿を見れば身体中薄汚れたままだった。クリーン魔法すら使うことを忘れて探してくれていたのだろう。
「心配かけて……すまなかった……」
俺は二人の頭に手を置き撫でつつ、クリーン魔法をかけてやった。
「がう」
「がぅ……それよりお腹空いたがぅ」
きゅるるるるる
ぎゅるるるるる
ぐるるるる
二人と一頭の銀狼から大きなお腹の音が聞こえてきた。
「お前ら……ひょっとして何も食べてないのか?」
こくりと頷く二人の横では、大きな身体をした銀狼が大人しくお座りしている。
「そうか。ところでこの大きな銀狼は?」
「手を貸してくれたがう」
「そうがぅ……ミコたちにはよくあることをがぅ」
俺はニコ、とミコの銀色の耳と尻尾を思い出した。
「ふーん。そうかお前たちも……似たようなものがついてるしな……何か通じるものでもあったのか? ……そうか銀狼がね……お前も手伝ってくれたのか」
俺は銀狼のビンタした鼻先に手を当て回復魔法を使ってやると――
「ほら、お前も食え」
ぶ厚い最高級霜降り肉を目の前に出してやった。
をふっ!
銀狼は行儀よく吠えると勢よく俺の出した肉にかぶりつく。
「うまいか?」
銀狼は夢中になって肉を頬張っている。しっぽが大きく振れているので喜んでいるのだろう。
「ほら。生肉を見てないで、お前たちはこっちだ……」
ニコとミコにも、テーブルとステーキセットを出してあげるとすぐに食べ始めたのだが、なぜか銀狼が頬張るぶ厚い生肉のほうを羨ましそうに眺めている。
「生はダメだ」
二人は渋々といった感じで焼けた肉を食べ始めたが、一度集中して食べ出すと二人の勢いは凄まじいものになっていった。
「おかわりはこっちにあるからな……」
その勢いは、まだ止まりそうにないのでおかわりを多めに置いてやった。
『悪魔クローよ。助かったのじゃ』
背後からニワの声が聞こえたが、どこか暗く沈んだ声に聞こえた。
「いや、こっちこそ、すまん」
『いいのじゃ……そのなんじゃ……ワシは……』
ニワは言いにくそうに自分自身には戦うための力がほとんどないことを語った。
まあ、なんとなく分かってはいたが、あえて何も言わなかった。
それで不純物ポイントを使い迷宮魔獣を召喚していたらしいが、ニワはトンボを返還し召喚時の半分のポイントを回収した。
勝手に死んだキマイラも迷宮魔獣界という所に返還されただけでポイントさえ払えばまた召喚できるそうだ。
――あのキマイラを再召喚ね……
ニワのことが少し心配になった。
『お主のお陰でしばらくはポイントにも困らぬ……困らぬが……その……』
ニワがもじもじちらちらと俺の顔を見上げては俯いている。
これがハニワの姿だったら何も感じなかったのだろうが、今は可愛らしい女の子。言いたいことはなんとなくわかる。
「ニワに何かあっては俺も困るしな。有事の際は勿論力を貸すからな。遠慮するな。
ところで、ニワは念話はできるよな?」
『無論じゃ。そうか、そうか……かーっかっかっ』
ニワの沈んでいた顔が花開くように晴れていく。
迷宮主のわりに自分には力がないんだ、よほど不安だったのだろう。
「クロー……いくがう?」
「がぅ?」
「ああ、そうだな」
ニワの高笑いともにお腹をさすりながら立ち上がったニコとミコが俺のズボンを引っ張った。
まさかあれから三日も経過してるなどと思っていなかった俺は少しばかり焦りを感じ始めていた。
「それじゃあ」
俺は屋敷に戻ることをニワに伝えた。
『うむ。分かったのじゃ』
なぜか、大きな銀狼がニコとミコの後ろをピタリとついてくるが、普通の獣はどうせ入ってこられない。
俺は構わずニワに向かって右手を挙げるとゲートをくぐった。
――――
――
一瞬で景色が変わり俺の使用空間に到着したんだが、その光景に絶句した。
「これは……どういうことだ!!」
屋敷は焼け焦げボロボロと無残な姿を晒している。さらに不安になった俺は気配を探ってみれば――
――あれ?
「みんなの気配は……ある」
――わけが分からない??
「がう」
「がぅ」
「みんなは魔水晶のある管理部屋か?」
ニコとミコがこくりと頷いた。
魔水晶の部屋に近づくほど、みんなの明るい声が耳に聞こえてくる。
俺は益々わけが分からなくなった。
そんなことを考えている間にも魔水晶のある管理部屋の前に辿り着いたが、ボロボロになった屋敷は隙間だらけで、すでに管理部屋の中が見えている。
「はあ?」
みんなは仰向けになっているが、その表情はどこか明るく楽しげだった。
――それはいい、それはいいのだが……なぜ、なぜ妻たち以外……みんな……全裸なんだ?
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