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嬉しいです。
今回は少し短めです。
すみません。
前触れもなく配下たちの昇格や進化を告げる囁きに不安を覚えた俺は引き返そうかと思った。
「ニコ、ミコ、悪いが少し気になることが……」
【あれ、自分の目的よりもそっちが気になるの?】
俺の言葉を遮るように聞こえてきた悪魔の囁きに思わず眉間にシワを寄せた。
――……何が言いたい。
【ふーん。そうなんだ……でもね……うん! 贔屓しちゃおう、はい】
――さっきから何を……
そう思った瞬間だった。ナナたちの声が悪魔の囁きのように聞こえてきた。
【あたしはクローさまの代行だもん……頑張ればきっと褒めてくれるよ。うん、きっとそうだよ……はっ! もしかしたらクローさま、感極まっちゃって熱く抱擁なんかしてくれちゃったりして、えへへ。それから、それから……きゃー、きゃっ、あーん、そうなことされたらあたし、ふへへ、きゃー、きゃー……】
聞こえてきたナナの囁きは、後半、悪魔だけに過激なもので、聞くに堪えないものだった。
――……
そこへ被せる形でセラバスの囁きが聞こえてきた。
【この私が……クロー様の専属悪魔執事に進化……進化とはいったい……むっ!? こ、これはっ! 配下の証っ!!
専属とは……そうですか……そういうことなのですね。これで私は、配置転換に怯えることなくずっとクロー様のお傍に……ふっ、これはまたとない僥倖、悪魔執事冥利に尽きるというものです。
ああ、これでようやく私は身も心も立場さえもクロー様のものとなりました……ふふふ、クロー様……あなたのお望みは……】
セラの後半の囁きは、日頃のセラからはとても想像できないほど熱く過激なもので、とても話せる内容ではなかった。
――……ふ、ふむ。
そこへ、今度も被せる形でカナポンの囁きが聞こえてきた。
【なんでカナ? 進化して専属になったカナよ。参ったカナ……あっでも、これでずっとクロー様と一緒だから甘栗も、おはぎも、おまんじゅうも、ようかんも、おだんごも……うへへ、もなかもぜーんぶ僕のものカナよ。うへ、うへへ。クロー様〜早く帰ってくるカナよ〜。甘栗、おはぎ、おまんじゅう、ようかん……】
カナポンの囁きは、俺が休憩時間に食べさせてやった和菓子の名前の数々だった。
その名前をたどたどしい口調であるが、念仏のように唱えている。
俺はこの囁きだけで胸やけしそうになった。
――……ふ、ふむ。
さらにイオナ、ライコ、ティアの囁きが続けて聞こえてくる。
【ああ〜クロー様。こんな私が第8位になってしまいました。お許しください。
……ですが、私はやりますよ。クロー様に認めてもらうため精一杯やらせていただきます……ですから……その暁には……】
【くはははっ! この力なら獣化しても呑まれなくてすむ。これならいける。いけるぜ、くははは……クロー様、あたいはやるぜ!! 任せときな! ははは!】
【ふわぁ〜、むにゃむにゃ……眠いわね〜ふふ、ふふふ、そうだ〜クロー様に添い寝してもらおうかしら〜あっ、そうしたら……夢の中で……誰にも邪魔されずに……あんなことや……こんなこと〜ふふ、いいわ〜、いい。すごくいい〜……】
イオナからは、申し訳ないと言いつつも明るく弾んだ囁きが……
ライコからは、よほど嬉しいのか、時折笑い声が交じっている……
そして、ティアからの囁きには、思わず背筋が凍りついた。
そして――
【あはは。いいよ。いい、君の配下もなかなか楽しませてくれるね】
再び聞こえてきた楽しげな悪魔の囁きを最後に、囁きは聞こえてこなくなった。
――……
俺は言葉に詰まり、思わずこめかみを押さえた。
――……ふぅ。
正直なところよく分からない。
だが、みんながみんな切羽詰まったような感じはなかった。むしろ弾けているようにも感じた。
――杞憂なのか?
「クロー……先に行かないがう?」
「行かないがぅか?」
先ほどから、立ち尽くす俺の身体にまとわりつくニコとミコが俺の顔をじーっと見ていた。
「ん〜、少し思うところがあってな。一度屋敷に戻るつもりだ……ところでセラとカナポンって強いのか?」
そう言った瞬間、ニコとミコの身体が、僅かに震えたように感じた。
「セラバスは配属悪魔がぅ。色々規制はあるがうが、魔力が続く限り配属先の支配地内においては……最強に近いがう」
なぜか、そう話すニコ自身がぶるぶる震えているように感じたが気のせいだろう。
「ニコ、配属悪魔の規制とは何だ?」
「がう。配属先の主とその配下に、その力を向けることができないがう」
「ほう」
ふと、セラが全裸でいた姿を思い出し口元が緩む。
――なるほど……
ん? 思い出す場面が違う? いいのだよ。思い出すなら、癒しの方がいいに決まってる。
――ふむ。では……
「それはカナポンもなのか?」
今度はミコがこくりと頷くと――
「がぅ。カナポンは強いというよりしぶとい……配属先の支配地内なら魔力がある限り負けることはないがぅ……」
――しぶといって……よく分からないが……
「なるほど、配属されるだけの力はあるってことだな……」
俺が感心したように頷いていると、ミコが上目遣いで、ためらいながら口を開いた。
「がぅ。でも、基本的に配属悪魔はあくまでも支配地に配属された悪魔がぅ。その……主に肩入れはしないがぅよ」
「ん? ああ、なるほどな……よく分かった。二人ともありがとな」
俺がそう言った途端、先ほどと打って変わってミコが褒めてほしそうに頭を向けてくる。
「はは……」
仕方のない見習いメイドだと思いつつも、その待っている姿がおかしくて、つい、いたずら心が働き、その頭をわしゃわしゃ盛大に撫で回してやった。
――それそれ……あ〜、この感じチビスケ……チビコロに似てるな……
そんなことを考えていたせいか、つい調子にのり強くわしゃわしゃと撫で回し過ぎてしまった。
プンッ!
ミコの一つ結びに使っていた髪留めのゴムが飛びショートボブの髪がボサッと広がった。
「あ……」
一つ結びでクセになったミコの髪がアホ毛のようにぴょんぴょん飛び跳ねている。
――やばい……
「がぅ……」
ミコからなんとなく哀愁を感じた俺は、後ろめたさもあり慌ててフォローした。
「おおっミコは、一つ結びをしていない髪型も似合ってて可愛いな」
ミコのアホ毛が揺れたように感じた時には、漂っていた哀愁がなくなっているような気がした。
「そうがぅか」
――ふむ。迂闊なことはするべきじゃないな……
俺は、一つ結びを自ら解き、ちらちらとこちらを見るショートボブ頭のニコを見てそう誓った。
――――
――
「二人に尋ねたのは、その二人が、どういうわけか、俺の配下枠に入ってきたようだったからだ……ふむ。そうか……負けないのか」
ニコとミコが驚いたように目を見開き、感情の乏しい二人にしては珍しくかわいいお目目をパチクリさせた。
「そ、そんなことがある……がう」
「……がぅ」
「ん? お前たち……驚いているのか? まあ、俺もまだ自覚がないからよく分からないんだが、でも、二人のお陰で踏ん切りがついた……やはりここは一度戻ることにしよう」
――迷ったが、よくよく考えてみたら、昇格や進化に至るまでの経緯がよくわかっていない……それに杞憂だったならばまた来ればいい……
「そうがうか……」
「がぅ」
ニコとミコの二人がこくりと頷くが心なしか少し元気がないように感じた。
その様子に、少し悪いと思いつつも、俺は移動魔法、経路誘導を展開し親切設計の階段を目指して最短距離を進んだ。
「ふむ」
二人はサクサク魔物を狩っていく。
――あれ。気のせいだったか……
元気がなくなっていたように感じた二人は先ほどよりもずっと気合が入っているように感じた。
「がう」
「こっちもがぅ」
魔物と見るや、俺が手を出すまでもなく一瞬で細切れにしていく。
「二人とも飛ばしすぎてないか?」
「それはないがう」
「がぅ」
「そうか……それならいいんだが……」
そんなことがありながらも、俺たちは一階に繋がるという一方通行のトビラ、階段入り口に辿りつき、そのトビラを開けた。
「ここがそうか……っておい!」
またしても俺の抱く迷宮のイメージと違う階段があった。
「これは……」
その階段は前世の記憶にある非常階段によく似ていて、折り返しの階段になっているが、その階段が上にも下にも向かっている。
――下にも向かってる……あれ?? これは……
階段と閉まったトビラを眺めていた俺はハタと気づいた。
――このトビラを反対側から破壊すればいいのではないのか……
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