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「ニコ、ミコ。待ち長かったな……やっと俺たちの番だ」
俺が二人に声をかけ立ち上がると……
「そうかしら、いつもこんな感じですわよ、ふふ」
ムチ美女もわざとらしくおっぱいを揺らしながら立ち上がり、ニコたちの代わりに返事をした。
「……」
結局、人族のムチ美女は、そのまま俺の隣に居座りつづけていた。
どうやら無視をするという選択肢は間違いだったようだ。
「ふふ、本当にかわいい子たちね」
「……がう」
「……がぅ」
ムチ美女も俺に合わせて立ち上がると、どこかしょんぼりとした雰囲気があるニコたちの頭を撫で笑みを浮かべた。
――ふむ。
その笑みも、とても人族とは思えないほど妖しく艶やかで、ちょっとした仕草が色っぽい。
俺がもし普通の人族の男ならばこの笑みだけで骨抜きにされているだろう。
――けしからんな……
だが、その笑みを向けられたニコとミコは違うようだ。ビクッと背筋を伸ばしたかと思うと慌てて俺の後ろへと隠れてしまった。
――おいおい。
見習いとはいえ仮にも悪魔が人族相手に怯えてどうするのだ。
「ほら、ニコ、ミコ。俺の足にしがみついてないで、行くぞ」
「……がう」
「……がぅ」
渋々といった感じで離れた二人だったが――
「ほんと、素直でいい子たちね」
ムチ美女……面倒なのでムチ女と呼ぶが、そのムチ女の余計な一言で、二人はまた俺の足にしがみついた。
「はぁ」
必死にしがみつき離そうとしない二人に根負けした俺は……このまま歩くことにした。
「そのまま離すなよ」
二人がこくりと頷く。軽い二人が両足にしがみついたところで、俺の歩行にはなんの影響はないが、後ろに並ぶ女ハンターたちは違った。
「疲れたから掴まってるのかしら」
「小さくて、かわいいね」
「小さいのにここまで頑張って来たんだ」
「こんな小さな子を、こんな奥まで連れてきて非情」
などなど、周りの女ハンターたちが、なんだかんだと騒ぎ出した。
「はぁ、しかし、女ハンターは肝が据わっているのだな……ボス戦だと聞いているのに、緊張のかけらもない」
俺が後ろに並ぶ女ハンターを眺めつつ、俺が呟くと――
「入ってみれば分かるわよ」
と言いつつムチ女がさりげなく俺の手を握ってこようとしたので、慌てて開いているトビラまで進んだ。
「まあ……ふふ。見かけによらず照れ屋さんなのね。かわいい……」
「……」
――――
――
「なるほど……お前の言っていた意味が分かった」
俺はあたり一面に落ちている大きめの石を拾った。
「そう? でもいい加減ヨーコって呼んでほしいわ」
ムチ女も、わざわざ俺の正面にきて小さな石を拾う。溢れそうになっているおっぱいの谷間が嫌でも目に入る。
――け、けしからん……じゃない。絶対わざとだろ……
「ふふ」
――ほらな……
おっぱいに視線を向ければすぐ反応して笑みを浮かべている。
――まったく、あからさまだろ。こうも怪しさ全開だと警戒もするさ。
「必要ないな。ここを通り抜けるまでだったろ?」
「……あら、あの子たちも頑張っているわね……」
ムチ女が聞こえないフリしてニコたちを見始めた。
――はぁ。こいつ……
少しイラッとしたが、見ればニコとミコが競い合うように石をカゴに向かって放り投げている。
「ふむ」
ニコたちを見ると、小学校というところで玉入れしていた記憶がふと浮かび上がり、少し懐かしい気分になった。
――しかし、なんだ……
地下十階層にはボスがいると耳にしてからずっと警戒していた自分がバカらしく思う。
「グォォォォォ!!」
ゴーレムのような石の人形が両腕を挙げて雄叫びをあげた。
「あら、早いわね。あれはあと半分って合図ですわよ」
「……そうか……」
ここのボスは大きな籠を背負った大きな石の人形ゴーレムだった。
勝利条件は背負っている大きな籠に落ちている石を入れ一杯にすること、そうすればゴーレムの背後にある大きなトビラが開き地下十一階層へ行けるという。
それに、早めに籠を一杯にすると偶にだが、ボーナスとしてゴーレムの口から金貨が出てくるらしい。
これがあるからこそ多少は肉体的にきついゴーレム戦も、女ハンターたちから人気があるのだとムチ女が言う。
――これも俺が思っていたの迷宮と違う……よな……
そして敗北条件は時間切れだ。その時はゴーレムの目の光が消え代わりにこの部屋の右横にある地下一階層につながる一方通行の部屋へのトビラが開く……らしい。
らしいと言うのはこのムチ女も、まだ敗北したことがないからだ……それだけ制限時間はたっぷりあるということだろう。
――……ふむ。
たしかに、右横のトビラへ目を凝らしてよく見ればホコリが溜まっているように見える。
ふと緊張感のない女ハンターたちの気の緩んだ姿が頭を過る。
――どうりでな……
知らなかったが、この一方通行のトビラはどの階層にもあるという。
なんて親切設計な迷宮だ。
ほんと俺の迷宮に対するイメージがどんどん壊れていく。
「ふふふ。私のこれで最後ですわね」
ムチ女がソフトボールサイズの石を手に持ちわざわざ俺の方を向く。さっさと入れてほしいものだ。
「ああ。そのようだな……」
部屋中見渡したが、残る石はムチ女が手に持つ石のみだった。
ちょうどゴーレムの籠もこれで一杯になるのだろう。
――なるほど……早い話が部屋中の石を全て入れて勝利だったってことか……
「入れるわよ……」
ムチ女が笑みを浮かべたまま、まだ俺を見ている。
「ああ……」
「入れるわ……」
そう言って、投げる真似をしたムチ女が大きなおっぱいを揺らした。
「……」
「ふふ」
「……ふふ、じゃねぇ、早く入れろよ」
「もう、せっかちね。最後はあなたにいれてほしかったのよ」
ムチ女がにまにましながら、“いれて”をわざと強調した。
いつもの俺ならばうれしく思うのだが、今の俺にはなぜか不愉快にしか感じない。
「……」
「ふふ……そんな怖い顔しないで、冗談よ、冗談。はい」
にこりと笑ったムチ女はあざとく首を傾げると、ペロリと小さく舌を出しその石を差し出す。
「……」
俺は無言でその石を掴むとゴーレムの籠へと放り込り投げた。
「まあ。すごい、すごい」
「グォォォォォ!!」
ゴーレムから雄叫びが聞こえてくると、ゴーレムの背後にあるトビラがガコンと音を立てて開いた。
「金貨は出なかったが、トビラは開いた。お前とはここまでだ」
俺は、俺とムチ女から少し離れた位置に待機していたニコとミコを両脇に抱えるとさっさとトビラへと向かった。
「そう、残念だわ」
ムチ女もそれ以上は何も言わずついてこなかった。少しホッとしている自分がいて少し驚いたが俺たちは何事もなく地下十一階層へと進んだ。
「なぜ効かないのかしら……ほんとうに残念だわ」
首を傾げた女ハンターがボソボソとなにやら呟くとポンッと気の抜けた音を鳴らしその姿を変えた。
「ふふ。でも、これであの子たちの報告の意味が分かったわ」
黒装束からはみ出す、銀色の耳がパタパタと揺れ、銀色の尻尾は気持ちよさげに揺れた。
「……でもね、あと一つ……たしかめなくっちゃね……ふふ」
黒装束の女がペロリと舌なめずりをすると、黒装束の女は暗闇に溶け込むように消えていきゴーレムの部屋は静寂を取り戻した。
その数分後、人の気配がなくなった部屋のゴーレムがまた機能をし始める。
「グォォォォォ!!」
ゴーレムの雄叫びが部屋中に響き渡り、背中の籠から石が飛び出した。
石は部屋中に散らばり、籠が空っぽになるとトビラが開く。
ガコンッ!
「すごいよ」
「もうトビラ開いたよ」
「今の子連れ新記録? 金貨出たかな?」
「出たかもよ、いいなぁ」
開いたトビラから女ハンターの賑やかな声が響き渡る。
――――
――
「む、おかしい」
「ん?……がう?」
「……がぅ?」
地下十一階層に降りてからは、男ハンターたちと合流できる構造になっていた。
「おう、どうだ。勝ったか?」
「たんまり稼いだぜ」
「こっちもだよ、なぁ?」
「うん。こっちもなかなかの稼ぎだよ」
「じゃあ、いつものように十五階層のボスを倒したら帰るか」
「そうこなくっちゃ」
男と女のハンターと合流し一つのパーティーとなり奥に進み始めた。そんなパーティーがごろごろいる。
「なるほどね……」
魔物も少しずつ凶暴になり俺が倒してもドロップする。
まあ、それは別にどうでもいいことなのだが、俺が気になったのは――
『ナナ、セラ。すまんがこれから先、念話が届きそうにない』
『クロー様、それは少し危険ではありませんか?』
『ええ〜クローさま。やっぱりあたしも行きたい〜』
二人はことあることに報告と言いつつなんでもないようなことを念話してきた。というか、それは二人だけじゃない。
『なんだ、なんだ。クロー様、何か面白いことにでもなりそうなのか?』
『それなら〜、後で聞きたいですね〜』
『クロー様。私も連絡が取れないのは危険だと思うのですが……』
『クロー様、甘栗なくなったカナよ。足りないカナよ』
願い声の仕事をしてない時は、みんなの雑談がそのまま念話で流れてくる。垂れ流し状態だった。
まあ、女ハンターに気を取られていた俺は『ああ』とか『うむ』としか送ってないが……
だからこそ、急にプツリと切れた念話に気づけたのだ。
あ、そうそう。くだらない雑談念話の中でもナナの念話に、面白い話があった。
なんでも見習いメイドのニコスケとミココロが勝手に俺についてきたものだから、完璧を愛するセラがメイドの格好をしてその役目を果たしているらしく、エリザたちのお弁当もセラが作ったのだとか……
今も念話をしているが屋敷中を清掃しているらしい。
ナナは「似合わないんだよ」と盛大に笑っていたが、俺はその姿が気になって仕方ない。
『まあ、なんだ……みんな、早めに終わらせて帰るつもりだから後のことは頼むぞ』
『ぐっ……お任せください』
『ええ〜。クローさま〜』
皆は渋々といった感じで返事をくれたが、ナナだけがなかなか良い返事をしてくれない。
出かける時には納得してくれたはずなのに、セラの返事が重いのも少し気にはなる。
もしかしたら念話が使えるからと納得していた部分があったのかもしれない。
そう思い至った俺は、仕方がないので――
『いいか……ナナは俺の代行だ。……何かあれば感情値の使用でもなんでもやっていい。頼りにしているぞ』
俺は軽い気持ちでナナを持ち上げることにした。
『クローさまが、あたしを……えへへ。わっかりました。クローさまの代行頑張りますよ』
『うむ。頼むぞ』
そう念話で伝えると、今度こそ皆の気が変わらないうちに俺はさっさと念話の入らない領域に進んだ。
「ふぅ。さてと……ニコ、ミコ。長く時間をかけると後がうるさそうだから、さっさと先に進むぞ」
「がう」
「がぅ」
返事をした二人がぴょんぴょん跳ねながら隣をついてくる。
二人は地下十階層で漂っていたしょんぼりとした雰囲気と違って、どこか楽しげな雰囲気を漂わせていた。
――――
――
「ふん!」
俺はカタツムリのような魔物を殻ごと粉砕した。
「またニコの勝ちがう」
「むぅ……もう一回がぅ」
二人も競い合うようにカタツムリのような魔物を殻ごとサクサクと斬り裂き狩っていく。
途中、魔物を追いかけ、まったく違う方向へ進みだす二人を追いかけるのにも慣れた。
俺たちはまったくと言っていいほど苦戦するようなことはなく、順調なペース? で地下十三階層まで進んでいた。
そんな時だった。
【第9位配下ナナが第8位に昇格した】
――は? いくら感情値を使っていいって言ったからって……また急に……
【第10位配下イオナが第9位に昇格した】
【第9位配下イオナが第8位に昇格した】
――おいおい!? イオナもか!? いったいどうなっているんだ??
【第10位配下ライコが第9位に昇格した】
【第9位配下ライコが第8位に昇格した】
――ライコまで……
【第10位配下ティアが第9位に昇格した】
【第9位配下ティアが第8位に昇格した】
――ティア……
【配属悪魔セラバスがクロー専属の悪魔執事へと進化した】
【配属悪魔マゼルカナがクロー専属の管理悪魔へと進化した】
――進化?? セラバスが進化? というかマゼルカナって誰だ?
【あはは、いいね、いいね。配属悪魔の進化は初めてのことだよ。さすが……だね】
――何を言っている。
俺は訳が分からず首を捻ることしかできなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m




