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「これなんてどうかしら? ちょうどマリーの行きたいって言ってたダンジョンみたいよ」
エリザが指差す依頼書をマリーが嬉しそうに覗き込んだ。
「えっ、どこどこ? ……チカバ森のダンジョンで薬草の採取……あ〜、そっかまだまだ傷薬が足りてないんだね……」
マリーは頬に指をあて、町中で起こった大参事を思い浮かべた。
「うむ……お金のある者は教会で回復魔法をかけてもらったようだが……庶民ではなかなか手が出ないだろう、最近は献金も高くなったと耳にするからな……」
セリスが首を小さく振ると「まったく教会は何をやっているのだ」と小声で呟いた。
「でも、不思議ね。ダンジョンで採取なんて……想像できないわ。あら、依頼書の裏に採取ポイントが載ってるわね」
不思議そうに依頼書の裏をめくっているエリザの顔を、マリーがにまにまと笑みを浮かべながら覗き込んだ。
「そうなんだよ。普通の森でも採取できるんだけど、ダンジョンの方が断然効率がいいんだよ。魔物は出るけど、採取ポイントとか決まってるし……それに、何が入ってるか分からない宝箱もたまに出てくるんだよ。えへへ。エリザ、面白そうでしょ?」
「ええ。なんだか楽しくなってきたわ」
「よかった。お昼はセラバスさんが作ってくれたお弁当もあるし……今日は張り切って行こうね」
「そうね。ふふふ。いつもキリッとしたセラバスさんのお弁当も、開けるのが楽しみだわ」
エリザは、見習いメイドが急にいなくなり慌てながらもお弁当を持たせてくれたセラバスことを思い出し笑みを浮かべた。
「なぁ、マリー殿? チカバ森のダンジョンなら他にも、人捜しの依頼が出てるぞ? これもついでに受けたらダメなのか? せっかく行くのだ。困っている依頼なら受けてあげたいと思ってな」
セリスが、マントから右手を少し出し依頼書を掴むと、真剣な表情でその依頼書を眺めていた。
「えっと……ああ、それなら期限もないし、大丈夫だよ……基本的には、いくつ受けても問題ないんだ。ただ、早い者勝ちってことになるんだよ。ほら、ここ見て、依頼書の下……星印がありますよね?」
「ん? ああ、三つあるな」
「それは、すでに三つパーティーが依頼を受けているって意味なんですよ」
「ほう」
セリスが感心したように顎を触った。
「一つのパーティーしか受けられない限定依頼書もありますけど、この場合は複数のパーティーであたった方が依頼主側としては効率もいいですからね。
ただ難点として、こういった依頼はなかなか受けるハンターが少ないのもありますけど、他のパーティーが依頼達成していてもわたしたちには分からないってこともあるんですよね……
だからこういった救済の依頼を受ける場合は、複数の依頼を受けるハンターは多いと思いますよ」
「なるほどな。それだと救済依頼は慈善活動に近いな……ふむ。やはりこれも受けようではないか」
「そうですね」
「いいわね。あら、マリー? この薬草の採取は……星が六つあるけど、大丈夫かしら?」
エリザが心配になったのか手に取っていた依頼書を確認して、そう尋ねた。
「うん、大丈夫だよ。そっちは数量を指定されてないし……多分これは恒常依頼だと思うんだ」
「恒常依頼?」
「常にある依頼ってことなの」
「ほう。なるほどな。薬草は調合されれば、薬になるからな。薬だと長期保存もできる、か。ふむ。なかなかハンター活動も奥が深くて面白いな」
三人はチカバ森のダンジョン依頼を二つ受けると、乗合馬車に乗りダンジョン方面へと向かった。
――――
――
「迷宮って、俺の思っていたイメージとだいぶ違うんだな……」
「ん、がう?」
「? がぅ?」
「すまん。独り言だ……」
俺たちは四つん這いになりながら狭い通路を進んでいた。
――しかし、この石畳、不思議だ。少し柔らかいような気がする……
普通なら、石畳の上を四つん這いで進もうなら、膝がすれて痛くなるような気もするんだが、この石畳は全く痛くない。
「はぁ、また広いところに出たが……」
ここの部屋も畳10畳くらいの狭い空間だった。
「また、こいつか……」
この部屋にも、またもや一匹の魔物がいた。その魔物はふわふわと逃げるように宙を漂うと天井にピタッと張り付いた。
――――
――
この迷宮、まともな広さの通路は入り口から伸びた一本道だけだった。
だが、それもすぐに行き止まりになったのだが、よく見るとその行き止まりには二つの狭い入り口があった。
その入り口からの通路は狭く四つん這いにならないと前に進めない。
他に道はないし、罠らしい気配もない、俺たちは四つん這いで、そのまま前に進んだ。
しばらく進むと、畳10畳くらいの四角い部屋に出た。
そこにはふわふわしたボールみたいな一つ目の魔物が一体いるだけで他には何もいなかった。
しかも、この一つ目の魔物、すごく弱い。俺が軽く蹴っただけで泡のようになって消えたのだが、何もドロップしなかった。
――おかしい。迷宮の魔物は何かしらドロップするとマリーに聞いていたんだが……俺の聞き違いか?
その部屋にも、奥に進むための狭い通路への入り口が三つあったので、真ん中の入り口に入った。
それを何度も繰り返しているのだが、途中、選択した通路によってはほふく前進で進まなければならないほど狭い通路もあった。
もしかして迷ったのではないかと少しずつ不安になっていた。
――――
――
「はぁ、またこいつか……面倒だな。すまんが、ニコか、ミコ。どっちかあの魔物を倒してくれないか?」
二人はこくりと同時に頷いた。
「がう。ニコいくがう」
「ずるいがぅ。ミコがやりたいがぅ」
「じゃあ競争がう……いくがうよ」
「わかったがぅ」
俺はこいつを何度も倒しているが、正直、弱すぎて面倒だと思ったが、どうやら二人は違ったらしい。
――そういえば……俺の後ろをついてくるだけで、こいつら、何もしていなかったな。退屈だったのか……
二人はどこか楽しげにスタタタッ、と駆け出したかと思うと左右、二手に分かれ、そのまま壁を登りきったところで二本の閃光が走った。
――ほう……
「ニコか……」
俺が思った以上に速かった二人に感心していると、ニコとミコが宙をくるくると回転し、両手を挙げて着地した。
ふわっ
「二人ともよくやっ……」
着地した瞬間、二人の可愛いワンピースがふわりめくれた。
――ぶふっ!?
一瞬だったが、二人が履いていたパンツには見覚えのあった。
――なぜ二人がそれを……
それは、エリザとマリーが俺のためにとよく履いてくれていたセクシーパンツによく似ていたのだ。
――見てない。俺は何も見てない……
「ニコの勝ちがう」
「がぅ。あとちょっとだったがぅ」
表情は読みにくいが、おそらく喜んでいるらしいニコと、肩を少し落とすミコだったが、そのニコの頭にチャリンと何かが落ちてきた。
「がう、クロー? 何か落ちてきたがうよ」
俺が二人のパンツに少し動揺している間に、ニコが首を捻りながら落ちてきたモノを拾っていた。
二人には、ここではクローと呼ぶように言い聞かせている。ちなみに俺はニコスケとミココロをニコとミコと呼ぶようにした。
本名は避けた方がいいだろうと思った俺の勝手な判断だ。
二人は微妙な顔をしていたようにも感じるが、迷宮内だけのことだと納得してもらった。ここで、クロー様なんて呼ばせられないからな。
――ふう。
なんとか平静を取り戻した俺は、ニコが拾ったものに目を向けた。
「それはなんだ? ニコ、ちょっと見せてくれ」
「がう」
ニコはこくりと頷くと、とて、とて、とてと可愛らしくかけてきた。
先ほどの戦闘スピードとは全然違うが、可愛いからとりあえず…………セクシーパンツは……見なかったことにして頭を撫でてやる。
「ニコ、ありがとうな。ふむ。これは……銅貨だな。銅貨が二枚か……ここの迷宮はお金をドロップするのか……」
俺が少し頭をひねっていると――
「がぅ、ミコも……がぅ」
ミコがちょこんと部屋の隅に座りんでいた。
――あちゃ……
「ほら、ミコ」
俺はミコの頭も撫でてあげようとこっちに来るように言うが、ミコがこない。
仕方なく、俺の方がミコの傍に歩み寄ろうと思っていたところに、また、ふわふわ一つ目の魔物が一体、湧い出てきた。
「がぅ。ミコがやるがぅ」
少し気合いの入ったように見えるミコがすっくと立ち上がると一瞬で魔物を通り越した。
ちゃりん!
魔物はまたお金をドロップした。今度は銅貨四枚だった。
「クロー……はいがぅ」
嬉しそうに感じるミコが、お金を両手で握って持ってきたので、その頭を撫でてやった。
「ああ、ミコもありがとうな」
これで先に進めると、少しホッとしたのもつかの間――
「がう。ニコの方が少ないがう」
なぜだが、ダガーを両手に構えたニコが先ほど魔物が湧いたあたりでじーっと待ち構えて動かない。
「ニコ、気にしなくていいんだぞ」
ニコはそれでも首をブンブンと振って動かない。
――おいおい……
その後、すぐに魔物が湧き出てくれたのはよかったのだが、結局、なんだかんだで、この部屋に留まり何度か魔物を倒すハメになった。
最後は俺が倒して無理やり二人の何の争いか分からない争いを終わらせたのだが――
ここの魔物、なぜか俺が倒すと何もドロップしないことが分かった。
ニコとミコが倒すと簡単にドロップする。多いときで六枚の銅貨をドロップした。
――それが分かっただけでもよしするか。
「ニコ、ミコ。俺たちの目的は最下層だ。そろそろ先に進むぞ……」
「がう」
「がぅ」
二人もようやく納得してくれたところで、俺の耳に女ハンターの二人の話し声が聞こえてきた。
「やだ〜、ここ出口が狭くなってるよ〜」
「またお尻が引っかかったのかよ。ほら、私が押してやるから……」
「痛い、痛いよ。ゆっくり押して……」
「モモのお尻が大きいから悪いんだ……我慢だ、我慢。ほら……よっ!」
「ぅぅ……いたたた……ラン、痛いよ……もっとそっと押して、そっと……あっ!」
「ん? ……ぉ!?」
その話し声の方に視線を向ければ、通路から一人の女ハンターが上半身だけを俺たちのいる部屋の方に出していた。
俺たちが通ってきた通路とは別の通路から来たようだが――
――こ、これは……!?
四つん這いの状態になっていた女ハンターは上衣の首元がゆるゆるだった。
その首元の隙間からは重力で垂れ下がり、ゆらゆら揺れている生のおっぱいが俺の目に入った。
――け、けしからん。
「そ、そこのお兄さん!!」
その女ハンターが顔だけを俺に向け、片手を挙げて振っている。
ふるふるふる。
大きめのおっぱいも、それに合わせてゆらゆら揺れている。
「そこのお兄さんだよ。お兄さん。人のおっぱいを見てる、君だよ君。お兄さんだよ」
――ふむ。どうやら気づかれていたらしい。
「俺のことか?」
バレてしまったので堂々とその女ハンターのおっぱいを見る。
「そうだよ。他に男の人なんている? もう、人のおっぱいばかり見てないで、少し引っ張ってほしいんだけど……」
――いいおっぱいを見せてもらったしな。
決して女の柔肌を触りたいと思ったワケではない。
「ふむ。いいだろう……」
俺がそう言った時には、ニコと、ミコがその女性の手を握り引っ張っていた。
「ニコにまかせるがう」
「ミコにもまかせるがぅ」
「お、おい。ニコ、ミコ!?」
――女の柔肌……
「あら、可愛い子たち、いたんだ。引っ張ってくれるなら誰でもっ……あぁぁぁぁ!! いたたたたたぁぁぁぁぁ……」
女ハンターの悲鳴がしばらくの間、迷宮内に響いた。
「あ〜、痛かったよ〜」
「モモは少し痩せないとダメね」
「お尻だけだもん」
ニコと、ミコに引っ張られた女ハンターがお尻の側面をさすりながら立ち上がると、通路の後ろからも押していたらしい別の女ハンターがこの部屋の中に入ってきた。
「手間とらせて悪かったな……しかし、こっち側に男がいるとは思わなかったわ」
――こっち側?
これまたご立派なおっぱいをした女ハンターが頭を掻きながら俺たちに礼を言った。
「お兄さんかと思ったけど、お父さんだったんだね」
「別にいいだろう……」
――本当は違うが、ここはスルーだ……
「お父さんちがう……です」
「ちがぅ……です」
「「え、え!?」」
女ハンターの二人が俺を二度見した。
「お前たち急に何を、言うんだ……俺はお前たちの「「番がう」」……だろ」
「「「はっ?」」」
女ハンターは壊れたロボットのように俺の方を向き、俺も思わず自分に指を指す。
ニコとミコがこくこくと頷いている。
「こ、こら。ニコ、ミコ。お、お父さんに向かってな、何を言ってるのかな?」
――だ、誰だ、こんなお子様に番なんて言葉を教えたやつは!! とりあえず、ここはお父さんということで誤魔化した方がまだマシだろう……
「お父さん、違うがう……」
「違うがぅ……」
「「番がぅ」」
二人がブンブンと首振って全力で否定し、俺の両足にそれぞれしがみついた。
――わざとか? わざとだろ? これ。
「モモ、人の愛し方って色々あるんだよ。きっと……」
「そうだね。ラン」
二人から汚いものを見るような目を向けられた。
「……邪魔したら悪いし、私たちはそろそろ行こうか、モモ」
「うん。そんだねラン」
「ま、待て……俺は、お父さんだからな」
「お父さん違うがう……」
「違うがぅ……」
「まあ……なんだ。ほどほどにしてやるんだぞ。ほら、モモ早く行きな」
「うん。あっ、ちょっとラン押さないでよ〜」
女ハンターの二人は逃げるように、また別の通路に四つん這いで入っていった。
「お、おい。待て、逃げる……なよ……」
女ハンターは逃げるように慌てて通路に入っていったため、短めのスカートが捲れるのも気にした素振りは見せなかった。
――ほう。黒と白か……
「けしからん奴らめ」
俺はうんざりしていた狭い通路も悪くないと思った。




