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【契約者より感情値を獲た】
【支配地より感情値を獲た】
翌朝俺は、いつもの囁きで目を覚ました。
――この囁きにも慣れたものだが、もう少し可愛らしい声になるといいのにな……
【……善処します】
――……ふむ。どうでもいいことには返事あるのか……はぁ、しかし、善処します、か……
俺の頭に苦い記憶が過る。
――嫌な言葉だな……
【……前向きに検討します】
――ん? ……今のも届いていたのか……悪かったな……
【……ご要望は……承認されました】
――へ?
悪魔の囁きの無機質な感じの声から、堅い感じのする事務のお姉さんっぽい声になった。
――囁きが変わった……しかし……もっと色気も……欲しかったが……まあいいや……
【……承認いたしましたわよ。ふふふ】
今度は事務のお姉さんっぽい声から妖しいく色っぽい声へと変わった。
だが、この色っぽい声は聞いただけで背中にゾクゾクと悪寒が走る。
――いや、やっぱり元に……
【……拒否いたしますわ。ふふふ】
――ぬおぉぉ、な、何だ。寒い……寒いぞ……なんだこの寒気は……
【ぷっ、はははは……ほら。じゃあ、ボクがキミだけ特別にささやいてあげる】
今度は、可愛いけど子供っぽい感じの声が聞こえてきた。
少し上から目線にな感じもするが先ほどの声より……少し、いや、かなりマシだ。
――す、すまん。
【ぷっぷぷ……はははは……】
最後に、明るく笑う可愛い声が聞こえ、それっきり囁きは聞こえてこなくなった。
俺は悪魔の囁きが少し恐ろしくなった。
「ふぅ」
「ん? 主殿。起きたのか?」
俺の胸の辺りからセリスの声が聞こえた。
「ああ、おはようセリス」
俺はセリスにそう言うと、尻尾を使ってセリスの頭を撫でる。
「うむ。おはよう主殿……」
セリスはそのまま起き上がるかと思ったが、起きない。俺がセリスの頭を撫でたからなのか、再び俺の胸に顔を横に押し付けてきた。
撫でられている頭が気持ちいいのか、セリスは鼻歌まで歌い笑みを浮かべている。
――ふふふ、俺の尻尾さばきもうまくなったもんだ……
これは、両腕がホールドされ使えなくなった俺が、どうにかしてみんなの身体を触れないかと考えた苦肉の策だった。
だが、これが案外、慣れると勝手がよく、手と同じように使えるし、集中すればその感触も感じられる。おっぱいも触れるしすごく便利だった。
「セリスそろそろ起きなくていいのか?」
「主殿……すまん。あと少しだけ……」
この時間になると、いつもセリスは起きている。朝の素振りをしていた時間だったから当然なのだが、俺の妻になってからは俺が起きるのを待っている可愛いやつなのだ。
そんなセリスは俺に抱きつく形で寝ている。右腕をエリザ、左腕をマリーが抱き枕にしているので必然的にセリスはそうなる。
「うーん。主殿の匂い……いい匂い……」
俺の腰にしっかりと両腕を回しがっちり抱きついて寝れるこの体勢をセリスも気に入っているようで、よく顔をぐりぐりと俺の胸に押し付けてくる。
俺も柔らかな肌とおっぱいに包まれて気持ちいいので、文句なんてない。むしろ大歓迎だ。
「ふむ……」
――俺ってそんなに匂う……のか……臭くないよな……
少し自分の匂いを心配していると、セリスが名残惜しそうに上体を起こし豊満なおっぱいを揺らした。
「セリスちょっと待ってくれ。いつものだ」
「主殿……すまぬ」
『我は所望する』
俺は尻尾をセリスのおっぱい、エリザ、マリーの順に触れ心身ともに回復するよう所望魔法をかけていく。
――ふむ。皆のおっぱいは今日も元気そうだ。
別に触れなくてもできるのだ、せっかく傍にいるのだ、なら、触った方がいいに決まってる。
「ああ……主殿の回復魔法は……心地よいな……」
まあ、実のところ、この魔法が必要かどうかは今のところ分からない。妻たちも身体に異常はないと言っている。
だが、人族が悪魔界にきているんだ、異常が出てからなんて俺が嫌だからな。
ベッドの下に用意していた美綺の鎧のブラとショーツの部分を身につけたセリスが素振りを始めた。
シュッシュッ!!
本当はセリスの素振りを眺めていたいのだが、俺の両腕はエリザとマリーによってがっちりホールドされている。
――実に残念だ……そのうちどうにかしたいものだ……
シュッシュッ!!
シュッシュッ!!
しばらくセリスの素振りの音に耳を傾けていると、エリザとマリーが眠そうな目を擦りながら、眼を覚ました。
「おはようクロー」
「おはよう」
「エリザ、マリーおはよう」
エリザとマリーの二人はいつものように俺の頬に口づけすると上体を起こし、セリスに挨拶した。
――――
――
「今日から三人でハンター活動するんだったよな?」
「うむ。無茶はしないようにする」
「気をつけます」
「ふむ。そうしてくれると俺も嬉しい。それでだ、昨夜も、話した通り俺も数日視察に行ってくる」
「急に決まったのだな……」
「クロー、数日いないんだ……」
「寂しいわね……」
妻たちの顔に少し翳りが見える。しゅんと肩を落とし少し元気がなくなったように感じられる。
――ふむ。
「……なるべく早く戻ってくる。だからエリザ、マリー、セリスも気をつけるんだぞ……
それと……何かあればラットとズックを頼ればいいんだが……」
俺は三つのイヤリングを取り出した。小さな白ネコのイヤリングだ。
「わぁ」
「可愛い……わ」
「なんと、こ、これは……聖獣様……」
「これには言葉のみを、俺に転送する魔法を付与している。何かあればこれも使ってくれ。俺も念話をするからな……」
「はい」
「うん」
「うむ」
妻たちが口元を緩め片方の耳にそのイヤリングをつけたその時――
「ちょっとクローさま!! あたし聞いてないんですけど……」
ドアを勢いよく開けたナナが俺の姿を見つけるやいなや背中にがっちりとしがみついてきた。
むにゅん。
「あたしも行く。絶対、絶対、ついていくからね」
「ナナ殿?」
「「ナナさん……」」
ナナの腕が俺の首に回され締め付ける。珍しく不安げな表情をしたナナに妻たちも言葉に詰まった。
「ナナ。ちょっと苦しいだろ……」
「ねぇねぇ、いいでしょう?」
「ナナ。今回はサクッと行って用をすませたら転移魔法で帰ってくるつもりなんだ。そんなに時間をかけるつもりはないんだ。だから、ナナにはあとのことを頼みたい」
――連れていってやりたいが、行ったことのない迷宮の最深層……何があるか全く予想できん。危なかったら速攻で逃げるつもりだ……だから誰も連れていきたくないんだよな……
「え〜、でも……あたし……クローさまについていきたいよ〜」
むにゅ。
ナナがぎゅぎゅっ、としがみつく腕に力を入れた。
「ナナ様……ダメですよ」
それを、いつの間にか俺の傍まできていたセラがあっさりと引き離した。
「むぅ! 出たな。セラバス!!」
引き離されたナナが頬を膨らませつつ、すぐに俺の右腕にしがみつき小さく舌を出した。
セラは無表情な顔で首を振ると――
「ナナ様はクロー様の一番の配下ですよね? だからこそ、留守の間この支配地を喜んでお守りするのがナナ様のお役目なのではないですか? クロー様もそれをお望みなのでしょう?」
「うっ……」
ナナが潤んだ瞳で俺を見上げてくる。
――そんな顔をされると……連れていきたくなるじゃないか……くっ、たしかに最近は忙しくて構ってやってない気がしないまでもない。どうする……危なそうだったらどこかで待機でもさせとくか……はぁ、仕方ない……
俺はナナの頭に手を乗せると――
「……ナナ、ついてくる……」
「クロー様」
俺の言葉を遮ぎったセラが俺を見て首を振る。しかも、その背後からは尋常じゃないドス黒いオーラが溢れ出している。
――そ、そうか……そうだよな。セラは支配地を疎かにするなの言いたいのだな……
「な、ナナ、すまん。やはり支配地を疎かにできん。だから、今回はナナに留守を任せてもいいか? 俺の代行だ。重要な役目だぞ」
「クローさまの……代行……えへへ。代行するよ……」
ナナはしょんぼりと肩を落とすも、俺の代行という言葉に反応して留守を預かってくれることになった。
さらにライコには、俺の分の願い声を対応してもらうので、そのしわ寄せが配下全員にいくことが今になって分かった。
――ぐぬっ。
結局、みんなに借りを一つ作るという屈辱的な形で外出許可を得た。
――貸し一つってなんだよ。それに皆のあの含み笑み……むむ。
ああ、モヤっとするわ……くそ〜!
――――
――
「ふははは、なんだこの解放感は……」
俺はみんなに後のことを任せると、郊外に転移し、一番近い迷宮へと飛び立った。
「ふははは……俺は自由だぁ!!!!」
くるくると高速自転しながら飛び回る。
「最高だぁぁ!! タゴスケ……やるではないが……ふふふふ。まさか奴から買った地図がこんなところで役に立つとは思わなかったわ……ふははは……」
目指す方向も分かっているので、俺はぐんぐんスピードを上げていく。
「ふははは、俺は風だ。風になっているのだ……ぷっくっくっく」
平地、森、川と景色がどんどん流れていく。
――最高だ!!
「あ〜、そういえば。チビスケとチビコロの奴、せっかく傍に寄ってきたから、連れていってやろうかと思ったのに、肉だけ食ってどっか行きやがった……
ふむ。あいつらなかなか、すばしっこいからそのうちに使い魔にでもしてやろうか……」
地図を頼りに迷宮都市に向かって飛び、少し物思いにふけっている間に、それらしい都市が見えてきた。
「おお、あれか? あれが迷宮都市だな……ふむ。思っていたより、近いんだな……それに……」
王都より少し小さく感じるが、それでも都市と呼べるほど栄えているように見える。
「おっ!? これが迷宮……か……」
試しに上空から眺めてみると、迷宮都市の中心に青い渦がぐるぐると渦巻いている。その周りを高い壁が覆い、北と南の二箇所から入れるようになっていた。
「ふむ。この感じは……やはり他の悪魔の支配地になっているな……うむ。面倒だな……」
俺は念のために遮断魔法を再度掛け直すと――
「これでいいだろう。よし、あの辺りなら死角になってるし大丈夫だろう……」
迷宮の入り口の近くに降り立った。そして俺は何食わぬ顔で迷宮の入り口に並んだ。
――よし。成功だ。
俺は遮断魔法を解き、悪気だけ抑えると、より人族に近い気配を真似たところで安心するも周りの様子が少しおかしい。
――む? なぜだ? なぜ女ハンターしか並んでいない……
一瞬だけ女ハンターたちから奇異な目で見られるもすぐに納得した表情をして興味をなくしていく。
――どういうことだ?
結局、意味がわからないまま、迷宮に入る番がきた。
迷宮に入るにはハンターカードを提示して、銅貨二枚の入場料を門番に支払えばいいらしいことは、後ろから見ていたので分かっている。
――何も問題ない。
「お前は、こっちの門でいいのか?」
――こっち? 意味が分からない?
迷宮の入り口を守る門番が俺を不思議そう見た後、視線を下に落とした。
「……なんだ、子連れか……女の子、なのか……なるほどな……」
「む? 子連れ? 女の子? ……俺はひと……」
そう言いつつも、俺は門番の視線を追って視線を下に向けた。
「なっ! ニコ……ミコ……」
メイド見習いのニコスケとミココロが俺の足元にいる。こいつらも気配を消しついてきていたのだろう。
二人はちゃんと人化して可愛らしいワンピースを着ている。
「ついてきたのか……」
二人は相変わらずの無表情だがこくこくと頷いて俺のズボンの縁を握った。
俺の目には尻尾ではないが一つ結びにした髪がピョコピョコ嬉しそうに揺れているように感じた。
「まあ、子連れでも地下一階なら大丈夫だろう。入場料も……負けといてやるよ」
門番は俺の背中をポンッと軽く叩くと「頑張れよ」と同情じみた優しい視線を向けてきた。
「あ、ああ」
俺はそう返事をするだけで精一杯だった。
ニコ、ミコがついてきました。
女ハンターのみ並ぶ入り口って何だろう……(¬_¬)
あぅ、しかし、花粉症が……




